僕を拾ったのは大富豪のお嬢様

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誰なんだろう、あの人…

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 「ピーッ!」

 ホイッスルが鳴り、試合終了。

 二対一。

 山取東高校は勝利を収めた。

 両校の選手が握手を交わし、ベンチへと戻る。

 和田はベンチへ戻る部員を握手で労い、言葉を掛ける。

 
 「中泉、良い動きだったぞ。この調子で頑張れよ!」


 和田の言葉に修二郎は笑顔で「はい」と応える。そして、ベンチへ腰掛け、水筒を傾ける。

 修二郎の目の前に映るのは数分前まで立っていたピッチ。その景色は見慣れているはずなのだが、何故か新鮮に映っていた。


 水筒をバッグへしまい、立ち上がる修二郎。そして、練習場の外へ視線を向ける。

 あの二人の女性は修二郎を見つめている。

 一人は修二郎の知る人物。もう一人は初見の人物。修二郎の足は無意識のうちに自身の知る人物の元に向いていた。


 「いらしてたんですね」


 笑顔の修二郎の視線の先には。


 「はい。近くまで来たものですから」

 
 笑顔の千弦の姿。

 二人はしばらく言葉を交わす。もう一人の女性は二人の姿を見つめる。修二郎と千弦はそのことに気付くことなく、笑顔で言葉を交わす。

 
 しばらくして、練習場を出た舞が修二郎と千弦を見つめる。その瞬間、舞は無意識に顔を俯ける。

 
 「舞、どうしたの?」
 
 「ううん。何でもない…」


 女子サッカー部員の問い掛けにどこか暗い声で答えた舞は練習場へと戻り、タオルで顔の汗を拭った。


 
 「お嬢様、そろそろ…」


 運転士が恐る恐る声を掛けると、千弦は寂しげに頷く。数秒間顔を俯け、修二郎を見る。


 「次の予定がありますので、ここで。夕方、マンションへお伺いいたしますね。それでは」


 千弦は頭を下げ、車へと向かう。彼女の背中を見送った修二郎は練習場へ戻る。

 旭はタオルで汗を拭うと、修二郎を見つめる。


 「いいなあ、修二郎…」


 旭の羨ましそうな声と表情。修二郎は一瞬だけ彼へ視線を向けるとすぐに練習場の外を見つめる。修二郎の視線の先には初見の女性。彼女は修二郎を見つめる。

 それからすぐに、彼女の元に一人の男性が。彼女よりも一回りも二回りも。いや。


 あの人ももしかして…。


 修二郎の読みは当たっていた。

 女性はしばらく男性と言葉を交わすと、再び修二郎を見つめる。そして、僅かに口元を緩め、その場を後にした。


 修二郎の視線は無意識に彼女を追う。そして、姿が見えなくなったと同時にベンチへと腰掛けた。


 誰なんだろう、あの人…。


 空を見つめながら考える修二郎。

 すると。


 「モテモテだな」


 旭はちょっかいを出すように言う。修二郎はどう応えてよいか分からず、空を眺める。


 誰なんだろう…。


 修二郎の問いに、空は何と答えたのだろうか。
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