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―― 本編 ――
13:校外学習最終日
しおりを挟む翌朝エルが食堂へと降りると、尋常ではないほど騒がしかった。
騒がしいというのに、皆が声を潜めていた。
「なにかあったのか?」
エルの言葉に、歩み寄ってきたコールがため息をついた。
「ラフの聖具が譲渡されたみたいなんだ」
「ああ、そりゃ騒ぎにもなるよな。コール昨日何かあったのか?」
「僕がもらったんじゃないんだ。あれ、見て」
コールの声に視線を追うとーーその先に立っていたのはルカだった。
相変わらず顔の見えない重装備だが、首元の十字架に見覚えのない聖具接続されていた。とうの本人は気楽そうなもので、視線に気づいているのかいないのか、朝食バイキングを楽しんでいる様子だ。
「なんでルカ先生が?」
「まだ誰も聞けないから大騒ぎなんだよ。普通守護者意外に聖具を渡すのは、戦時か求愛だって聖職者過程では習っているから」
「え?」
そこへルカがやってきた。
「やぁおはよう」
「ルカ先生とラファエル様って恋人なんですか??」
「ぶ」
今は戦時ではない。直球でエルが聞くと周囲は静まり返り、盛大にルカがむせた。
「そ、そんなわけがないだろう! 何、急に!」
「ですよね、びっくりした」
二人のそんなやりとりに聞き耳を立てていた周囲はそれはそうだろうなぁとそれぞれ納得する。
「じゃあその聖具はなんですか?」
四人掛けの席に座りながらコールが言う。隣に座ったラファエルは、ここまでずっと無言だった。
「昨日の夜ちょっと聖光力を貸していただいたんだよ。詳しくは教員の仕事だから話さないけど」
そう言ってルカがラフを見ると、彼は頬杖をついて意地悪く笑っていた。
「まさか恋人同士になったなどと生徒の前で言うわけには行きませんからね。妥当な理由付なのではありませんか」
「っ、誰が!?」
テーブルに音を立てててを付きルカが立ち上がった。
そんな朝食風景だった。
その後、ゼーレの小径を回ることになった。
順繰りに回って行き、三つ目の神殿にたどり着いた時のことである。
中央にあった聖母像に、ルカはどうしようもなく目を奪われたーー似ていたのだ、亡くなった妻に。無意識に手を伸ばしながら、在りし日の光景が脳裏をよぎっては消えて行く。
ああ、あと少し。あの銅像の表皮に触れることができたのならば、何かが変わるーー……「っ」
「何をしているのです」
「あ」
ラフに首へと腕を回され抱き寄せられて、ルカは瞠目した。
正面にあった彫像には顔などなかった。
そう気がついた途端、全身にべったりと汗が吹き出てくる。
エルたちはどうしたのだろうかと周囲を見回せば、近くでフラスコ画を見ていた。
他にもちらほら違う班の生徒たちや教員の姿が見える。
「強く古い神聖術がかかっています。遺物である以上迂闊に手は出さない方がいい。もっともあなたクラスの魔術師であり聖職者でなければ感知できる人間は滅多にいないでしょうが」
その言葉を聞きながらルカは、今度は触れ合っている背中の肌から、甘い熱が染み入って行くのを感じていた。強くこうして抱きしめられるようにされているだけで、腰の力が抜けて行く。
ーーその時だった。
「「!」」
唐突に、ルカとラフのいた足元が崩落した。
無意識にルカが杖を振り、風の魔術で衝撃を和らげようとする。しかし必死だったせいで、その効果はラフの足元にしか生まれなかった。
「う」
嫌な音がして、ルカは右足首をひねったのを自覚した。
二人は丁度三階層ほど落下したらしく周囲は暗い。
「ついていませんね。ゼーレの機嫌が悪いのでしょうか」
「古い遺跡だからね、崩れることもあるよ」
「怪我はありませんか?」
「う、うん」
弱みを見せたくなくてルカはそう言うと顔を背けた。けれど彼の手が右足首を握りしめているのを見て取り、つかつかとラファエルが歩み寄ってくる。そして踏んだ。
「うぁああああああああ」
「お怪我をなさっているように見えますが」
「っ、は、あ、痛」
直接的な痛みにルカの双眸からは涙が滴った。
「痛い時は痛いと言って泣く、病気やけがの我慢などしない。約束なさい」
ルカを抱き上げながらラフが言う。
「な、に、を」
「羽を出します。救助など待っていられません」
そう言うとラファエルが飛び上がった。
一瞬で崩落現場の上まで戻ると、周囲が息を飲む。その神々しさに目を惹かれたのだ。周囲には白い羽が待っている。そんな中、痛みとーー肌から伝わってくる快楽が辛くて、一人ルカは唇を噛み締めていた。
このようにして校外学習は終わったのだった。
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