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エンハンスとエンチャント
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「ざっくり説明すると、武器の性能を高めたものを強化。
属性付与と呼ばれるような、新たな力を付け加えることを乗化と言う。
他にも様々なマナ強化の仕方があるわけだが、まずはこの二つを頭に叩き込んでおけ」
以前パティから言われ、シンの記憶にしっかりと残っている言葉である。
そんな説明にピッタリの『良いものを見せてやる』と言われたからには、もちろん付いていく他ないではないか。
シンは期待と緊張に包まれながら早朝早くギルドにやってきた。
「来たか!
ヴァルが目を覚ますと面倒だからな、さっさと出かけるぞ!」
朝から元気なパティの姿を見るのは、とても嬉しかった。
こんなにも自由で、まるで羽の生えた鳥のように飛び回っている姿。
黙ってついてくるよう言われても、それを素直に受け止め、今日は何を教えてくれるのかとワクワクするシンであった。
その、少し後ろを歩くシンの横で、フェルトはパティのことを時折呟いていた。
彼女が何をしたいのかがわからない。
シンにはそういった風に聞こえたわけだが、それはそれで気持ちとしてわからなくもないものだった。
ただ、今日に限っては店に行くと言いながら、まるで別方向の住宅街を目指しているパティを変に思うシン。
と思うと、急に裏通りを目指して木箱を飛び越えるのだからビックリである。
しかもその先にあるのが、いわゆる闇市というものらしい。
ギルドでは扱わない、なかなか手に入らない素材が置いてある。
「これだよこれっ!
あぁプリモールのマナ結晶!
誰だい全く、こんなものを手に入れたのならすぐに私の元に持ってきてくれればよかったのに」
「おいおい、それじゃ俺の商売あがったりじゃねぇかよパティさんよぉ」
お目当ての素材を手に入れたようで喜ぶパティと、その後ろで店主と険悪な雰囲気のフェルト。
シンはそのフェルトの様子にも気付いてはいたが、どうして良いかわからずに並べられた品物を眺めるだけであった。
たしかにどれも見たことがないものだった。
と言っても、そもそも普通の雑貨屋ですらまともな買い物はしていない。
それでもパティから教わったことを思い出しながら一個一個眺めることにした。
きっと、自分にも気付ける何かがあるから、パティは自分を連れてきたのだろうと、そう考えていたのだ。
「確かこの感覚はエンハンス……
刀身も少し青みがかっている気がするし、これは強化された短剣か。
エンチャントは火を生み出したりする魔道具だから、きっとこれがその腕輪なのかな?」
小さな声でぶつぶつと独り言を言うシンだが、その声は二人には聴こえてはいなかった。
そんな中、一つの掘り出し物がシンの目に飛び込んでくる。
「……本当に銅貨30枚でいいんですかっ?」
一本の剣を指差して店主に問うシン。
フェルトにとってはどう見てもただの剣。
しかし、マナを感じるシンにとっては、これは先日パティから聞いたばかりの希少な品だったのだ。
エンハンスもエンチャントも、武具などに後からマナを付与させる方法をとったものである。
この際に多少の色味を帯びるわけだが、それは元々の素材のもつ色素までが混ざってしまうためらしい。
別段使用するのに害があるわけでもなく、むしろエンハンス済みだとわかれば価格はグッと上がる。
しかし中には色味を帯びない付与もある。
いわゆる『ドロップ品』と呼ばれるもので、魔物が不純物として核の中に取り込んでしまった武具などのことである。
つい先日、物見部屋で教えてもらったこと。
それを思い出しながらシンは剣を欲しくなってしまったのだ。
「もし、大きなマナの力を感じるのに色味を持たないものがあった場合、それは魔物に取り込まれたアイテムと見て間違いない。
一般的に私たちが合成する魔道具は素材の持つ色素までもを一緒に付与させるのだが、それはマナの性質によって仕方なく行われるものだ。
しかし魔物自身が先にその色素を奪うためか、魔物の核の中でマナが付与されていく際には色味は一切持つことはない」
「僕がスライムに剣を取り込まれそうになったアレも、もしかして放っておいたら強化されたりしたんですか?」
「その可能性がないとも言えないが、まず第一に時間がかかる。
合成作業は数時間程度だが、魔物の核で成長する武具は同じことに数日はかかってしまうからな。
あと、ドロップ品に関しては見つけた者の物になるわけだが、そんなリスクをおかしてアンタは剣を差し出すのかい?」
「いやそれは……」
そんな会話を思い出しながら、目の前の剣が希少な物だと確信するシンは、店主に取り置きをお願いする。
自身の感覚を信じるのなら、この剣は武器屋にあるどの剣よりも強いはずである。
「初めての客は大事にしねーとな。
今回だけだぜ坊主、数日以内に金を持ってくるんだな」
「あ、ありがとうございます!」
チラッとパティの方を見たシンの目には、こちらを見ながらニヤリと笑みを浮かべるパティの姿があった。
きっとこれを見せるために連れてきたのだろう。
そう思うとたまらなく嬉しく感じるシンだったが、またその横で訝しげな表情を続けるフェルトの姿もあったのだった。
『第3話 終』
属性付与と呼ばれるような、新たな力を付け加えることを乗化と言う。
他にも様々なマナ強化の仕方があるわけだが、まずはこの二つを頭に叩き込んでおけ」
以前パティから言われ、シンの記憶にしっかりと残っている言葉である。
そんな説明にピッタリの『良いものを見せてやる』と言われたからには、もちろん付いていく他ないではないか。
シンは期待と緊張に包まれながら早朝早くギルドにやってきた。
「来たか!
ヴァルが目を覚ますと面倒だからな、さっさと出かけるぞ!」
朝から元気なパティの姿を見るのは、とても嬉しかった。
こんなにも自由で、まるで羽の生えた鳥のように飛び回っている姿。
黙ってついてくるよう言われても、それを素直に受け止め、今日は何を教えてくれるのかとワクワクするシンであった。
その、少し後ろを歩くシンの横で、フェルトはパティのことを時折呟いていた。
彼女が何をしたいのかがわからない。
シンにはそういった風に聞こえたわけだが、それはそれで気持ちとしてわからなくもないものだった。
ただ、今日に限っては店に行くと言いながら、まるで別方向の住宅街を目指しているパティを変に思うシン。
と思うと、急に裏通りを目指して木箱を飛び越えるのだからビックリである。
しかもその先にあるのが、いわゆる闇市というものらしい。
ギルドでは扱わない、なかなか手に入らない素材が置いてある。
「これだよこれっ!
あぁプリモールのマナ結晶!
誰だい全く、こんなものを手に入れたのならすぐに私の元に持ってきてくれればよかったのに」
「おいおい、それじゃ俺の商売あがったりじゃねぇかよパティさんよぉ」
お目当ての素材を手に入れたようで喜ぶパティと、その後ろで店主と険悪な雰囲気のフェルト。
シンはそのフェルトの様子にも気付いてはいたが、どうして良いかわからずに並べられた品物を眺めるだけであった。
たしかにどれも見たことがないものだった。
と言っても、そもそも普通の雑貨屋ですらまともな買い物はしていない。
それでもパティから教わったことを思い出しながら一個一個眺めることにした。
きっと、自分にも気付ける何かがあるから、パティは自分を連れてきたのだろうと、そう考えていたのだ。
「確かこの感覚はエンハンス……
刀身も少し青みがかっている気がするし、これは強化された短剣か。
エンチャントは火を生み出したりする魔道具だから、きっとこれがその腕輪なのかな?」
小さな声でぶつぶつと独り言を言うシンだが、その声は二人には聴こえてはいなかった。
そんな中、一つの掘り出し物がシンの目に飛び込んでくる。
「……本当に銅貨30枚でいいんですかっ?」
一本の剣を指差して店主に問うシン。
フェルトにとってはどう見てもただの剣。
しかし、マナを感じるシンにとっては、これは先日パティから聞いたばかりの希少な品だったのだ。
エンハンスもエンチャントも、武具などに後からマナを付与させる方法をとったものである。
この際に多少の色味を帯びるわけだが、それは元々の素材のもつ色素までが混ざってしまうためらしい。
別段使用するのに害があるわけでもなく、むしろエンハンス済みだとわかれば価格はグッと上がる。
しかし中には色味を帯びない付与もある。
いわゆる『ドロップ品』と呼ばれるもので、魔物が不純物として核の中に取り込んでしまった武具などのことである。
つい先日、物見部屋で教えてもらったこと。
それを思い出しながらシンは剣を欲しくなってしまったのだ。
「もし、大きなマナの力を感じるのに色味を持たないものがあった場合、それは魔物に取り込まれたアイテムと見て間違いない。
一般的に私たちが合成する魔道具は素材の持つ色素までもを一緒に付与させるのだが、それはマナの性質によって仕方なく行われるものだ。
しかし魔物自身が先にその色素を奪うためか、魔物の核の中でマナが付与されていく際には色味は一切持つことはない」
「僕がスライムに剣を取り込まれそうになったアレも、もしかして放っておいたら強化されたりしたんですか?」
「その可能性がないとも言えないが、まず第一に時間がかかる。
合成作業は数時間程度だが、魔物の核で成長する武具は同じことに数日はかかってしまうからな。
あと、ドロップ品に関しては見つけた者の物になるわけだが、そんなリスクをおかしてアンタは剣を差し出すのかい?」
「いやそれは……」
そんな会話を思い出しながら、目の前の剣が希少な物だと確信するシンは、店主に取り置きをお願いする。
自身の感覚を信じるのなら、この剣は武器屋にあるどの剣よりも強いはずである。
「初めての客は大事にしねーとな。
今回だけだぜ坊主、数日以内に金を持ってくるんだな」
「あ、ありがとうございます!」
チラッとパティの方を見たシンの目には、こちらを見ながらニヤリと笑みを浮かべるパティの姿があった。
きっとこれを見せるために連れてきたのだろう。
そう思うとたまらなく嬉しく感じるシンだったが、またその横で訝しげな表情を続けるフェルトの姿もあったのだった。
『第3話 終』
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