10 / 34
―― 本編 ――
【010】服を脱ぐ口実
しおりを挟むそんなこんなであっという間に一週間が経過した。毎日手紙のやりとりをしていたとはいえ、再び静森が家に来る日が近づくにつれ、砂月はそわそわとしてしまった。
「こ、こんなもんでいいよね?」
朝早く起きて手で掃除をした砂月は、無駄にピカピカになった床を見る。元々綺麗だったのだが、今ではまるで新品のようだ。その後砂月はシャワーを浴びて、一緒に食べる約束をしている昼食の確認をした。生産で、既に魚の煮付けなどを作ってある。
こうして待ち合わせの午前十時が訪れると、ドアがノックされた。
「はーい!」
砂月が声をかけてそちらへ向かいドアを開けると、そこには微笑している静森が立っていた。シャツの上にローブといういつもの出で立ちだ。
「おはよう、静森くん。どうぞ」
「ああ」
砂月が促すと、静森が中へと入ってきた。すぐに珈琲を用意して砂月が戻ると、ソファに座っていた静森が微笑して礼を言う。こうしてこの日も隣りに一緒に座る。
「砂月に会えない一週間は長かったが、必ず会えるという約束があるのはよいな」
「確かにフィールドだと、いつ来るか分からないもんね」
「ああ。それに今後は、会いたい時に、会いたいと言えるのだと思うと感無量だ」
静森はそう述べて綺麗に笑うと、ゆっくりとカップを持ち上げた。
「美味い」
「ありがとう。そうだ、静森くん、あのさ」
それを見ながら、砂月はふと思い出して尋ねる。
「伴侶クエストってあるじゃん? 結婚した後だけ、二人一緒にできるスキルクエスト」
「ああ」
「そういうのやりたい? バフのスキルとかあるんでしょう?」
「砂月がやりたいのならば、一緒にやろう」
「俺は静森くんがやりたいなら、で。やりたくないならば別に」
「俺はやりたい」
「あ、そう? じゃあ、やる?」
「そうだな。ただもう少し、ここで砂月とゆっくりしたい」
「うん。俺も静森くんと一緒に話してたい。いつでもできるしね」
にこにこと笑いながら、二人でそんなやりとりをした。目と目が合うだけで、胸いっぱいに温かい感情と、なにやらドキドキをもたらす不思議な気持ちがこみ上げてきて、ずっとこの場にいたいと思わせられる感覚に、砂月のテンションが上がる。そうか、これが、恋なのか。人生で初めて知る驚きである。結婚からの開始となったが、自分が静森をいつから好きだったのか、最早自信が無い。ずっと好きだったような気さえしている。
「手紙で静森くんから『おはよう』って来る度に、なんだか一日が始まったって気分になったよ」
「俺も返事が来る度に、今日も同じ空の下に砂月がいるのだなと感じた」
「静森くんって結構早起きだよね」
「ああ。朝は決まって、スキルの練習をするのが日課なんだ」
「努力家! 俺なんてなんとなくノリで使ってるよ」
静森はそれなりに玄人に思えるが、まだどの程度のガチ度なのか、砂月は知らない。スキルクエストを一緒にすれば自ずと分かるだろうと考えていた。
「臨機応変に使えるのは長所だ」
「そっかなぁ? 静森くんにそう言われると嬉しい」
砂月の頬が緩む。照れくささもあって、ずっとにこにこしてしまう。
「砂月はどの職業スキルに力を入れているんだ?」
「一応魔術師と暗殺者だよ。静森くんは?」
「俺は魔術師だ。ただ暗殺者のスキルも上げている」
「気が合うね。やっぱり範囲職と単体火力があるとやりやすいよね」
「そうだな。素材集めでは特にそうだろうな」
「うんうん」
砂月は頷いてから、ふと炊き出しについて思い出した。
「そういえばこの前、ふらふらしてたら、炊き出しをしているギルドがあったんだよ」
「――そうか」
「親切なギルドだなぁって思ってさ。この状況で、みんなのために何かを率先してするって、凄いことじゃないかな」
砂月は本心からそう思いながら、言葉を続ける。
「そういうギルド、これから増えていくのかなぁ」
「増えることを俺は祈る。ログアウト不可の混乱自体も一時期よりは落ち着いてきた今だからこそ、それぞれが生活の基盤を確立できる状況が訪れるとよいと考えている」
「確かにね。今ってNPCからのクエストでも、エルスって手に入るんだっけ?」
「ああ。素材収集クエストで、エルスとツクシが手に入る事が広まってからは、だいぶ餓死者も減ったと聞く」
「ツクシはHP回復アイテムだもんね。生産スキルでも初級の茹でるでおひたしに出来るし」
「ああ」
そんな話をしながら二人でいると、時があっという間に経過した。
「そろそろお昼ご飯にする? 煮付けの用意をしておいたんだけど」
「ご馳走になりたい」
「勿論!」
こうして二人はダイニングテーブルへと移動した。砂月が生産品の煮付けやその他の小鉢などをテーブルに並べるのを、静森が優しい笑顔で見ている。
「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
静森が箸を手に取るのを、対面する席に座って砂月は見ていた。端正な唇に魚が運ばれていく。箸使いが巧みだ。静森は一口食べると、目を丸くし、それから破顔した。
「美味い。砂月は本当に料理が上手だな」
「調理スキルの賜物です」
「生産ギルドの話を少し聞いたが、生産ギルドでもカンスト者は少なかったらしいが」
「生産にも色々あるからね。生産のスキルツリーもあるし」
にこにこしながら砂月も煮付けを食べる。練習にと昨日も同じ物を作って食べたのだが、静森と一緒に食べる方が、なんとなく美味しく思えた。
「今度来るときは何が食べたい?」
「なんでもよいというのが本心だ。砂月といられるのならば。ただそれは困らせそうな返答だという自覚があるから、肉じゃが」
「……了解! 肉じゃが作ります!」
そんなやりとりをしながら食事を終えた後、静森が皿洗いを買って出た。砂月は任せることに決めて、それからふと奥の寝室のドアを見た。
――結婚したわけである。
――やはり、閨の営みはあるのだろうか……?
――セックスレスで離婚になんてなったら嫌だ。
そのような葛藤が浮かんでくる。寝室のシーツも朝、ビシッと整えた。だが過去に誰かと深い関係になったことのない砂月は、そもそもSEXの経験もなく、さらには誘い方なんてさっぱり分からない。
ちらりと静森に振り返ると、丁度皿洗いを終えたところだった。タオルで手を拭いている。
「ねぇ、静森くん」
「なんだ?」
「――その、実はさ、俺いつも和服アバターだけどたまには洋服もいいかなぁって迷ってるんだ。でもどのアバターにするか迷ってるから、見てくれない?」
「構わない。いくらでも付き合う」
「ありがとう! 寝室のクローゼットに入っているからついてきて!」
と、こうして砂月は静森を寝室へと誘い、服を脱ぐ口実を得たのだった。
525
あなたにおすすめの小説
当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話
屑籠
BL
サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。
彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。
そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。
さらっと読めるようなそんな感じの短編です。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
【完結】自称ヒロイン役を完遂した王家の影ですが、断罪パーティーをクリアした後に王太子がぐいぐい来ます。
竜鳴躍
BL
優秀過ぎる王太子×王家の影(失業)。
白い肌に黒髪黒瞳。小柄な体格で――そして両性具有。不出来な体ゆえ実の親に捨てられ、現在はその容姿を含め能力を買われて王家の影をしていたスノウ=ホワイト。男爵令嬢として王太子にハニトラを仕掛け、婚約者を悪役令嬢に仕向けて王太子への最終試験をしていたのだが、王太子は見事その試練を乗り越えた。これでお役御免。学園を退学して通常勤務に戻ろう――――――。
そう思っていたのに、婚約者と婚約解消した王太子がぐいぐい来ます!
王太子が身バレさせたせいで王家の影としてやっていけなくなり、『男子生徒』として学園に通うスノウとそんなスノウを妃にしたくてつきまとう王太子ジョエルの物語。
☆本編終了後にいちゃいちゃと別カップル話続きます。
☆エンディングはお兄ちゃんのおまけ+2ルートです。
悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!
ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。
らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。
なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。
婚約破棄されて森に捨てられたら、フェンリルの長に一目惚れされたよ
ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されて森に捨てられてしまったバジル・ハラルド。
バジルはフェンリルの長ルディガー・シュヴァに一目惚れされて、フェンリルの村で暮らすことになった。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
推し変したら婚約者の様子がおかしくなりました。ついでに周りの様子もおかしくなりました。
オルロ
BL
ゲームの世界に転生したコルシャ。
ある日、推しを見て前世の記憶を取り戻したコルシャは、すっかり推しを追うのに夢中になってしまう。すると、ずっと冷たかった婚約者の様子が可笑しくなってきて、そして何故か周りの様子も?!
主人公総愛されで進んでいきます。それでも大丈夫という方はお読みください。
巨人の国に勇者として召喚されたけどメチャクチャ弱いのでキノコ狩りからはじめました。
篠崎笙
BL
ごく普通の高校生だった優輝は勇者として招かれたが、レベル1だった。弱いキノコ狩りをしながらレベルアップをしているうち、黒衣の騎士風の謎のイケメンと出会うが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる