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翡翠挽回 上:グリーン編
緑の瞳
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嘉名という姓は人間界では有名だ。有志の貴族から養子として引き取られた彼ら彼女らは、人間国際防衛軍直々に祝福を受けヒーロー候補生としてエリート教育を施される。歴代五名の内必ず一人、欠かすことなくヒーローとして名を連ねてきた英雄輩出の大家である。
右肩後方でゆるく結い上げた翡翠色の髪を弄りながら人類最後のグリーンが苦笑する。
「ああでも、やっぱりグリーンてのは嫌かな」
人身御供にされたときの身分をそのまま使い続けるのも、ねえ。指に巻いた毛先の束が翻り、瞳の奥には翠が揺れる。
「カナでもミドリくんでも気安く呼んでくれて構わないけど、手厚く迎えたほうが身のためだと思うよ。僕、今クラーケンカンパニーの代表やってるから」
「……クラーケン社って……。海上運輸の最大手だろうが。ホラ吹いてんじゃねえぞ」
ギレオが訝しげに嘉名を見た。海洋魔族を束ねるクラーケン族は海上貿易会社を親族経営している。独特の宗教観を持った彼ら一族は血の正統性に固執しており、海の底で陸生物とは縁遠い生活をしていた。特筆すべきはその選民思想で、陸地の生き物を「這いずるもの」と軽んじて、畜生同然に扱う傾向にある。彼らのコミュニティに、人間が入り込む余地などある筈がない。
「本当ですよ~?こないだも海底油田見つけちゃってもう大変。権利関係で揉めたけど魔族って単純だからさ。ほら、戦って負けたら相手に全面降伏でしょ。魔王の誓約だっけ?上がアレだと下々の者は苦労するよね。……こっちはありがたい限りだけど」
髪いじりを止め、青年がこちらに手の甲を向ける。細い指には似つかわしくない、厳つめの指輪が三つ首を並べていた。目を凝らしかけて思わず仰け反る。カウンター奥の清一が手を伸ばし、ギレオの傾いだ肩を支えた。
「ギレオさん!」
「て……ッてめえ!!なんてもん指に嵌めて……!!」
「残念。豚クン、これ、知ってる?うちの宰相がつけてたんだけど……一つ目で意識障害、二つ目で目が完全に潰れてぇ、三つ全部見ちゃうと身体がどろどろに溶けちゃうんだよね。とっても便利。完全に溶けた後はどうなると思う?ねえ。ねえ先輩」
金属の触れあう硬質な音がした。腰に差した剣の柄へ、清一の手がかけられている。嘉名がせせら笑う。カウンター越しにどうしようと言うのか。煽りたててやろうと腰を上げかけたその時、蹲っていればいいのに件のオーガが待ったをかけた。
「大丈夫……はっきり見ないで済んだらしい。平気だ、応じるな」
「よ、よかった……!!顔を上げないで下さい!」
「ここでドンパチやってみろ、店の奴らが巻き添えをくう。……なあ兄ちゃん。外行かねえか。ここは殺し合いじゃなくて酒を飲みに来る場所なんだよ」
笑顔のまま、嘉名は内心舌打ちをした。試しに「目」を合わさせた上級執事は瞬きのうちに骨まで溶け崩れたというのに、陸地の生き物には効果が薄いのだろうか。
「……青井先輩の前でヒトデにしてやりたかったんだけど」
いい加減ギャラリーの視線も気になってきたところだ。黒革のチョーカーをひとかき、今度こそ嘉名は腰を上げた。
右肩後方でゆるく結い上げた翡翠色の髪を弄りながら人類最後のグリーンが苦笑する。
「ああでも、やっぱりグリーンてのは嫌かな」
人身御供にされたときの身分をそのまま使い続けるのも、ねえ。指に巻いた毛先の束が翻り、瞳の奥には翠が揺れる。
「カナでもミドリくんでも気安く呼んでくれて構わないけど、手厚く迎えたほうが身のためだと思うよ。僕、今クラーケンカンパニーの代表やってるから」
「……クラーケン社って……。海上運輸の最大手だろうが。ホラ吹いてんじゃねえぞ」
ギレオが訝しげに嘉名を見た。海洋魔族を束ねるクラーケン族は海上貿易会社を親族経営している。独特の宗教観を持った彼ら一族は血の正統性に固執しており、海の底で陸生物とは縁遠い生活をしていた。特筆すべきはその選民思想で、陸地の生き物を「這いずるもの」と軽んじて、畜生同然に扱う傾向にある。彼らのコミュニティに、人間が入り込む余地などある筈がない。
「本当ですよ~?こないだも海底油田見つけちゃってもう大変。権利関係で揉めたけど魔族って単純だからさ。ほら、戦って負けたら相手に全面降伏でしょ。魔王の誓約だっけ?上がアレだと下々の者は苦労するよね。……こっちはありがたい限りだけど」
髪いじりを止め、青年がこちらに手の甲を向ける。細い指には似つかわしくない、厳つめの指輪が三つ首を並べていた。目を凝らしかけて思わず仰け反る。カウンター奥の清一が手を伸ばし、ギレオの傾いだ肩を支えた。
「ギレオさん!」
「て……ッてめえ!!なんてもん指に嵌めて……!!」
「残念。豚クン、これ、知ってる?うちの宰相がつけてたんだけど……一つ目で意識障害、二つ目で目が完全に潰れてぇ、三つ全部見ちゃうと身体がどろどろに溶けちゃうんだよね。とっても便利。完全に溶けた後はどうなると思う?ねえ。ねえ先輩」
金属の触れあう硬質な音がした。腰に差した剣の柄へ、清一の手がかけられている。嘉名がせせら笑う。カウンター越しにどうしようと言うのか。煽りたててやろうと腰を上げかけたその時、蹲っていればいいのに件のオーガが待ったをかけた。
「大丈夫……はっきり見ないで済んだらしい。平気だ、応じるな」
「よ、よかった……!!顔を上げないで下さい!」
「ここでドンパチやってみろ、店の奴らが巻き添えをくう。……なあ兄ちゃん。外行かねえか。ここは殺し合いじゃなくて酒を飲みに来る場所なんだよ」
笑顔のまま、嘉名は内心舌打ちをした。試しに「目」を合わさせた上級執事は瞬きのうちに骨まで溶け崩れたというのに、陸地の生き物には効果が薄いのだろうか。
「……青井先輩の前でヒトデにしてやりたかったんだけど」
いい加減ギャラリーの視線も気になってきたところだ。黒革のチョーカーをひとかき、今度こそ嘉名は腰を上げた。
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