上 下
27 / 47
第一部 剣帝と槍姫

第27話 剣帝vs剣聖

しおりを挟む
 
 舞踏会から数日経ったある日、クラウスの屋敷に来たイエルクがベンチに座って二人の稽古を見ているフローラに近づいていく。
「あら、イエルクさん。どうされたの?」
「ちょっと、気になってね」

 イエルクはフローラの隣に座り、クラウスとノエルの打ち合いを凝視する。

 剣と槍が激しく、素早い動きで交錯している。
「あいつら、毎日、こんなことやってんの?」
「ええ、二時間も、三時間も。半日やってることすらあるんですよ。良く飽きませんよね」
 フローラがあきれるように笑った。
 イエルクはフローラの説明を聞きながら、じっとクラウスの動きを見続けていた。

 ガッ、踏み込んだクラウスの打ち込んだ剣を顔の前で両手で握る槍の柄で受け止める。

 ノエルはフウッとため息をついて、稽古を止めた。
「最近、よく打ち込まれるようになった」
「そりゃ、多少の進歩はあるだろ」

「クラウス」
「なんだ、来てたのか」
 クラウスに近づくイエルクの両手にはそれぞれ剣が握られていた。
「久しぶりに、どうだ?」

 長剣を構えるクラウスと双剣を持つイエルクが対峙する。

 それをベンチからノエルとフローラが見ている。
「剣帝対剣聖か、面白いな」
「イエルクさんも父の弟子だったんですよ」
「へー、で、どっちが強いの?」
「そうですねえ……、いつも打ち合って勝負無しですから、互角でしょうか」
「ふーん……」
 ノエルは興味深げに対峙する二人を見つめた。

 二人の打ち合いが始まった。
 猛スピードで振るわれる双剣をクラウスは剣ではじいていく。
 初めは二つの剣の利点で押していたイエルクだったが、徐々にはじかれる強さに剣が押し返されて劣勢になり始めた。

 頭部に打ち込まれる長剣を双剣を交差させて受け止めるが、その威力にイエルクが顔をしかめる。
「くっ……」

 数度の打ち合いの後、カーン、と双剣の片方がはじかれて宙を舞った。

 その軌跡をイエルクはガク然として目で追った。

 そんなイエルクの様子を不思議そうにクラウスが見る。
「どうした、腕なまってんじゃないか?」
「いや……、お前が強くなったんだよ……」

 ノエルが笑いながら近づき、タオルをクラウスに手渡した。
「毎日の稽古相手がお前より強いからだろ」
「そうかな?」

 仲睦まじげな二人を見て、イエルクは独り言のようにつぶやいた。
「槍姫相手に、毎日あんな稽古してりゃ、そりゃ強くもなるだろ……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,303pt お気に入り:104

獣人の恋人とイチャついた翌朝の話

BL / 完結 24h.ポイント:1,611pt お気に入り:32

好きだから手放したら捕まった

BL / 完結 24h.ポイント:1,121pt お気に入り:1,587

悪魔に祈るとき

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:16,505pt お気に入り:1,132

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,222pt お気に入り:5,173

私が王女です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:24,869pt お気に入り:214

You're the one

BL / 完結 24h.ポイント:752pt お気に入り:63

私の婚約者は、いつも誰かの想い人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:114,836pt お気に入り:2,888

処理中です...