イケニエヒーロー青井くん

トマトふぁ之助

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イエロー編

夢の合間

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 昔は食いつなぐのに必死で毎日が戦いだった。
 銃を懐に入れて目についた奴から金品を奪う大人、粗悪な麻薬に浸かって夢みたまま戻ってこない若者、買った買われた攫われたで一人ずついなくなる子ども。
 往来の中央を通ればドンパチに巻き込まれるから、俺達は鼠みたいに路地裏や地下道を這い回っていた。貧民窟は不潔で理不尽で、一つ、とてもシンプルなルールのもとに成り立っていた。ここでは力こそ正義である。
 幼き鼠は考えた。奪うものと奪われるものしか、ここにはいない。
 奪う側に回るには力が必要だ。

 三つのとき。鼠は盗みを覚えた。
 ヤク中から煙草を奪い、持ち帰ったら褒められた。
 九つのとき。鼠は銃で人を撃った。
 自分を商品に博打を打たれたことを知った。その晩が明けても、父親は帰ってこなかった。
 十五のとき。鼠は力を得るため街の外に出た。
 ———貧民街をでても、銃を向けてくる警官はいなかった。

 ……鼠はいつも奪われる側にいた。毎日息を潜めて暮らしてた。
 「ヒーローになる気はないかい?」
 銃口を向けられながらの勧誘にも、後先無い鼠達は我先にと群がっていく。数名のいけ好かない研究員がカルテをチェックしながら選別を行い、その後ろで完全武装の軍人が銃を構えて不適格な者を除けていく。
 トラックに乗せてもらえたお仲間は、みな健康そうな体つきをしていた。鼠は荷台で膝を抱える。サイズの合わない大きな靴を履いていたことを幸運に思った。……背の低い者はトラックに乗ることを許されなかったからである。

 武装したトラックが何両か連なって貧民街を抜けていく。風が鼠を振り返らせた。故郷が既にほど遠い。
 鼠は、彼の親が自分を盗みの道具としか見ていないことを知っていた。周りの子どもより小柄な自分はここでは長生きできそうにないことも、よくわかっていた。
 だからこれは賭けだ。恐らく一生に一度の、後にも先にも二度とは無い賭けだ。
「……ヒーローになったら」
一匹の鼠が呟いた。
 『自分は生き延びて、大人になれるだろうか』と。
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