37 / 84
―― 第二章 ――
【三十七】王宮での目覚め
しおりを挟む殿下が僕を支配してくれ、全てを忘れさせてくれた夜から、一夜明けた。
僕が目を開けると、隣では優しい笑顔のクライヴ殿下が、こちらを見ていた。
「おはよう、ルイス」
そろって迎えた王宮での朝。
僕は王都にいるけれど、ベルンハイト侯爵家ではなく、今はこの塔が家なのだと、自分に念じる。そう思えるようになったくらいに、支配され――愛された夜を回想すると、改めて己の痴態が脳裏を過ぎり、僕は赤面してしまった。
窓からのぞく日は、既に高い。
その後僕達は、昼食の時間帯に本日最初の食事をした。食後に出てきたのは、本日も珈琲だった。僕も、クライヴ殿下の好きなものを、一緒に楽しみたい。そう考えながら味わって飲むと、体が温かくなった。
「もうすぐ出た方がいい時刻だな」
本日は、最初の夜会がある。招待されている全ての夜会に出るわけではないが、今夜の夜会には出席をすぐに決断した。僕がではなくて、クライヴ殿下が行きたいと言ったのである。ユーデリデ侯爵家の夜会で、王妃様のがわの、クライヴ殿下のお祖母様の生家で行われるためだ。王妃様は、この王国には二つしかない公爵家――ヘルナンドのバフェッシュ公爵と対をなすとされる、サーレマクス公爵家のご出身だ。そちらに、ユーデリデ侯爵家からお祖母様は嫁いだのだという。ただ、サーレマクス公爵家は、バフェッシュ公爵家とは異なり、めったに表舞台には出てこない。社交はもっぱら、親戚関係にあるユーデリデ侯爵家を経由して行っているそうだ。僕はこれらの知識を、嘗て家庭教師から習った。
「身支度も済んでいるし、出るとしようか」
クライヴ殿下に促されて、頷いてから僕は立ち上がった。
こうして僕らは、そろって塔を出て、迎えの馬車に乗り込んだ。
ユーデリデ侯爵家の王都邸宅は、王宮からは少し離れた位置にある。歴史ある一個の城のような外観の邸宅で、王都の邸宅にしては珍しく、庭に湖があった。到着した僕は、四階建ての邸宅が湖に映りこんでいるのを眺めながら、クライヴ殿下の隣を歩く。
夜会の開始は午後四時だ。少し早めに開催される。
それだけ挨拶客が多いからであるらしい。僕とクライヴ殿下は、王族の代表も兼ねている。僕はまだ、己が王族の一員になったという実感はないが、少なくとも本日の役割はそうなっている。これもある種の公務の一つだ。
エントランスにつき、案内の係の者に、僕達は招待状を見せた。そして確認をしてもらってから、正面の白亜の階段を登っていき、三階にある大広間へと入った。既に会場には、多数の参加客がいる。
「まぁ……」
「本当に、人形のようにお綺麗だ」
「並ぶと絵になりますなぁ」
「月神セレスと黒神ヴァラントのようだ」
入室すると同時に、僕達には多数の視線が飛んできた。僕は人込みに来た経験ががほとんどないため、思わずクライヴ殿下の袖を掴む。すると殿下が僕を見てから、腕を組みなおしてくれた。
「みんながルイスに見惚れているな」
「クライヴ殿下がおられるから、こちらに視線が来るのだと思います……」
「それもあるだろうが、昔からルイスは、こういった場では視線を注がれていただろう? ライバルが多いなといつも思っていた。このように皆に見られていては、俺の事など視界に入らないだろうと嘆いていたものだ。当時の俺は、ルイスと目が合うだけでも嬉しかったからな」
懐かしむようにクライヴ殿下が笑った。
僕はそんな話は知らなかったから、内心で驚く。
そのまま歩いていき、僕達はユーデリデ侯爵とその伴侶の前に立った。ユーデリデ侯爵はDomだと聞いたことがある。伴侶のアルヒ様は、Subだ。結婚前に母が教えてくれたこの二人のダイナミクスは、貴族の間で有名なのだという。オシドリ夫婦らしい。二人とも男性だが、伴侶同士を夫婦と呼ぶことはこの国では珍しくない。
「久しいな、ユーデリデ侯爵。それに、アルヒ」
クライヴ殿下が笑いかけると、殿下と同年代の二人が微笑しながら頷いた。
ユーデリデ侯爵家は、若くして先代は引退し、領地にこもるという噂も僕は聞いたことがある。社交的な家であるから、若人に任せるという風潮らしい。夜会を楽しむのは若い内のみで、その後は愛する相手と領地で過ごすのが慣例なのだという。これは兄上から聞いたのだったか。兄上は僕が結婚するときに、見習って幸せになるようにと言っていた。
「ああ、お久しぶりです、クライヴ殿下。それにルイス様は、改めまして。ユーデリデ侯爵のザイスです」
「伴侶のアルヒです」
二人に挨拶されたので、僕も頭を下げた。
その後、夜会が本格的に始まるまでの間、僕達は歓談して過ごした。
188
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります
ナナメ
BL
8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。
家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。
思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー
ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!
魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。
※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。
※表紙はAI作成です
【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる