ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

文字の大きさ
2 / 42

【二】第一王女殿下のお茶会とその後

しおりを挟む





「ようこそ、リリア」
「お招き有難うございます、セレフィローズ第一王女殿下」
「セレフィで構わないわ、リリア。いつもそう話しているでしょう?」
「勿体ないお言葉です」

 第一王女殿下であるセレフィ様は、私と同じ十二歳である。私の使命は、命を賭してセレフィ様をお守りする事である。出会いは、五歳の時の音楽会だった。子供の身の参加のその場所で、既に私は子供ながらに影の護衛役として、表面上は侯爵令嬢、実際には何かがあったら庇って死ぬようにと厳命されてその場にいた。

 流れるような金髪をまとめていたセレフィ様は、圧倒的に愛らしかった。他に五歳のご令嬢が何名かいたので、挨拶後私は目立たないよう、けれど離れないよう、事前に教え込まれていた位置に立ち、静かに見守っていた記憶がある。以後、何かイベントがあれば、私はセレフィ様をお守りするため、その場に行くようになった。

 五歳の女の子に何ができるのかと、今思えば言いたくもなるが、この世界には魔術が存在する。そして私は、膨大な魔力を持っている。私というか、クリソコーラ侯爵家の人間は、大体持っている。その腕を買われて、代々護衛を務めているようだ。

 常にイベントで顔を合わせる内、時には話しかけられる事もあるようになった。
 そして凄く稀に、こうして王宮までお茶会に呼ばれる事もあるようになった。

「お父様の事、お悔やみ申し上げます」
「有難うございます」

 白磁の頬に手を添えて、俯きがちにセレフィ様が言った。私は簡潔に答えながら、きっと元気づけるためにお茶会を開いてくれたのだろうと判断した。セレフィ様はどちらかと言えば勝気であるが、心根は優しい。

「何か困った事があったら、相談してね?」
「有難うございます」
「――そうだ、これはね、最近取り寄せた茶葉入りのケーキなのよ。とても美味しいの。シェフに我が儘を言って作ってもらったのよ。良かったらお食べになって」
「有難うございます」

 心遣いは嬉しいが、私はちょっと嫌な汗をかいてしまった。過去、そう言うものだと思って気にしては来なかったが、私は『必要最低限以外話すな』という指針のもと、着かず離れずで育てられてきていたため、会話といえば、挨拶やお礼くらいだ。

 これまではそこに疑問は無かったが、明らかにセレフィ様は困ったように私を見ている。しかも私は完全に無表情だ。動揺を見せないようにという訓練もあったからだ。

 ……。
 折角気にかけてくれているのに、もうちょっと何か言うとか、表情筋を動かすとか、私はどうにかしたほうが良いのではないだろうか?

「……あの、本当に嬉しいです。いただきます」

 無理矢理私が言葉をひねり出すと、セレフィ様が目を丸くしてから、両頬を持ち上げた。あんまりにも可憐で、私は見惚れそうになった。

 しかしすぐに、意識が口に向かった。食べたケーキがあんまりにも美味だったからだ。さすが王室! 訓練の一環に体作りがあるので、あんまり甘いものを与えられてこなかった私にとって、この味は危険だ。叩き込まれた礼儀作法を駆使して食べつつ、泣きそうになった。美味しすぎるだろうよ、これはちょっと……。

 その後セレフィ様は気を遣うように色々と話しかけて下さったが、八割聞き流しながら、私はケーキを堪能した。ほとんど頷いていた。そういうところだよ、私。だから同期の話もほぼ記憶していないんだよ!

 気づくと日が暮れ始めていた。

「セレフィローズ第一王女殿下。クリソコーラ侯爵家の馬車が参りました」

 機を見ていたように、侍女さんが歩み寄ってきた。私はそれで我に返った。

「お招き有難うございました」
「送るわ」

 私が立ち上がって一礼すると、セレフィ様もまた立ち上がった。直々に送って下さるというのは、私が侯爵家の令嬢だからだろう。この国では、爵位は結構露骨に重視されている。恐れ多いのでと断ったが、セレフィ様が先に歩きだしてしまったため、私は慌てて一歩後ろに並んだ。

 回廊に、夕陽が差し込んでくる。そうして少し歩いた時だった。

「セレフィローズ異母姉上」

 その声に、セレフィ様が立ち止まると、一瞬だけ顔を険しくしてから、長めに瞬きをし、直後作り笑いを浮かべて、声がした方向を見た。つられて私もそちらを見ると、そこにはエドワード第一王子殿下が立っていた。隣には、一人の少年がいる。

 ――そうだ、攻略対象の名前もエドワードだったはずだ。思い出した。

「エドワード、何かご用?」
「用が無ければ声をかけてはいけないのか?」

 エドワード殿下が目を眇めた。唇にだけ笑みが浮かんでいる。この国は別段、出生順で王位が継承されるわけではないので、王位争いは、王太子として立太子するまで続くようだ。セレフィ様の同母弟が、第二王子のフォルド殿下で、学年も一つしか違わないこの二人が何かと比較されがちだ。第三王子殿下は少し年が離れているため、まだ話題にはあまりならない。そして子供にも派閥というのはくっきりとあり、実の姉弟であるから、セレフィ様は第二王子擁立派という風に見える。ちなみに後宮には、第五王妃様まで存在している。貴族も愛人を持つ文化もある。異母兄弟姉妹の存在は、そう珍しいものではない。

「あら? 用が無ければ、エドワードは私には声をかけてこないではないかしら?」
「――挨拶をと思ってな。俺の友人のグレイルだ」

 エドワード殿下の声に、セレフィ様が横にいた少年を見た。その名前を聞いて、私は目を見開きそうになった。確か、未来の宰相補佐官の名前もグレイルだ。つまり、この二人は攻略対象ということだ。今後どうなるかは知らないが、私は関わるべきではないだろう。

「お初にお目にかかります、セレフィローズ第一王女殿下。エルディアス侯爵家が嫡子、グレイルと申します」
「ごきげんよう、グレイル卿。セレフィローズ・リラ・エイデルカインです。次期宰相候補として既に名高いという評判を伺っていますが、本日は国政の場の見学かしら?」
「――父に荷物を届けに参りました」

 淡々とした声でグレイルが言った。エルディアス侯爵は、現在の宰相閣下であるから、グレイルのお父様なのだろう。

「あの敏腕な宰相閣下も忘れ物をするのですね」

 しらっとした顔で述べてから、セレフィ様が私を見た。

「私は友人を送るところですの」
「ああ、見れば分かる。セレフィローズ姉上、それはそうと少し話があるんだ」
「何が分かったというのですか? 何か一つでも分かっているとしたら、この場で、話があるなどとは言わないのではなくて?」
「見送りならば、グレイルに代わりに行ってもらおう。こちらは急ぎだ」
「急用……? っ――リリア、ごめんなさい。お任せいたしますわ、グレイル卿」

 こうして私は、その場にグレイルと二人残された。周囲には多くの付き人や見守りの騎士達がいるとはいえ、気まずい。そもそも王宮にはそれほど危険はないと思うし、武力なら同世代よりも私の方があると思う。だから一人で帰ると言おうかと、私は考えて、顔をあげた。

「お送りいたします、お手を」
「……あ、有難うございます」

 サラっと手を差し伸べられたため、私は反射的にグレイルの手に手を載せてしまった。すると手を握られた。グレイルがゆっくりと歩き始める。西日が差し込む中、私達は玄関目指して歩く事となった。

「改めまして、グレイルと申します」
「ご挨拶が遅れ、大変失礼いたしました。私はクリソコーラ侯爵姉のリリアと申します」
「いえ。エドワード殿下の気まぐれも困ったものだ」

 微笑したグレイルを見て、私は返答に窮した。さすがは攻略対象、絵になっている。
 そのまま、グレイルは私を気遣うように、ポツリポツリと会話を振ってくれたので、私は何度か頷いて答えるなどした。特に声は発しなかった。こうして馬車がいる所まで送ってくれたグレイルは、最後に私の手の甲に口づけた。

「今日は貴女と話せて充実していた」
「……送って下さり、有難うございます」

 私はビクビクしながらお礼を告げて、馬車へと乗り込んだ。手の甲とはいえ、キスだ。乙女ゲームとは、スキンシップが激しい世界観なのかもしれない。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...