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ドグマ組騒動編

5.エドワード・マクレーンという男(5)

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 そんな英雄志望のサクちゃんの質問に、エドワードさんは肩を竦めて答えた。

「ハンが関わっているという証拠はない。ドグマ組の傘下にいることは話したが、それ以上の情報は得られなかったと報告を受けているからな。ただ、可能性は高い。ドグマ組の組長ドグマは現在病床にある。意識も朦朧もうろうとしているという話だから、まぁ、サクヤの言う通り、若頭のハンが関わっていると見るのが筋だな」

「その組長さんって、やっぱり悪どい感じなんすか?」

「うーむ、難しいところだ。元は流れ者でな、どこから来たのかは知らんが、金貸しと賭博で成り上がったという話だ。昔はそれなりに名の知られた冒険者で、ジオなんかは生意気な口を利いてよく叱られていたな。酒をおごってくれたり、腹を空かせた新人冒険者に飯を食わせてやったりと面倒見の良い人だったんだが……」

 ドグマ組長は冒険者を引退した後、娼館と賭博場の経営を始めたらしい。賭博場に付随して金貸しも行うようになったが、その辺りから雲行きが怪しくなったという。

「別に言う必要もないが、この三つは上手く絡む。賭博で金をすった女に金貸しを利用させ、借金が返済できなければ娼館で文字通り体で払わせるといった具合にな。悪質なのは、それを意図的に行えるということだ」

「イカサマっすね。あるあるだなー」

「金貸しの方も、所謂いわゆる、高利貸しでな。一度借りると返済は不可能に近い。それを知っているから借りた方も賭博で一獲千金を狙うしかなくなるが、イカサマだから返ってはこない。これが厄介でな。どれだけ取り締まっても無限に湧いてくる」

「無理でしょうね。法に触れてもやる奴はやりますよ」

 サクちゃんがうつむいたまま言葉を続けた。

「俺の父親もそうでした。真面目な人だったんですけどね、人に誘われて一度遊んでからはギャンブル漬けになりました。借金を重ねて最後は消息不明です」

「え、サクちゃんは大丈夫だったのそれ?」

 サクちゃんは少し寂しげに苦笑する。

「母親が見切りをつけるのが早くてな。最初の借金が分かった時点で離婚したんだ。俺と兄貴は母親に引き取られたお陰で借金取りに追われるような生活はせずに済んだ。まぁ、父親が嫌いだった訳ではないからな。寂しい思いをしたくらいか」

「じゃあ、マツバラって母方の姓なんだ」

「ああ、元の姓はマサキだ」

 サクちゃんの言葉を聞き、エドワードさんが驚いた顔をして立ち上がった――。

 俺は回想を終え、足を止める。寮の前に着いた。

 軽く屈伸と上半身のストレッチをした後で、術で水を出して髪と顔を洗い、手拭いで拭き取る。

 まさかもまさかの話、だよなぁ。

 エドワードさんが言うには、ドグマ組長の姓もマサキだった。これには全員絶句したが、最も驚いていたのは間違いなくサクちゃん。

 というのも、サクちゃんの父親の名前はトクマ。漢字にすると独久真。ドグマとも読める。偶然の一致とは思えない。

 現在は病床にあるとのことなので、エドワードさんに見舞いを取りつけてもらうことになったが、果たしてどうなるのやら。

 なるようにしかならんか。

 俺は大衆食堂に入り、先に食事をしていたフィルとヤス君に合流した。サクちゃんはエドワードさんとの会見の日以来、一人でいる時間が多くなった。早くまた一緒に朝食を食べる日が戻ってこればいいと願っている。
 
 
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