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金継ぎの青 上:ブルー編
赤鬼に愛撫
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「お前……顔色いいじゃねえか」
邸に戻ってすぐ、バルドは驚いたようにそう言った。三和土まで出迎えた青井はまじまじ顔を見つめられて頬が熱い。青井の背後に追いついたギレオが代わりに答えた。
「ここ毎日俺が整えてますからね!感謝してくださいよほんと」
割烹着で雇い主を威圧する若武者は、たった数日間の家事ヘルパーですっかり青井を従えている。青井自身も、兄のようにあれこれ世話を焼いてくるギレオのことが好きになっていた。これほど構われた経験は生まれて初めてである。
「本当にお世話になってしまって……」
「アオ……ブルーさんはいいの!!ボス!このおっさんに言ってんの!」
唾を飛ばしてギレオが怒鳴る。
「だいたいなんスかボス!?こいつまだ体ガッタガタじゃないですか!傷が治ったらいいっつうもんじゃないんすよ!?避妊はしなかったんですかァ!!ほんと生理的に無———、あブェッ!」
「ギッ、ギレオさん!?」
若オーガの横っ面が豪腕にぶち抜かれる。意識を失ったハウスキーパーをそのまま玄関外に叩きだし、バルドは何事も無かったかのように大扉を施錠した。乱暴者というレベルではない。
流石に非難の声をあげる青井を片手で背負いあげると、バルドは居間へ場所を移した。
「ひどいじゃないか!!ギレオさんは親戚なんだろ!?」青井が噛み付く。
「違うね。ありゃあ俺様の部下だ。いつまでたっても身内気分が抜けやしねえ未熟者さ。……心配しねえでもオーガは簡単にくたばらん。せいぜい半時気絶するだけだ」
しかし覚醒は想定外に早かったらしい。玄関の扉を叩く音が聞こえ、「おれぁ帰りますからね」と大きな声が響いてきた。青井は安堵の溜め息をつき、あの石頭めとバルドが毒づいた。疲弊した溜め息をついて、家主はソファーに腰を降ろす。
膝に抱えられた姿勢の青年妻がオーガの顔を覗きこんだ。陽色の髭も心なしかへたれている。
「……なんか、いつもより疲れてないか?」
「ああ?そう見えるか。ちょいと面倒があってなあ。ったく……」
「ふ、風呂湧いてるから準備しようか。待っててくれ、今飲み物を……」
立ち上がりかけた青井の腕を大きな掌が掴んだ。制止されたのを察したのか、青井はバルドの膝にもう一度収まりにいく。会話こそなかったが、疲労からか暗い目元が少し緩んだように思えた。
「……忘れていたけど……おかえりなさい……。」
「おう、ただいま。今日は何をしてた」
「柔軟、と料理の手伝いと……ギレオさんに按摩をしてもらった」
「そぉか。口が減らねえ若造だが、相変わらずそのへんは腕がいいみてえだな」
「……バルドは?今日はどうだった」
「俺様か?そうだな、採掘場と製鉄所まわってからめんどくせえ会議に出て……予算ぶん取ろうとしたら邪魔が入ってな!あー糞……まあそっちはどうにでもなる。むしゃくしゃするんで久方ぶりに槌振ってきた」
魔王軍幹部の執務の他、バルドはオーガ領区の炭鉱経営も行っている。高利貸し、用心棒派遣、陸上運輸業会社経営が主だった彼の収入源だ。幹部就任後は経営権の大半を配下に譲与したらしいが、それでも日々こなさなければならない仕事は多い。
「はは、ほんとだ。土埃がついてるぞ」
ほとんど無意識に青井は袖でバルドの顔を拭った。煤混じりの汚れを拭ったあと、目を丸くした大鬼と視線があう。……幼い子供にするように扱ってしまった。青井の顔は血の気が引いたり火照ったり変色が忙しい。
「あ、ご、ごめ……」
「……ん」
怒っただろうかと緊張が走るが、一瞬目を見開いたバルドは二、三度瞬きをすると無言で頬を差し出してきた。首まで真っ赤になった青年は、また丁寧に指の腹で夫の顔を拭う。巨大な腕に抱き寄せられる自然な動作にも慣れた。バルドは悪ぶってはいるが、青井に対していつも機嫌良く接してくれる男だった。にんまり笑った大きな口。覗いた牙に胸が高鳴る。
「ひひ、くすぐってえ」
温いやりとりだ。青井はこういう時本当に幸せで、でも同時にどんな顔をしていいかわからずに、薄い下唇を噛む。
しあわせだなあ。俺なんかがこんなに良くしてもらっていいのかなあ。
バルドの肩口に残った斬撃の痕が気になって、青井は無意識に額を押し付ける。
「…………。」
「ああ糞。っとに肩が凝った……。なあブルーよ。……おおい。聞いてっか?———こりゃ駄目だな。さっさと精つけさせとくか」
「……。ぇ。う、うわっ!な、なんだいきなり!ズボンを返せ!」
「回復してきたなあ、何よりだ。ブチ込まれる直前まで呆けてた頃が懐かしいぜぇ」
瞬きひとつの後には、場面が切り替えられていた。上機嫌なにやけ面が青井の視界を埋めている。手早く脱がされた部屋着に手を伸ばすが、抗議も虚しく床に放られてしまう。魔族と比較すれば当然のように厚みの無い腰を長椅子に倒され、晒される太股に舌が這い出した。
「馬鹿!変態!!やめ、この……っスケベ野郎!!」
「なんだノリ悪いなァ。お前も腹減ってんだろ?」
胸の位置まで捲られたパーカーの下、腹筋に這う淫紋の色は濃い。妊娠初期の淫魔なら当然のことだ。体を撫で付けられて何度かキスされれば青井だってそういう気持ちになるのだが、今はもう少し言葉を交わしていたかった。
「だって俺、ヤったら起きてらんなくてすぐ寝ちまうし……。せめて飯と風呂の後がいい……!」
腹が張ってきてからというもの、青井の睡眠時間は少しずつ長くなってきている。ここ数日は朝にバルドの見送りすらできていない。寝床からのっそり起き出したら昼近いのには毎回ショックを受けるが、ギレオによれば体の小さな種族ほど母親は睡眠で回復するのだという。
もっとこうしていたい。オーガの分厚い手を握って青年が訴える。
見上げればバルドが妙な顔をしていた。目が妙にぎらついているのは気のせいだろうか。
「…………ば、ばる、……勃ってる……っやだってぇ……!」
「わかってる!!わかってるがお前……糞、ちょっと待ってろ!」
「どこ行っ、あ、待てって!」
てっとり早く息子を慰めに便所へ向かおうとしたバルドの服を、青井の手が引き留める。丁度床に落ちていた部屋着を踏んづけて、バルドが勢い良く転倒した。
「グぇッ!!なにすんだてめえ!!……あ゛?なにやって……おい」
「ご、ごめ……でも、ちゃ、ちゃんと抜いてやるから……!!」
尻餅をついた大鬼の上へ乗り上げる。膝を割ってその間に身体を収め、青年は上目遣いで大鬼の腿に指をかけた。
邸に戻ってすぐ、バルドは驚いたようにそう言った。三和土まで出迎えた青井はまじまじ顔を見つめられて頬が熱い。青井の背後に追いついたギレオが代わりに答えた。
「ここ毎日俺が整えてますからね!感謝してくださいよほんと」
割烹着で雇い主を威圧する若武者は、たった数日間の家事ヘルパーですっかり青井を従えている。青井自身も、兄のようにあれこれ世話を焼いてくるギレオのことが好きになっていた。これほど構われた経験は生まれて初めてである。
「本当にお世話になってしまって……」
「アオ……ブルーさんはいいの!!ボス!このおっさんに言ってんの!」
唾を飛ばしてギレオが怒鳴る。
「だいたいなんスかボス!?こいつまだ体ガッタガタじゃないですか!傷が治ったらいいっつうもんじゃないんすよ!?避妊はしなかったんですかァ!!ほんと生理的に無———、あブェッ!」
「ギッ、ギレオさん!?」
若オーガの横っ面が豪腕にぶち抜かれる。意識を失ったハウスキーパーをそのまま玄関外に叩きだし、バルドは何事も無かったかのように大扉を施錠した。乱暴者というレベルではない。
流石に非難の声をあげる青井を片手で背負いあげると、バルドは居間へ場所を移した。
「ひどいじゃないか!!ギレオさんは親戚なんだろ!?」青井が噛み付く。
「違うね。ありゃあ俺様の部下だ。いつまでたっても身内気分が抜けやしねえ未熟者さ。……心配しねえでもオーガは簡単にくたばらん。せいぜい半時気絶するだけだ」
しかし覚醒は想定外に早かったらしい。玄関の扉を叩く音が聞こえ、「おれぁ帰りますからね」と大きな声が響いてきた。青井は安堵の溜め息をつき、あの石頭めとバルドが毒づいた。疲弊した溜め息をついて、家主はソファーに腰を降ろす。
膝に抱えられた姿勢の青年妻がオーガの顔を覗きこんだ。陽色の髭も心なしかへたれている。
「……なんか、いつもより疲れてないか?」
「ああ?そう見えるか。ちょいと面倒があってなあ。ったく……」
「ふ、風呂湧いてるから準備しようか。待っててくれ、今飲み物を……」
立ち上がりかけた青井の腕を大きな掌が掴んだ。制止されたのを察したのか、青井はバルドの膝にもう一度収まりにいく。会話こそなかったが、疲労からか暗い目元が少し緩んだように思えた。
「……忘れていたけど……おかえりなさい……。」
「おう、ただいま。今日は何をしてた」
「柔軟、と料理の手伝いと……ギレオさんに按摩をしてもらった」
「そぉか。口が減らねえ若造だが、相変わらずそのへんは腕がいいみてえだな」
「……バルドは?今日はどうだった」
「俺様か?そうだな、採掘場と製鉄所まわってからめんどくせえ会議に出て……予算ぶん取ろうとしたら邪魔が入ってな!あー糞……まあそっちはどうにでもなる。むしゃくしゃするんで久方ぶりに槌振ってきた」
魔王軍幹部の執務の他、バルドはオーガ領区の炭鉱経営も行っている。高利貸し、用心棒派遣、陸上運輸業会社経営が主だった彼の収入源だ。幹部就任後は経営権の大半を配下に譲与したらしいが、それでも日々こなさなければならない仕事は多い。
「はは、ほんとだ。土埃がついてるぞ」
ほとんど無意識に青井は袖でバルドの顔を拭った。煤混じりの汚れを拭ったあと、目を丸くした大鬼と視線があう。……幼い子供にするように扱ってしまった。青井の顔は血の気が引いたり火照ったり変色が忙しい。
「あ、ご、ごめ……」
「……ん」
怒っただろうかと緊張が走るが、一瞬目を見開いたバルドは二、三度瞬きをすると無言で頬を差し出してきた。首まで真っ赤になった青年は、また丁寧に指の腹で夫の顔を拭う。巨大な腕に抱き寄せられる自然な動作にも慣れた。バルドは悪ぶってはいるが、青井に対していつも機嫌良く接してくれる男だった。にんまり笑った大きな口。覗いた牙に胸が高鳴る。
「ひひ、くすぐってえ」
温いやりとりだ。青井はこういう時本当に幸せで、でも同時にどんな顔をしていいかわからずに、薄い下唇を噛む。
しあわせだなあ。俺なんかがこんなに良くしてもらっていいのかなあ。
バルドの肩口に残った斬撃の痕が気になって、青井は無意識に額を押し付ける。
「…………。」
「ああ糞。っとに肩が凝った……。なあブルーよ。……おおい。聞いてっか?———こりゃ駄目だな。さっさと精つけさせとくか」
「……。ぇ。う、うわっ!な、なんだいきなり!ズボンを返せ!」
「回復してきたなあ、何よりだ。ブチ込まれる直前まで呆けてた頃が懐かしいぜぇ」
瞬きひとつの後には、場面が切り替えられていた。上機嫌なにやけ面が青井の視界を埋めている。手早く脱がされた部屋着に手を伸ばすが、抗議も虚しく床に放られてしまう。魔族と比較すれば当然のように厚みの無い腰を長椅子に倒され、晒される太股に舌が這い出した。
「馬鹿!変態!!やめ、この……っスケベ野郎!!」
「なんだノリ悪いなァ。お前も腹減ってんだろ?」
胸の位置まで捲られたパーカーの下、腹筋に這う淫紋の色は濃い。妊娠初期の淫魔なら当然のことだ。体を撫で付けられて何度かキスされれば青井だってそういう気持ちになるのだが、今はもう少し言葉を交わしていたかった。
「だって俺、ヤったら起きてらんなくてすぐ寝ちまうし……。せめて飯と風呂の後がいい……!」
腹が張ってきてからというもの、青井の睡眠時間は少しずつ長くなってきている。ここ数日は朝にバルドの見送りすらできていない。寝床からのっそり起き出したら昼近いのには毎回ショックを受けるが、ギレオによれば体の小さな種族ほど母親は睡眠で回復するのだという。
もっとこうしていたい。オーガの分厚い手を握って青年が訴える。
見上げればバルドが妙な顔をしていた。目が妙にぎらついているのは気のせいだろうか。
「…………ば、ばる、……勃ってる……っやだってぇ……!」
「わかってる!!わかってるがお前……糞、ちょっと待ってろ!」
「どこ行っ、あ、待てって!」
てっとり早く息子を慰めに便所へ向かおうとしたバルドの服を、青井の手が引き留める。丁度床に落ちていた部屋着を踏んづけて、バルドが勢い良く転倒した。
「グぇッ!!なにすんだてめえ!!……あ゛?なにやって……おい」
「ご、ごめ……でも、ちゃ、ちゃんと抜いてやるから……!!」
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