時夜見鶏の宴

猫宮乾

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―― 第一章:時夜見鶏 ――

SIDE:時夜見鶏(8)

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 それから暫くして、戦況が激化した。
 空巻朝蝶を俺の魔の手から守るためらしい。え? どういう事?

 しかも朝蝶も、最近戦闘の最前線にいるから、必然的に俺も前。すごい怖い。やっぱり、強いなぁ。俺に匹敵すると言われるだけはあるかも知れない。恐らく、聖龍は今平常時モードだから除くとして、この世界で俺の次に強い。

 他の世界は知らない。
 本日もそんな感じで戦闘を終え、俺は久方ぶりに、半休を得た。
 眠い。

 ここのところ、戦争ばっかりで、全然寝てない。しかも、朝昼が、戦争多いんだよね。何で夜じゃないのかなぁ。はぁ。

 なんか二百年くらい寝たい。

 そう考えて俺はハッとした。異世界なら、半休の内の数時間で、二万年だって、眠れるじゃないか! そうだよ、いいなぁ!

 決意した俺は、半休が来てすぐに、官舎の裏手で目を伏せた。

 予知の能力を応用して、こちらが二時間経過する時に約二万年経過する場所を探した。
 すぐに見つけて、転移魔法で移動した。効くものである。異世界でも。

「……えええ」

 しかし向かったそこには、沢山のミミズがいた。しかもタコと同じくらい大きいし、地表を埋め尽くすくらい大量にいる。寝る前に掃除しよ。汚いなぁ、もう。

「≪夜壊線ナイトブレイク≫」

 俺が持ってる魔術の中でも比較的強い奴を、広範囲に放つと、ミミズは全滅した。なんか可哀想だけど、害虫は駆除しないとなぁ。増えちゃうから。

「≪総合世界神称号――殲滅神:時を入手しました≫」

 するとまたピロリロリーンって音がして、俺の手に、何か変なのが現れた。イラナイ。また俺は空間魔法で収納スペースに謎の称号を放り投げて、それから、ミミズの下にあったらしい芝の上に寝転がった。この世界、中々良いなぁ。真っ暗だ。夜しかなさそう。

 ここに住みたい。
 そんな事を考えながら俺は寝た。

 そしてこの世界で、五百年くらい経った時だった。

「うるさいな」

 さすがに騒音が気になって、俺は目を開けた。

 こちらへ向かって、鉄のかな棒を持った、二足歩行の巨大な牛が歩いてくるところだった。歩く度に、ドシーン、ドシーン、と音がする。コイツが原因か、この牛が。

「≪光雷夜サンダーナイト≫」

 俺は一撃必殺の魔法を放った。牛は倒れた。

「≪総合世界神称号――闘神:時を入手しました≫」

 また変な音がして、いらないものが出てきたので、収納スペースにしまった。

 その時、遠くから、もっと酷い、ドシーンが響いてきたので、思わず眉を顰めたら、牛が五体もいた。もうヤだ。

「≪夜雪スノウナイト≫」

 範囲魔法で一気に倒した。

「≪総合世界神称号――救世神:時を入手しました≫」

 よく分からないが、また称号が出てきた。何これ、本当。何に使うの?

 まぁいいやと思って、それも空間魔法の中に放り投げ、俺は、自分の周囲に結界を張り、寝た。最初からこうしておけば良かったなぁ。

 そうして一万五千年が過ぎた頃――無数の何かが結界を破ろうとしていたので、俺は起きた。ミミズと牛と後はよく分からないダンゴムシみたいなのと、イカみたいなのと、恐竜みたいなのが、ひしめいていた。全部巨大だ。あー、やっぱり定期的に掃除しないとな。

「≪夜壊線ナイトブレイク≫」

 とりあえずHPを削ろうと思って放ったら、一撃だった。あれ、相手の感触が弱くなってる。全滅しちゃったよ。いや、俺が強くなってる? え、なんで? 見ればHPもMPもだだあがりだった。なんで?

「≪総合世界神称号――滅狂神:時を入手しました≫」

 また出てきちゃったよ……もういいよ。本当イラナイのに。ぽい。
 俺は結界を張り直して、寝た。

 さて、そろそろ二万年。ふいーっと思いながら、結界から出ると、緑が広がっていた。
帰るか。

 と思ったら、俺が来た時に作った転移用の魔法陣の周囲に、変なのが一杯いた。何あれ、ヒトデとパンダがくっついたみたいな奴。大きいなぁ。ま、俺も鴉と鶏がくっついたみたいな本体だけどさ。五匹いた。邪魔だ。

「≪夜壊線ナイトブレイク≫」
ああ、何回これ放ったの、俺、此処で。けど久しぶりに熟睡したから気分が良いなぁ。

「≪総合世界神称号――破壊神:時を入手しました≫」

 その言葉に俺は唇をとがらせた。え、俺も破壊神になっちゃったの? よく分からないけど、まぁ、いつもの通り、放り投げておこう。空間魔法って便利だよな。

 そんなこんなで、俺は帰った。


 鬼ごっこは相変わらず続いているが、最近空族と聖龍は和平の道を模索しているらしい。
 聖龍頑張ってくれ。
 祈りながら、俺が歩いていると、暦猫に呼び止められた。

「今度の遺跡調査の件なのですが」

 俺は、遺跡が好きだ。良いよね、何か夢がある感じでさ。

「第二師団と第七師団の合同調査となりました。第八師団もついていきますが、控えです」
「……」

 顔が思わず引きつりそうになったので、笑って誤魔化した。
 第二師団……朝蝶の所だ。うわぁ。え、その間も鬼ごっこするの? 嫌だよ?

「くれぐれも、追いかけないように」

 溜息混じりに続いた暦猫の声に、心底安堵した。良かったぁ。
 鬼ごっこしなくて良いんだ。


「……よろしくお願いします」
「……ああ」

 遺跡の正面に建設した宿舎で、喋々と会った。
 凄く嫌そうな顔をされたので、俺は短く応えて頷いた。

「大変です、指揮官のお二人に用意した部屋の片方が、水漏れしています」

 そこへ血相を変えた兵士が数人やってきた。

 見たことがないが、服装からして、第二師団と第七師団で諍いがあった際に仲裁することになっている、第八師団の人達だろう。第八師団は、聖龍直属の部隊だ。ただ聖龍は忙しいから、ここには来ていない。

「……使え」

 俺は朝蝶を見た。なんか、悪いし。俺別に、部屋とか気にしないし。
 草むらでもいけるし。

「いえ……どうぞ」

 いい人だ。
 でも冷ややかな声で朝蝶言った。これ、相当俺のこと嫌いそう。話すのも嫌みたい。
 俺、なんかしたっけ?

 あれかな……本人も、本当は嫌だったのかなぁ、俺以外選択肢なかったけど、ヤったの。そんな事言われても、俺も困る。

 俺だって、好きでヤった訳じゃないし、二度とやりたくない。ヤりたくない! 何て返そうかな。俺が黙っていると、朝蝶が顔を背けた。

「では……二人で使いましょう」

 続いた言葉に、俺は虚を突かれた。え、嘘、凄い気まずいと思うんだけど。
 じっと朝蝶を見る。何考えてんの、この人?

 よく分からないが、そう言うことになった。俺、断れなかったよ……はぁ。
 それから食事の時間まで無言の時が続いた。

 幸いベッドは二つあった。誰かが魔法で追加してくれたんだろう。元々は一人部屋のはずだったし。そんな事を考えていると、ノックの音がして食事が運ばれてきた。

 俺と朝蝶は、ベッドの合間にある、正面の机に座った。
 食事を置いて、兵士が帰っていく。

「……」
「……」

 うう、会話が生まれない。何この気まずい食卓。ご飯くらい、気楽に食べたいのに。憂鬱だよ、早く水漏れ直らないかなぁ。けど魔法でふさげないとしたら、無理だよな。俺、見てこようかなぁ。結構修理、得意なんだよね。一人で笑ってしまう。

 すると朝蝶が怪訝そうな顔をした。
 あ、多分俺のにやけ顔が気持ち悪かったんだな。

 顔を背け瞬きをした――その時だった。不意に予知が起きた。
 食事両方に毒がはいっていて、俺も朝蝶も藻掻いていた。

 ああ、俺はよく暗殺されかけるし、朝蝶も死んでも良いか、くらいのノリで、誰か食事に毒もったな、これ。俺が目を開いた時、まさに朝蝶が、毒の入ったハンバーグを切り分け、フォークを突き刺そうとしていた。まずい。

「!」

 俺は机の上の皿を、反射的に全て薙ぎ払った。
 朝蝶が目を見開き、がしゃんと割れる音が響く。あーあ。お皿、もったいない。
 それより、状況を説明しないとな。

「毒だ」

 うん、これで分かってくれるだろう。

「――毒?」

 怪訝そうに首を捻ってから、立ち上がった朝蝶が床に落ちている料理を拾った。
 え、もう食べられないと思うよ、それ。っていうか、毒入りだから。俺の話聞いてた?

「どうする気だ?」
「確認してきます」
「どうやって?」

 俺ですら予知が無かったら分からなかったんだから、恐らく新型の毒だよ。だから毒味には引っかからないはずだけど……。

「食べさせればいいでしょう? 兵士に。どうせ、ほぼ不老不死ですし」

 なんて事を言うんだ、と思い、俺は呆然としてしまった。
 スタスタと朝蝶が歩き始める。
 だめだめだめ。それ、もがき苦しんで死ぬ系だから、絶対駄目。

 死ぬって言うか、消滅……?
 は、しないまでも、神様でも千年くらい眠りにつく毒だよ、それ。

 慌てて追いかけた俺は、扉を開けようとした朝蝶の後ろから、その扉を押して締め直した。

「なんですか?」

 不機嫌そうに、朝蝶が呟いた。

「……待て」

 本当に待って、行くの待って、俺、今からその毒について説明するから!
 俺の両腕の間にいる朝蝶を見る。
 すごく不愉快そうに振り返って、俺を見上げている。

「――ああ、もう!」
「?」

 その時、急に朝蝶が、俺の体に抱きついてきた。
 相変わらず良い匂いがするなぁ。だけど、え、え? 一体、何?

「どうして貴方は――っ」

 言いかけた朝蝶が目を見開いて、俺の腕の中に倒れ込んできた。
 慌てて受け止め、すぐ側にある耳元で聞いてみる。

「なんだ?」
「っ……そ、その……ラピスラズリのビヤクの後遺症で、最初に出された貴方に触られると……体が、熱く……っン」

 何かまた、ビヤク来ちゃった……今度、ビヤクって何か調べて、薬あげよう。俺、大抵の薬は作れるし。解毒は得意だ。だってビヤクって言葉、もうそれだけで嫌な予感しかしないし。

「うあッ」

 俺の腕の中で、震えながら、朝蝶が熱い息を吐いた。
 華奢だなぁ。
 けど、胸にずっと朝蝶の全体重がかかってるから、ちょっと重い。

 俺より背は低いけど、平均で見ればそこまで低くないし、軍人(神)だからそれなりに筋肉もある。いくら腰が細くても、いくら色白でも……重いんだよ!

「離せ」

 ついムッとして言ってしまった。
 もういいや。食事、諦めよう。眠いし。

 此処まで来るの、徒歩だったから疲れてるんだ。
 兵士の神々が全員転移魔法覚えればいいのになぁ。

「寝るぞ」

 宣言し、俺は寝台へと向かった。
 ベッドに座りながら振り返ると――うう、怖い、朝蝶がすぐ側に立っていた!
 なんで? こっち俺のベッドなのに……!

「……」

 思わず無言で険しい顔をしてしまった俺は、若干泣きそうになりながら、朝蝶を見上げた。朝蝶を見上げるって、新鮮だな。

「でも……外にみんながいるのに」

 続いた小さな蝶々の声に、俺は首を傾げた。え? 何の話? そりゃあ、みんないるだろうけどさ。それがどうかしたのかな? あ、眠れないとか? 繊細だなぁ。

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