5 / 34
―― 本編 ――
【005】プロポーズ
しおりを挟む「というわけでさ、もうおにぎり弁当を作らなくていいんだって、フレが。生産ギルドに融通してもらうらしいんだ」
「ではどうしてここへ?」
本日も海辺のマップに砂月はいた。微笑しながら静森が座っている。本日は砂月がモンスターを狩っている。
「うん? 静森くんに会いに来たんだよ」
「実は俺もなんだ」
「へ?」
「お前のおかげで鬼火の糸は足りた。だから来なくても構わなかったんだが、フレになり損ねていたと気づいてな」
「えー、嬉しい」
砂月はニコニコしながら頷いた。砂月も静森とフレンドになりたかったからだ。
このように利害関係なしの、もちつもたれつなフレなど、砂月にはいない。これまでの人生でいなかったに等しい。それがログアウト不可になってすぐにできたのだから、世の中分からないものである。
「申請していいか?」
「勿論」
砂月が頷くと、すぐにフレンド申請が届いたので、その場で承諾した。
「静森くん。君さ、飯バフ他に困ったら声かけてね? 俺素材集めとかちょっとなら手伝えるし」
「ありがとう。砂月もなにか困った事があったら言ってくれ」
「ありがと。静森くんもね」
へにゃりと砂月が顔を緩ませる。
ログアウト不可になって、早二ヵ月が経過していた。
「困った事……か」
「うん? なにか困ってるの?」
「ああ……いや、実は……見合いを勧められていてな」
「お見合い? なにそれ?」
「ギルドとギルドで連合をする証として、誰かギルメン同士で結婚を、というような話らしいんだ。しつこくて嫌になる」
「そんなのあるんだ。大変だね」
砂月はスキルを放ちながら、どこのギルドだろうかと考えた。
「ああ。俺は結婚するなら、一緒にいて楽しくて、安らげて、心地の良い気持ちになれる、そんな――砂月のような相手がいい」
「静森くん、俺の事口説いても何もメリットは無いと思うよ?」
「本音だ。しかし参ってしまった」
珍しく溜息を零している静森を、砂月はまじまじと見た。
「結婚以外には条件提示できないの?」
「いくつも詰めている」
「ふぅん。上手くいくといいね」
「だが……砂月」
「うん?」
「俺の言葉は本音だ。俺は結婚するなら砂月がいい。最初に会った頃からどことなく惹かれて……話す内にずっと一緒にいたくなってしまって困っているんだ。こんな衝動、生まれて初めてかもしれない」
静森はそういうと、真剣な瞳を砂月に向けた。
「俺は気づいたら砂月が好きになっていた。俺と結婚してくれないか?」
そして真っ直ぐにそう述べた。あんまりにも唐突に言われたものだから、砂月は杖を取り落としそうになった。慌てて握りなおしてから、目を瞠って静森を見る。
「えっ?」
「結婚して欲しい」
「え、え? え……静森くん……?」
「俺は砂月が好きなんだ」
案外押しの強い静森の声に、砂月は思わず頬が熱くなってきた気がした。
しかし、と、思い直す。
自分は、情報屋などという後ろ暗いことをしているのであり、静森は善良に前向きに攻略に臨む真面目なプレイヤーだ。相応しくないだろう。
「静森くん。君は、お、俺の事なにも知らないし、俺だって君の事知らないのに結婚て……?」
「それでもいい」
「え? それでもいい?」
「お前が話したくないのならば聞かない。話してくれるのならばこれから知っていきたい。俺は今、この瞬間、こうして一緒にいるお前に惚れた」
「!」
「俺の事が知りたいのならば、聞いてくれたらいい」
「……、……」
「そばにいてくれないか?」
静森はそういうと立ち上がり、動きを止めている砂月に歩みよった。そしてそっと腕に触れた。
「抱きしめさせてくれないか?」
「っ、え、本気なの……?」
「俺はこんな嘘はつかない」
「う、ん……」
砂月が困惑しながらも頷くと、静森がぎゅっと砂月を抱きしめた。最初は優しく、次第にその後腕に力がこもっていく。静森はそれから、砂月の頬に口づけた。あまりにもさらりとした洗練された流れで、砂月には拒むという気すら起こらなかった。
「砂月、好きだ。愛している」
「……俺も、静森くんの事、ここに会いに来るくらいには好きだけど……俺、愛とか恋とかよく分からなくて……」
「俺が教える。俺に教えさせてくれ」
「静森くん……」
静森がそっと砂月に頬に手で触れた。砂月は静森の顔を見上げる。
翡翠色の瞳と目が合うと射貫かれたような気持ちになった。
「本当に俺でいいの?」
「お前がいいんだ」
「なにも知らなくても? 後悔しない?」
「しない。俺の直感が言うんだ。今、お前を離してはいけないと」
「お見合いしたくないから先に結婚する相手を探してるとかそういうこと?」
「いいや、お前に惚れた方が先だ。あるいはお前と出会っていなければ、俺は見合いで結婚していたかもしれない」
「それって俺、重罪人じゃ?」
「いいや。お前は俺の癒やしだ。本当はこんな風に性急に言うつもりはなかったんだが、悪い。余裕が無かった。お前を前にすると俺はいつも余裕が無いんだ、本当は。フレ申請するのにも勇気がいった。断られたらと思ってな」
静森が苦笑してから、掠め取るように砂月の唇を奪う。瞬時に赤面した砂月は、静森の腕の中で硬直した。
人と上手く距離感が掴めなかった砂月であるから、恋愛の方面にはからっきし免疫が無い。今のご時世、性別を問わない恋愛は主流だが、このように真っ直ぐに好意をぶつけられたのも初めてだった。砂月は容姿がいいのでモテることにはモテるのだが、あくまでもそれだけなので、過去、このように言われたことはない。
「砂月、返事を聞かせてくれ」
「……えっと」
「ああ」
「……え、えっと……お、俺でいいなら……」
「ありがとう。指輪を贈らせてくれ」
結婚制度は、アイテムの指輪を片方が送る事で成立するというのは、女神ファリアが語った知識でもある。静森がその時指輪アイテムを出現させた。そして砂月の左手を覆うように持つと、そっと指輪を嵌める。その重みに、いよいよ砂月は赤面した。
「俺も嵌める」
静森はもう一つ同じ品を取り出すと、自身の手で左手の薬指に嵌めた。すると双方の指輪が光り輝いた。砂月はそれからステータス画面を視覚操作で確認し、【伴侶:静森】と書いてあることに気がついた。
「愛している」
「静森くん……」
「できれば毎日でも会いたい」
「……俺の家、来る?」
「いいのか?」
「うん」
「では、可能な限り毎日行く。できれば――一緒に暮らしたい」
「俺の家で?」
「砂月の家でも俺の家でも構わない。ただ俺は帰りが遅い方だから、砂月の家の場合は、週に一度行けたらいい方かもしれない」
「ま、まずはそれで! じょ、徐々に! 俺、待ってるから!」
「そうか。では、そうしよう」
静森は余裕ある声音ながらも、実に嬉しそうな顔をしている。砂月は照れくさくなりつつ頷いた。
548
あなたにおすすめの小説
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる