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第一章

第17話:平穏無事

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 魔虎王に姿を見せてもらってから八日目になります。
 七日七晩寝込んでいたウィルズ第四王子が、ようやく夜会に現れました。
 本当はもう少し早く回復していたようですが、怖くて閉じこもっていたそうです。
 ウィルズ第四王子の従者が正直に報告して謝っていました。
 この従者こそカーネギー王国が本気で送り込んだ密偵でしょう。
 絶対に私を怒らせてはいけないと判断して、正体を現したようです。

「タマ、今日は何が食べたいの、レバニラ炒め、それともタンスモーク」

「ミャアアアア」

「分かったわ、両方作ってあげます」

 定番中の定番で何の面白みもありませんが、前世の知識を使った料理で餌付けして、魔獣を手懐けたという落ちです。
 残念ながらこの世界には色々と発明されていない調味料があり、特に味噌や醤油は全く発明されていなかったのです。
 唯一古代ローマで作られていたアンチョビの内臓などから作った魚醤、ガルムのようなモノがあるくらいでした。
 それを麹を発見して味噌にまでするのは結構時間が掛かってしまったのです。

「料理長を呼んでください、タマのメニューを伝えます」

「はい、マリーナ閣下」

 セバスが率先してテキパキと動いてくれます。
 アリスナ辺境伯家にとってタマがどれほど大切なのかよく理解してくれています。
 セバスが率先して動いてくれている限り、他の家臣がタマに無礼を働くことはありませんから、とても助かっています。
 ただ、まあ、本能的に恐怖してしまう者がどうしても出てしまいます。
 家臣はもちろん、人質同然にここにここに残っている貴族子弟も……

「タマ、今日も隠形してくれるかしら」

「ミャアアアア」

 タマにとっては隠形など日常の事なのでしょう。
 いつも簡単に応じてくれますが、私は気にしてしまいます。
 人間ごときの都合で、でろと言ったり隠れろと言ったりする事が申し訳ないです。
 それに、せっかく表に出すことができたタマの姿を見れないのも寂しいです。
 ただタマが表に現れた事で、私の機嫌を損なうまいと気を使う貴族子弟たちが、本能的な恐怖を押し殺して夜会や昼食会に出るのが可哀想でもあります。

「ああ、セバス、味醂の開発はどうなっているかしら」

「新たな種類の物が試作されました、今日にでも味見なされますか」

「ええ、頼みます、タマの食事に幅を持たせたいの。
 料理酒として使うにしても、栄養酒として使うにしても、早く完成させたいわ。
 いえ、何も一つに決めろと言っているわけっではないのよ。
 酒蔵によって色々な味があっていいと思っているの。
 皆が切磋琢磨して、より美味しい味醂を創り出して欲しいのよ」

「分かっております、マリーナ閣下。
 味噌の研究進めさせております、いずれ醤油も完成するでしょう」

「ええ、期待しているわ」
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