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7.ざくろ
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先端の棘のようなものを添えられていたナイフで落とし、十字に切れ込みを入れる。そうして切れ込みを開くように、ぱかっと手で割った。
中から現れてきたのは、血のように赤い小さな粒。正直あまり美味しそうには見えなかった。アズラク様は慣れた手つきでその赤い粒を取り出すと、口に運んだ。
「やはり美味いな」
好きだというのは本当なのだろう。ひどく手間に見えるのに、アズラク様は小さな実を大きな手でちまちまと取っては食べている。時々滴るものが果汁なのだと分かっていても、血のように見えてしまった。
「ほら」
果汁で赤く染まったアズラク様の指が唇に触れた。わたしも食べてみろということらしい。
恐る恐る口を開けて、舌でその指を舐めた。
「……ん」
赤い粒を噛むと、ぷちんと弾けて瑞々しい果汁が出てくる。その甘酸っぱさに唾液が溢れて、喉の奥がきゅっとなる。美味しい。
「気に入ったようだな」
アズラク様は得意げに、また赤い実を掬って差し出してくる。促されるままに、その指を舐める。
「これはざくろというんだ」
「ざくろ……」
名前すらも耳にしたことはなかった。こんな美味しいものを、わたしは今まで食べたことがなかった。
結局そのまま、わたしはアズラク様に残りのざくろを食べさせてもらう羽目になった。アズラク様もお好きだと言っていたのに、一人で全て食べてしまった。
「すみません……」
「謝ることはない」
言うが早いか、アズラク様は唇を重ねてきた。唾液が混ざり合って一つになって、舌の根を強く吸われる。深い口づけに、食べたばかりのざくろの味も全て奪い取られていくかのよう。
「俺はこれでいい」
そう言って手の甲で口元を拭った。それだけで頬が熱くなってしまう。
熱に浮かされたようにぼんやりする頭で考える。
同じ果実を分け合って食べても、わたし達は同じようにはなれない。肌の色も、目の色も。生まれも境遇も、本当に何もかもが違う。
こんなところにわたしはずっと居ていいのだろうか。そう思ってしまう。
「俺を前にして別のことを考えていられるとは。いいご身分だな、お前も」
上の空だったことを責めるような口調。けれど声音はどこか楽し気で、薄い唇は美しく弧を描く。今日のアズラク様はとても機嫌がいいらしい。
わたしは彼に捕食される側だ。悪魔の一族を取り巻く事情を知っても、これだけは変わらない。
「そんなつもりは……」
背けた顔に手を当てられてまた見つめ合う。一瞬だけ、その澄んだ瞳が曇った。ぐっと、眉根を寄せて痛みを堪えるような顔をする。
「アズラク様?」
「なんでもない」
吐き捨てるようにそう言うと、首筋に鋭い痛みが走った。強く吸い上げられて赤い花が幾つも散る。この青い瞳は容易く、わたしの体を高みに上らせるのだ。
まだ夜は終わらない。
中から現れてきたのは、血のように赤い小さな粒。正直あまり美味しそうには見えなかった。アズラク様は慣れた手つきでその赤い粒を取り出すと、口に運んだ。
「やはり美味いな」
好きだというのは本当なのだろう。ひどく手間に見えるのに、アズラク様は小さな実を大きな手でちまちまと取っては食べている。時々滴るものが果汁なのだと分かっていても、血のように見えてしまった。
「ほら」
果汁で赤く染まったアズラク様の指が唇に触れた。わたしも食べてみろということらしい。
恐る恐る口を開けて、舌でその指を舐めた。
「……ん」
赤い粒を噛むと、ぷちんと弾けて瑞々しい果汁が出てくる。その甘酸っぱさに唾液が溢れて、喉の奥がきゅっとなる。美味しい。
「気に入ったようだな」
アズラク様は得意げに、また赤い実を掬って差し出してくる。促されるままに、その指を舐める。
「これはざくろというんだ」
「ざくろ……」
名前すらも耳にしたことはなかった。こんな美味しいものを、わたしは今まで食べたことがなかった。
結局そのまま、わたしはアズラク様に残りのざくろを食べさせてもらう羽目になった。アズラク様もお好きだと言っていたのに、一人で全て食べてしまった。
「すみません……」
「謝ることはない」
言うが早いか、アズラク様は唇を重ねてきた。唾液が混ざり合って一つになって、舌の根を強く吸われる。深い口づけに、食べたばかりのざくろの味も全て奪い取られていくかのよう。
「俺はこれでいい」
そう言って手の甲で口元を拭った。それだけで頬が熱くなってしまう。
熱に浮かされたようにぼんやりする頭で考える。
同じ果実を分け合って食べても、わたし達は同じようにはなれない。肌の色も、目の色も。生まれも境遇も、本当に何もかもが違う。
こんなところにわたしはずっと居ていいのだろうか。そう思ってしまう。
「俺を前にして別のことを考えていられるとは。いいご身分だな、お前も」
上の空だったことを責めるような口調。けれど声音はどこか楽し気で、薄い唇は美しく弧を描く。今日のアズラク様はとても機嫌がいいらしい。
わたしは彼に捕食される側だ。悪魔の一族を取り巻く事情を知っても、これだけは変わらない。
「そんなつもりは……」
背けた顔に手を当てられてまた見つめ合う。一瞬だけ、その澄んだ瞳が曇った。ぐっと、眉根を寄せて痛みを堪えるような顔をする。
「アズラク様?」
「なんでもない」
吐き捨てるようにそう言うと、首筋に鋭い痛みが走った。強く吸い上げられて赤い花が幾つも散る。この青い瞳は容易く、わたしの体を高みに上らせるのだ。
まだ夜は終わらない。
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