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第2章

30話

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「姫様。
 一曲踊って頂けますか」

「まあ。
 珍しいことね。
 でも私でいいの?」

「姫様に踊って頂きたくて、命懸けで戦いました。
 姫様に捧げた剣、見て下さいましたか」

「ええ、見させてもらいましたよ。
 あの大軍の中を、無人の野を行くようでしたね。
 でも、剣ではなく槍だった思うのだけれど」

 大公軍は勝利の勢いで帝国領を侵攻した。
 外様貴族士族の領地を避けて、直轄領と譜代貴族士族領を占領した。
 抵抗する者などいなかった。
 皆情けなく逃げた。
 護るべき領民を捨てて。

 大公軍は逃げた貴族士族の城や館を接収した。
 城内に蓄えられていた兵糧と武具も接収した。
 金銀財宝は全て持ち出されていたが、大公軍には不要だった。
 大公軍に必要なのは、兵糧だった。
 領地を占領したら、領民を守る責任が出てくる。

 帝国の圧政で民は飢えている。
 兵糧を接収出来なかったら、大公領から輸送しなければいけない。
 輸送中を帝国軍に奇襲されると大損害を被る。
 だから大公領から占領地への輸送量は少なければ少ないほどいい。
 今回は予定以上の兵糧が手に入り、参謀達は安堵していた。

 それもあって、勝利の宴を開くことになった。
 占領地で舞踏会など、油断としか言いようがなかった。
 だがこれも策略だった。
 帝国軍を呼び寄せるためだった。
 油断など全くなかった。

 だが愉しまなければ損だった。
 警備や斥候には全力を注いだが、舞踏会も楽しんだ。
 レーナ公女は勿論、戦闘侍女も綺麗に着飾っていた。
 従軍に舞踏会用の衣装は持ってきていなかったが、抜け殻になった城や館には、民を虐げて得た金で買い集めた衣装が沢山あったのだ。

 そんな衣装を戦闘侍女が急いでサイズ合わせした。
 楽器は陣楽器を流用して間に合わせた。
 予定にない急な舞踏会だったが、騎士達は愉しみにしていた。
 戦闘侍女と踊れるのも楽しみだが、レーナ姫と踊るのを愉しみにしていた。
 だが踊れる者は限られていた。

 武勲をたてた者しかレーナ姫とは踊れないのだ。
 今回の戦いで圧倒的な武勲をたてたのは、テオ・メラ―だった。
 最初の踊るのも、最後に踊るのもテオ・メラ―だった。
 帝国領を占領する戦いでも、テオ・メラ―が抜群の武勲をたてた。
 フィン・ユングとアローン・ワイスも奮戦したが、テオ・メラ―には及ばなかった。

 三人が最初にレーナ姫を助け支えた。
 それに間違いはなかった。
 だが、他の元暁の徒士団員もレーナ姫に剣を捧げていた。
 いや、恋い焦がれていると言ってもいい。
 共に大魔境で戦った三年で、双子と言う嫌悪感はなくなっていた。
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