時夜見鶏の宴

猫宮乾

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―― 第一章:時夜見鶏 ――

SIDE:時夜見鶏(5)

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 目が醒めたら、医療塔にいた。
 白いベッドに独特の薬品の匂いがする。

「……起きたんですか」

 そこに暦猫が入ってきた。

「怪我をしていたんですね」
「?」

 俺、怪我してんの? 何処を? 下を見ると、包帯が巻いてあった。腹部から肩にかけて白い包帯が見える。言われてみれば、背中が痛い。斜めに痛い。ああ、そういえば、≪邪魔獣(モンスター)≫に背中を抉られたんだった。あの新人を助けた時に。

 別の怪我で痛み止めの魔法薬飲んでたから、痛くないし忘れてた。服はその場で、破けてると恥ずかしいから、魔法で直したし。俺、それで眠かったんだな。

 怪我すると、本能で、回復しようと寝ちゃうんだよ。特に朝から昼はヤバイ。元々、俺その時間は寝てる神だし。

「すみませんでした」

 それだけ言うと暦猫は出て行った。
 ――何が?


 そんなある日のことだった。
 数えるのは止めたけど、多分2000回以上捕まえてると思う。
 追いかける体勢に入った俺の前で、朝蝶はしかし逃げずにこちらを見た。

 人気のない草むらで、俺は、追いかけた方が良いのか首を捻る。
 え、何? という心境だ。

「あの」

 いつも、朝蝶の第一声は、『あの』だなぁ。会話するの、十回目だけど。

「なんだ?」

 本当、何の用だろう。

「たまには、僕も捕まえたいんですけど」

 そう言って、朝蝶が哀しそうな顔をした。なんか、悪いことしてる気分だ。ごめん……。
だけどそうだよな。一応、これでも朝蝶は、俺に匹敵するほど強いと言われているのに、まだ一回も俺のこと捕まえてないし。可哀想だよな。

「それに……僕に捕まったらどうなるか、知りたくないですか?」
「……」

 あんまり。出来れば知りたくない。俺の眉間に皺が寄った。だってさ、この人に捕まったら、拷問コースでしょ? 嫌だよ! さて、勇気を出して断ろう。俺、断るの苦手なんだよね。だから気合いを入れないと。

「貴方はずっと、これまで見ていた。何もせずに。だから僕も、貴方の血を見るようなことはしません」

 そう言って朝蝶は、凄く穏やかに笑って俺を見た。

 犬か何か……昔すぎて忘れちゃったけど、何らかの動物と遊んでいた時みたいな笑顔……に、似ているような似ていないような。鳥の時には似ている、かなぁ? 俺の記憶力、駄目だな。

 けど花が舞いそうなくらい、笑顔が可愛い。あ、次の着物は、花柄にしようかな。これまで無地を着ているところしか見たことがないし。どんな花が良いかな。考えていると、笑っちゃう。

「いいぞ」

 うん、花柄で決まりだ。

「良かった」

 朝蝶の声でハッとした。え、何が?

「今日は僕が捕まえて良いんですよね?」

 よね? ってきたら、はい、って言うしか無くない? それ、質問じゃなくて、同意求めてるって言うか、もう確定してる言い方だよ。

「……ああ」

 ううう、断れない、俺。俺、押しに弱い。

 すると歩み寄ってきた朝蝶に、両腕を腰に回された。捕縛、か。自分より小さい朝蝶を、見おろす。なんか、良い匂いがするなぁ。香水でも作ろうかな、今度。

「捕まえた」
「……そうだな」

 凄く嬉しそうな顔をしている朝蝶を見て、俺は、良いことをした気分だ。
 今日は会話も続いているし、こんな事ならもっと早く捕まってあげたら良かった。

「僕の頼み事、聞いてくれるんですよね?」
「……ああ」

 血は見ないらしいし、うん。祈ろう、こんなに可愛いんだから、酷いことはしないって。
 お願いしますと祈るようなって言うか、祈りながら、俺は朝蝶を見た。
 朝蝶は、時空魔法で取り出したらしい、緑色の瓶の蓋を開ける。

 ごくりと、一気に飲み干した朝蝶の白い喉が、動いた。何飲んだんだろう。魔法薬みたいだけど、でもなぁ、喉でも渇いてたのかな。怪我してたり病気っぽい様子無いし。
何飲んだのかな?

「あ……僕、間違え……くぅッ」

 間違えた!? 何と!?

 見守っていると、朝蝶の顔が次第に朱くなってきた。目が潤んでいる。息づかいも荒い。
 ――え、副作用!? それとも毒飲んだの!? 俺、今、解毒薬持ってないよ?
 思わず唾を飲むと、思いの外大きな音が出てしまった。

「今の、ラピスラズリのビヤクだから……中に出して貰わないと……その……おさまらないから……時夜見鶏、楽にして下さい」

 潤んだ瞳で俺を見上げながら、朝蝶が微笑んだ。
 え?

 ラピスラズリっていうのは、宝石だよな。ビヤク? ビヤクって、何? 何ソレ。

 微薬? 微妙に効くって事か? それとも美薬? 確かに朝蝶は綺麗だなぁ。

 いや、尾薬だったりして。尻尾はえてきたりして。何か怖いなそれ。
 いいや、日薬かもしれない。きっとこれだ。
 だって空巻朝蝶は朝が範囲の神様だし、お日様でてるもんね。

 いやでも、中に出してって、何? 中って何? 何の中? しかも、出して貰わないとって事は、俺が出すんだよな。俺からは、何にも出てこないよ? だって、だってさ。トークすら出てこないんだから!

 けどおさまらないし、楽にして欲しいって言うんだから、可哀想だし、俺に出来ることなら、何とか……。

「……ああ」

 曖昧に頷いてみた。でも本当、俺何すればいいの?

 すると蝶々が後ろを向いて、近くの岩に手を突いた。パサリと着物が芝の上に落ちる。着物の下には何も着ていなかった。え、下着は? つけないの? 持ってないの? 今度、下着あげようかな。

「早く、中を触って下さい」
「!」

 その言葉に俺は唖然とした。中? 中!? 目の前に、中がありそうなのって、後ろの孔しかないけど、まさかソレはないよな? 俺は思わず、自分の考えに笑ってしまった。

「何処だ?」

 聞いてみるしかない。

「何処を触って欲しいんだ?」

 お願い、教えて! 正答を!

「……っ、ここ、です」

 俺は目を見開いた。朝蝶の白い指が、後ろの孔に向かった。
 え……え? えええ!? 本当に後ろの孔なの? 違ったら大変だよな。
 恐る恐る、華奢な指が指し示す菊門へと指で触れた。違うって言って下さい。

「ぁ……もっと」
「……」

 嘘だろ? どうしよう。

「ここか?」

 つついてみた。再確認だ。

「うぅ……ぁっ、ン……はぁ」

 朝蝶が、熱い吐息をはいた。

「早く中に……」

 何これ。俺、よく分からないんだけど状況が。

「ここに、何を出して欲しいんだ?」
「っひ、酷い……っは、じらさないで……時夜見の、精液っ」

 俺はショックで固まった。嘘だろ。嘘って言ってくれ。しかも焦らしてないし。酷いのはお前だよ! 精液って、要するに、何、俺、この人の中にアレつっこんで、イかなきゃならないの……? 俺、この世界で二番目に長生きだけど、童貞だよ?

 神様だから、あんまり性欲とか無いし、っていうか、今まで、一人でしたことすらないし、出したこともないし、出るかな? いやきっと、出るとは思う。

 だって聖龍なんて、神様とか土地とか、沢山生み出してるし。朝蝶だって神様なのに、恐らく今、なんか性的な興奮を覚えている様子だ。なんで急に? あれかな、ビヤクのせい? ビヤクって、恐ろしいな!

「早く……っ、ぁ……ああっ」

 朝蝶が、目を涙で潤ませる。泣きたいの、俺なんだけど。
 神様だから、魔法で排出物は溜まる前に処理されるように、全員がしている。

 だから後ろの孔も、多分大丈夫だし、後ろでしたって言う話しは、愛犬天使から聞いたことがある。けど、痛そう。

「いつも、どうしてるんだ?」
「っ」

 俺は、わざわざ俺にこんな姿を見せるんだから、慣れているんだろうと判断し、直接朝蝶に聞いてみることにした。

「ぼ、僕、そんな……いつもなんて……酷い」

 蝶々が泣いちゃったよ。涙をぽろぽろこぼしている。
 これ以上、聞かない方が良いかも。
 ――多分、何とかして、解すんだろうな。入るように。

 愛犬がそんな事言ってた気がする。
 けど俺、起つかなぁ……朝蝶は可愛いけど、これまで勃起したこと自体無いのに。

「出して欲しいんなら、起たせてくれ。出来るだろ?」

 しょうがないよね、どうすれば起つのか分からないし。きっと朝蝶なら、起たせ方知ってるよね。うん、多分。

「っく……と、時夜見ッ……わ、分かったから……ああっ」

 何か喘いでる。
 俺がそれをぼけっと見ていると、泣きながら朝蝶が、急に俺の下衣に手をかけた。
 下着ごと脱がされた俺は、立ったまま、不意に股間を捕まれ、思わず眉を顰めた。

 そんな俺には構わず、朝蝶が俺のソレを口に含んだ。手が両側を支え、上下する。え、何? 何で咥えてるの? 中って、口の中? いや、さっきの流れ的に、後ろだよな。

 そのまま暫く弄られ舐められ、その内に、なんだか体が熱くなってきた。何か出そう。トイレ行きたいとか、久しぶりに思った。けど魔法かかってるから、恐らくこれが精液なんだろう。

「もう良い」
「っ」
「離せ」

 つい、無理! って気持ちを込めて、言ってしまった。語調がきつくなっちゃったよ。
 ま、無理でも早くやらないと。

 俺は後ろを向かせて、時空魔法で魔法薬の原料となるドロドロした液体を取り出した。

 これだけならば、人体(いや神だけど)には無害というか効果はない。ソレを指にとり、ゆっくりと、朝蝶の後ろの孔を見た。桜色だ。とりあえず一本、指を入れてみる。

「ん、ぁああっ」

 ぶるりと朝蝶が震えた。寒いのかな? 裸だしなぁ。

 溜息をついて、俺は魔法で周囲の気温を若干上げた。後、虫に刺されたら可哀想だから、虫除けも魔法でした。

 そうしながら、指をさらに奥へと進めて、動かした。他にどうして良いのか思いつかなかったんだ。

「ふっ、あ、いやッ」

 え、いやなの!?

「もっとぉっ」

 ん? もっと? 指もう入らないよ? ああ、もう一本?

「ンあ――ひっ、うあ」
「これが望みか?」

 そうだよね? 指増やせって事だよね。

 しかしそう言えば、愛犬によれば、後ろの孔は、気持ち良いらしい。けど蝶々がボロボロ泣いてるから、ちょっと不安だなぁ。困ったなぁ。聞いてみようか。

「気持ちいいか?」

 後、痛くないかな? 大丈夫かな?

「は、はい……っ」

 震える声で朝蝶が、小さく頷いた。俺はほっとした。
 二本の指を暫く適当に動かしていると、不意に朝蝶の体がビクンと跳ねた。

「あ!」

 なんだ? 痛かったのかな……? 俺、ちょっと萎えてきちゃった……! 魔法で俺のソレを、維持するよう、努力した。

「そ、そこは……っんぅ」
「ここか?」

 やっぱり痛いのかなと思って、反応したところを優しく刺激した。

「はっ、ぁああっ。も、もう僕……んぅ、イっちゃう……っ」

 その言葉にチラッと見ると、反り返った朝蝶のソレの先端から、透明な雫が漏れていた。
ああ、前さわんないと、イけないんだろう。ここから出るらしいし。

 俺は、後ろでイっちゃいそうになるらしいって事は気持ちいいのだろう箇所を刺激しながら、もう片方の手で、朝蝶の前を触ってみた。

「うあっ、ああっ、そ、そんな……っ、ああっ」

 朝蝶の体が震えている。まだ寒いのかな?

「も、もう、中に入れてっ」

 あ、忘れてたよ俺。その言葉に指を引き抜き、俺のソレをゆっくりと入れた。何かきつい。痛くないかな、大丈夫かなぁ。朝蝶の様子をうかがうと、眼がとろんとしていた。

「ああっ! そんな急にっ」

 まだ入れちゃ駄目だった!? どうしよう、そうだ、抜こう!
 俺はゆっくりと腰を退いた。

「いやっ、ああっ、もっと奥を――ひっ」

 どっちだよ! また俺は腰を進める。

「う、ああああっ、や、いやだ、焦らさないでっ」

 んー、焦らすってそれ、ゆっくり出し入れした今のが嫌だって事かなぁ。
 確認しようと、俺はちょっと激しく出し入れしてみた。

「あ、あ、っ、んぁ、や、ぅう」
「……どうだ?」

 今度は大丈夫かな?

「もっと突いてっ、ああっ、奥、あ、さっきの所ッ」

 いやさっきの所って多分ピクンとしたところだろうけど、あれそんな奥じゃなかったような気がする。どうしよう。とりあえず奥を激しく突いてから考えよう。

 と言うことで、俺は頑張って腰を動かした。すると朝蝶の体が前にずれたので、しかたがないので腰を支えた。

「あ、ああっん、ひゃっ、激しッ、ああっ」

 あれぇ、今度はやり過ぎたかな、俺? さっきのピクンとした所に変えよう。

「ふぁああッ、ひ、あ、ア、駄目、駄目もう僕――で、出る」
「……」

 と言うことは、俺もイかないと。

 出せ俺、頑張って出せ! なんかちょっと、熱くて絡みついてくる感じで、朝蝶の中は、うーん、これ……これが、気持ちいいって事なのかなぁ。よく分からないけど、若干俺は、体が熱くなった気がした。まぁ暑くなる魔法かけたし、俺は上の服着てるしなぁ。ちょっと判断がつかない。

 でもなんか出そうだし。ぐちゅぐちゅと音がする度に、動かす度に、その出そうな感じは強くなる。

「ああっ――ッ、ん、こ、こんな……あ」

 ガクガクと朝蝶が体を震わせ、泣いている。そろそろ、何とかしないと!
 俺は強く中へと打ち付けて、朝蝶の前も、一回指で輪を作り上下させた。

「ひァ……!」

 何か、出た! 良かった! 朝蝶の前からも何か出た!
 ふぅ。終わった。やっと終わったよ。

 俺、頑張ったなぁ……これって、童貞卒業なのかなぁ。

 岩に崩れるように、ぐったりとした朝蝶が、息を整えるように浅い呼吸を繰り返している。

 魔法で朝蝶の穴の中や下腹部を綺麗にして、自分の下腹部も綺麗にし、全身の汗を取り去った。それから下衣をはき直し、どうしたもんかと朝蝶を見る。

 もう帰って良いよね。だけど、此処に残してって良いのかな?

「もういいか?」

 聞いてみた。

「……は、はい……」

 頷いた朝蝶に、とりあえず着物を掛けてから、俺は帰った。
 もう二度と捕まらないことにしようと決意して。

 それにしても、魔法薬を間違えるなんて……危ないよなぁ。何と間違えたんだろう。本当は俺に何をしたかったのかな? きっと、俺しか周囲にいなかったから、俺に中に出せって言ったんだよな。

 なんか、悪いことしちゃった気もする。けど、しょうがないよな。
 間違いは、誰にでもある。


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