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明かされる真実編
15.そんな馬鹿なと言うに値する話(7)
しおりを挟む「殺した? ハンは部下、というか、優秀な手駒って感じじゃなかったんですか?」
「ん? ああ、ないない。ハンはアルネスの街の担当だったけど、なんちゃら組とかいう組織も壊滅しちゃったみたいだし、もう用済みってとこ」
「のう、ギー。チエはそろそろ呼び戻して良いのではないか? あれもいらんじゃろう。妾、久し振りにクンルンを食らいたいのじゃが」
チエの名が出て体が強張った。が、二人はまた俺が怯えただけだと思ったのか、気にもされなかった。
「指示出しくらい自分でやんなさいよ、まったく。さて、坊や、聞いてくれてありがとね。話は終わりだ。狩りの獲物にしちゃって悪かったね」
「あ、いえ、はい。勉強になりました」
「怒りもしないか。うーん、坊や、やっぱり見どころあるよ。リンドウたちにあの話を伝えたら帝都においで。歓迎するから」
「来ぬなら、次に会うときは敵同士じゃのう」
「そうならないことを祈ろう。あ、そうそう」
突然、腹に衝撃を受けた。その直後には背中。視界が一瞬で変わった。何が起きたのか気づいたのは、地べたに尻が着いてからだった。
「ぐほっ」
口から鮮血が溢れ出る。そこでギーに腹を殴られたことを覚る。木の幹にしこたま背中を打ち付け、今はそれが背もたれになっている。
何で、急に……?
体の内側が破裂したような激痛に慄きながら、俺はギーを見上げた。すると、ギーは初めて表情を曇らせ鼻を鳴らした。
「何を驚いた顔してんの? 他人の嫁さん殺しかけといて、何もなしに許される訳ないでしょうよ。これでイーヴン。いや、これからイーヴンにしてあげるよ。それで水に流す。後腐れなしだ。さ、ニルリティ。クンルンの前に食前酒だ」
「おお、粋なことをするのう。流石、妾の旦那様じゃ」
ニルリティが嬉々として近づき、俺の髪を掴んで顔を寄せた。そして、気づけば俺の口はニルリティの口で塞がれていた。
唇をこじ開けるようにして、舌が入り込んできた。まるで溢れる血の一滴もあますことなく舐め取ろうとしているかのような、念入りな動きに目眩がする。
この世界に来て最初の接吻の相手が人妻かよ。というふざけた思いが脳裏を過ぎった頃、ニルリティが俺から顔を離した。
ごくり――。
妖艶な笑みを浮かべるニルリティが、赤く染まった口許を拭う。
何だよ、それ……!
その手は、欠損したはずの左手。ニルリティは既に再生を終えていた。
「なんたる美味。ギーよ、やはりこの坊主、このまま捌いて持って帰らんか? 軍に被害を出した咎もあろう?」
「何言ってんの。そんなの駄目に決まってんじゃないのよ。坊やにはリンドウたちに伝言頼んであるんだから」
「むぅ、口惜しいのう。良かったのう、坊主」
名残惜しげな表情で、ニルリティに唇を舐められる。俺は全力で回復術を使っていたが、まだ動けそうもなく、何の抵抗もできなかった。
「行くぞ、ニルリティ。それじゃあ、坊や、帝都で待ってるよ。俺ちゃんたちと共に桃花仙を救おうじゃないの。なーんてな。バイバーイ」
そう言ってギーは影に沈んだ。ニルリティを引き連れて。
マジか……。
聞いた通り【光球】を浮かべていたのに【影転移】が使えている。ニルリティが全属性を帯びているのはステボで確認済みだが、実際に対立属性にある術が同時使用される光景を目にすると、俺は頭を抱えずにはいられなかった。
あんなのと渡り合えってのかよ……。
リンドウさんとスズランさんが、どれだけ無茶を言っているのかが身に沁みて分かり、俺は絶望を感じずにはいられなかった。
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