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【四十八】口実の用意
しおりを挟む「クラウス」
寝室に入ってまっすぐ窓の前に向かった俺は、背後で響く施錠音と己の名を呼ぶ声を聞いていた。
「シュトルフ、会いたかった」
「俺も同じだ」
「――降嫁の持参品の話が無かったら、会えなかっただろう?」
振り返りながら俺はそう告げ苦笑した。するとシュトルフが小首を傾げた。
「そんなものは口実だ。お前の公務が無い日取りを待っていただけだ」
「え?」
「会うために、様々な口実を用意するくらいに、俺はクラウスの事ばかり考えている」
「打ち合わせじゃなかったのか?」
「今する必要性があるかといえば、否だろう?」
「それは、そうだけどな」
「ただ、並行して片づけておいて悪いという事は確かに無いが」
そう言ってシュトルフが笑った。俺は嬉しくなってしまった。頬が熱を帯びてきた事を感じながら、歩み寄ってくるシュトルフを静かに見やる。
「抱きしめても良いか?」
「聞かなくて良い」
「そうか」
シュトルフの腕が俺に回ったのは、その直後だった。俺は温かい腕の感触に浸りながら目を伏せ、幸せだなと思った。シュトルフは俺が欲しいものを存分に与えてくれる。言葉も、体温も、愛情も。
頬に触れられたので瞼を開けると、すぐに唇を奪われた。キスをする許可は、求められなかった。それで全然構わない。シュトルフがしたいようにしてほしい。シュトルフはいつも俺を優先してくれるが、俺だって出来る事があるならばシュトルフを尊重したい。
その後は服を脱がせあうようにして、抱き合いながら寝台へと転がった。
「ぁァ……」
先日抗議した首のキスマークの位置に再び吸い付かれ、俺は思わず眼を細くした。
「見える位置はやめてくれ」
「消えないようにずっと痕を残したくなってしまった」
「おい」
「悪い」
そうは言いつつ、シュトルフは悪びれもない様子で笑っている。本当に表情が豊かになったなと思う。そのまま舌先で俺の皮膚をなぞったシュトルフは、俺の胸の突起を唇で挟んだ。そしてチロチロと乳頭を刺激してきた。ゾクゾクとした快楽が俺の背筋を這い上がっていく。
「んン……っ」
もう一方の手で陰茎を扱かれて、俺は鼻を抜けるような声を出してしまった。胸と同時に刺激され、穏やかに昂められていくと、体がじっとりと汗ばみ始める。
シュトルフがそばにいると思うだけで幸せになれるから不思議だ。
俺は快楽を欲しているわけではなく、純粋にシュトルフのそばにいたいのだと、もう強く理解している。
「好きだ、シュトルフ……ぁ、っ」
「俺もクラウスが好きだ。言わなくてもそろそろ伝わるだろうとも思うが、何度でも言いたい。言わずにはいられない」
同じ気持ちだから、俺は思わず小さく笑ってしまった。中々気持ちを心に秘めておくというのは辛いし、何度でも伝えたい。
「ぁア……っ」
「一度出せ」
「んんン――!!」
そのままシュトルフの手で、俺は果てさせられた。
肩で息をしていると、俺の呼吸が落ち着くのを見計らってから、シュトルフが指先を俺の中へと進めてきた。俺の出した白液をまとった指が、すんなりと入ってくる。
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