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第二章

国立公園

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マーガレットはギルバートに連れられて、シルベスタ国立公園に来ていた。

そこは大きな公園なのに、人は疎らだった。


「この公園は皆に開放されているのだが、あまり人気のない場所でね…さぁ、石碑は公園の中央にあるから、ゆっくり歩きながら行こう」

ギルバートはそう言って、ゆっくりと歩き始めた。

色とりどりに咲く綺麗な花や、緑の生い茂った草木。ここだけ時間がゆっくり過ぎていくような、そんな公園だった。

暫く歩くと一面に青い花が咲き乱れていた。


「こんなに素敵な公園なのに、訪れる方は少ないのね…」

マーガレットは綺麗に咲く青い花を見て、そっとため息を吐いた。

「わざわざ訪れる人もいないのだろう。国が大きくなると、自然よりも発展に力を入れやすいからね。貧しくて生きる事に精一杯の者もいる。皆は働くばかりで、自然を眺めて過ごす余裕もないのだろうね。私は民達の心に余裕ができて、今の私達のように、大切な人とゆっくり過ごせる時間が持てる、そんな国にしていきたいと思っているよ」

「ご立派なお考えだわ。その様な国になると良いわね」

マーガレットはギルバートに感心しながらも、老人の言葉を思い出していた。


(当時の人々も心に余裕が無かったのかしら…?だから欲張ってしまったのね…あら?どうしたのかしら?)

ギルバートは歩きながらも、どこか落ち着かない様子だったのだ。

ギルバートが立ち止まったので、マーガレットも歩くのを止めた。

「マーガレット嬢、もう一つの石碑は少し遠い場所にある。その…もし良ければ一緒に…」

― ピーピー


ギルバートが話し終わる前に聞き覚えのある鳴き声が聞こえたマーガレットは、そちらに意識を取られてしまった。

「まぁ、ユース。ここに来てはいけないわ」

ユースがマーガレット達の頭上を飛び、石碑の上に止まっていた。

マーガレットは焦った。

国立公園には飼われている動物は入ってはいけないのだ。しかも、ユースは石碑の上にいる。

「ユース、石碑の上に乗っては駄目よ。こちらにいらっしゃい」

― ピー

ユースはマーガレットの肩に飛び乗った。

「この子は宿に残して来たのだけれど…」

申し訳ないと謝るマーガレットに、ギルバートは笑って返事をしたが、遠い目をしていた。

「鳥だからね、仕方がないよ。きっと飛んで来てしまったのだろう。はははは、はぁ…」

「もう、仕方のない子ね。勝手なことをしては駄目よ?」

ピーピーと鳴いて頬擦りするユースに、マーガレットは怒れなくなってしまった。


(あら?そう言えばギルバート殿下はまだお話の途中だったわ。申し訳ない事をしてしまったわね…)

「ギルバート殿下、先程のお話は途中でしたでしょう?お聞かせくださるかしら?」

マーガレットはギルバートに話の続きを聞いたが、ギルバートは教えてくれなかった。

「いや、大したことでは無いよ。それよりもこれが二つ目の石碑だよ。同じ様な古代文字が書かれているだろう?残念ながらこれも解明されていないけどね…」

二人で石碑に近づいて観察した後、ギルバートがマーガレットに言った。

「さて、今日はもう帰ろうか?」

マーガレット達はユースが飛び入り参加してしまった為、すぐに宿に戻ることにしたのだった。


(未だに解明されていない古代文字の書かれた三つの石碑だなんて、まるで冒険の物語のようだわ。もう一つ見つけたら、何か面白いことが起こるのかしら?)

マーガレットは馬車の中で妄想を膨らまし、わくわくとしていた。

そうしている内に馬車が宿の前に着き、ギルバートのエスコートでマーガレットが馬車から降りた。


その瞬間、マーガレットは誰かに抱きしめられてしまった。

(!!)


「メグ!お待たせ!お父様が会いに来たよ!」

マーガレットを抱きしめたのはビクトールだった。

ビクトールは三週間掛かる旅程を、僅か半分の時間でシルベスタに来ていたのだ。

「お父様、驚かせないで下さいまし。心臓が止まってしまうかと思いましたわ」

マーガレットはビクトールにギュッと抱き着いて言った。

「でも、こうしてシルベスタ帝国でお父様とご一緒出来るだなんて、嬉しいですわ」

マーガレットを抱きしめたまま、ビクトールは低い声でギルバートに挨拶をした。

「これはこれは…皇太子殿下では御座いませんか。私のマーガレットがお世話になったようで、大変光栄に思います。ですが、これからは私がおりますので、これ以上お気になさらずとも宜しいのですよ?」

「随分と早く着いたようだね。無理をする必要は無かったのではないか?」

ギルバートの言葉を物ともせず、ビクトールは冷たい声のまま言った。

「なに、愛のなせる業でしょう。お若い皇太子殿下にはまだ出来ない事でしょうな。では、私共はこれで失礼させて頂きますよ。皇太子殿下にお礼申し上げます」

マーガレットは二人のやり取りの中に何かを肌に感じて鳥肌がたった。

(なんだか寒くなってしまったわ…上着が必要だったのかしら?今日は暖かくして寝ましょう。風邪を引いてしまっては大変だわ)

「ギルバート殿下、私はこれで失礼させて頂きますわ。本日もとても楽しかったですわ」

「!」

ビクトールが驚いてマーガレットとギルバートを交互に見ると、ギルバートはシタリ顔をして鼻で笑った。

「マーガレット嬢、また誘うよ。ビクトール殿もまた会おう」

そう言ってギルバートは馬車に乗り込み、城へと帰って行った。


「メ、メグ?どうして皇太子殿下の名前を呼んでいるんだい?」

ビクトールは震える声でマーガレットに聞いた。

「ご本人様がそう呼ぶよう仰いましたし、お母様にもご希望に沿うよう言われたのですわ。ギルバート殿下とは友人になりましたの」

「何と言うことだ…メ、メグ?お父様は良くないことだと思うよ?不敬罪に当たってしまうよ。今すぐに止めた方が良いよ。そうだろう?」

未だに震えた声で話すビクトールの意図も分からず、マーガレットは体調が悪いのだと心配した。

「お父様、先ずは部屋に戻って御身体を休ませましょう?お風邪を召してしまっては大変だわ」


マーガレットと別れてから部屋に入ったビクトールは、セバスを呼び出して子供のように当たり散らした。

「マーガレットを悪い虫から遠ざけるのが君の仕事だろう?これは職務怠慢だよ」

(そんな事を言われたって…相手は皇太子殿下なのに、どうすれば良かったと言うんだ…)

困惑するセバスにスザンヌの助け舟が入った。

「良いではないですか。マーガレットは楽しそうよ?」

「スザンヌ、君もだよ。あの男の名前を呼ばせて…しかも、いくら護衛や使用人がいるからと言って、二人で外出させるだなんて…あぁ、私のメグが…」

「あら、見ていて面白いじゃない?マーガレットが笑っているのだから、許してあげましょう?」


誰にも賛同を得られなかったビクトールは夜な夜な一人で考えていた。

(このままでは駄目だ…何かいい策はないだろうか?メグをあの男から離さないと!)

何かを閃いたビクトールは人が寝静まる深夜にセバスを呼び出し、一つ頼み事をした。

セバスは無表情のまま部屋を出た。そして、朝日が登る頃に何処かへ行ってしまった。


(何故ビクトール様はマーガレット様が絡むとあんな風になってしまうのだ…)

セバスは出来る限り早く馬を走らせていた。
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