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ドグマ組騒動編

6.ドグマ組長のお見舞いに行こう(1)

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 翌日――。俺たちはエドワードさんと共に二頭立ての立派な馬車でドグマ組長が静養しているという場所へと向かっていた。

 エドワードさんが「途中で少し寄る場所がある」と言うので、手土産でも用意しに向かうのだろうと呑気に思っていたのだが、馬車が止まったのは繁華街の手前。まさか、と嫌な予感を抱えて車窓を覗くとサイガさんとヒューガさんの姿が。

 やっぱり……。

 装いは相変わらずの着物とスーツ。強面こわもて任侠にんきょうとマフィアにふさふさした可愛らしい猫耳がもれなく付いている。いつ見ても破壊力抜群な組み合わせに震える。混ぜるな危険とは彼らの為に用意された言葉ではないかとさえ思う。

 俺はもう慣れたが、ヤス君とサクちゃんは大丈夫だろうかと不安になる。一応、口頭でサイガさんとヒューガさんの見た目について伝えてはあるので心構えはできていると思うけれども。

 様子を見たところ大丈夫そうだった。あれをこらえるとは大したもんだ。初見殺しもいいところなのに。

 外では数人の護衛と思しき男たちがサイガさんとヒューガさんの周囲を警戒している。なんだか物々しい雰囲気となってきて、ちょっと考えていたのと違うぞこれはと脂汗あぶらあせが浮いてくる。

 お見舞いに行くだけだよね?

 エドワードさんが席を立つ。それを見て俺たちも腰を上げたが「ユーゴ以外はここで待て」という指示が出たので、ヤス君とサクちゃんはまた座席に腰を下ろした。

 二人とも特に不満があるように見えないので安心した。俺だけ特別扱いされてるみたいなのはどうも気が引ける。と思ったが、二人はむしろホッとしているようだった。流石に面と向かうと笑いをこらえる自信がないようだと覚る。

「遠目で慣れておいてね」

「バレてましたか。あれはヤベー奴っす。聞いてて良かったっすよマジで。事前情報なく見てたら死んでましたよ」

「狂気の沙汰だよな。元の世界だと威嚇行為で捕まるレベルだろ。失礼な話だが」

 あれを威嚇と言うか。サクちゃん時々分からん。

「まぁ、こっちの常識、非常識だからね。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

 二人にそう声を掛け、俺はエドワードさんを追って馬車から降りた。そしてサイガさんの前に立った訳だが、突然エドワードさんが深々と頭を下げたのでギョッとした。

 えっ⁉ なにこれどうなってんの⁉

 状況に混乱しつつ、俺も慌てて頭を下げる。領主が頭を下げているのに棒立ちはまずいだろう。

「サイガさん、お久し振りです。今日はよろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いしまーす!」

 よく分からないまま後追い挨拶。戸惑いが大きく、若干、野球の試合開始前のようになってしまったが、後の祭り。

 しまったと思いながら顔を上げると、サイガさんがしかめっ面で呆れたように深い溜め息をいた。

「おいエディ、街中で領主が俺みたいなもんに頭を下げるのは感心しねぇぞ。領民どころかユーゴも呆気に取られちまってんだろうが。堂々としてろ馬鹿たれが」

 エドワードさんは「はい、失礼します」ともう一度軽く頭を下げてからヒューガさんに向き直った。

「久し振りだな。二人共出て組の方は大丈夫か?」

「心配は無用です。あちらと違って、下は真っ当に育っていますんでね。旦那の方こそ、仕事を放り出して大丈夫ですか?」

「なに、これも仕事のうちだ。護衛の件、よろしく頼む」

 ヒューガさんが「つつがなく」と頭を下げる。

 話が途切れたようなので、俺は二人に向かい話し掛けた。

「サイガさん、ヒューガさんお久し振りです。今日はどうしてお二人が?」

「何でぇ、ユーゴ、エディから何も聞かされてねぇのか?」

 俺が「はい」と答えると、エドワードさんが口を開いた。

「俺もそう暇ではありませんので。馬車の中でも話せると思いまして」

「まぁ、旦那のおっしゃる通りかと。ユーゴさん、取り敢えずは馬車でということで」

 ヒューガさんにうながされ、俺は「分かりました」と返事をして馬車へ戻った。

 エドワードさん、ヒューガさんの順に乗り込み、次が俺。とどこおりなく乗車を済ませたが、最後に乗ったサイガさんだけはそうならなかった。一歩足を踏み入れたところで動きを止め、表情を驚きに染め上げた。

「こいつあ驚いた。お前ぇがサクヤだな」

 サクちゃんが戸惑った様子で「はい」と答える。サイガさんは目をしばたかせた後で、こめかみを挟むように目を覆い、かぶりを振った。

「何てこった。息子がいるってなぁ本当だったか」
 
 
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