上 下
387 / 409
明かされる真実編

16.はじめてのおつかい(1)

しおりを挟む
 
 
 見覚えのある茶の間で、リンドウさんとスズランさんが並んで座っている。食卓を挟んだ向かいにはウイナちゃんとサイネちゃん。

 俺はウェズリーの街に戻って鍛冶屋で色々とこなし、宿の部屋で精根尽き果て、懊悩おうのうを抱えて寝たはずなのだが、何故かリンドウ邸にお邪魔していた。

 どうやら心の負担が大きくなりすぎて、リンドウさんたちに会いたくなってしまったのだと思う。或いは、ギーから例の件を伝えるように言われたからか。またしても【精神感応】が見せる夢の中に入り込んでしまったようだ。

 それにしても、リンドウさんとスズランさんは表情が硬い。居住まいを正しているのも気になる。一体何があったというのだろうか。

 相変わらず、俺の姿は誰にも見えていないようなので、部屋の中を浮いて移動しながら様子を観察することにした。

「ウイナ、サイネ、呼び出したのは他でもない。ちょっと手が離せん用事ができてもうてな。悪いんやけど、アルネスの街まで、おつかいに行ってきてくれんか?」

「おつかいなのです?」

 サイネちゃんがこてんと首を傾げる。なんて可愛らしいのだろうと俺が悶絶している間に、スズランさんが「うむ」と頷く。

「ウイナは【異空収納】、サイネは【影転移】を習得したであろう? 算術も相当できるようだからな。それを活用する練習だ」

 ウイナちゃんが緊張した面持ちで「わ、分かったのじゃ」と言って頷く。お姉ちゃんだから意気込んでいるようだ。なんて尊い。

「ウ、ウイナとサイネの、二人だけで行くのじゃな?」

「いや、サツキも一緒や。そろそろ本腰入れてマモリの修行を始めよ思うてな。これもその一環や。シラセを守る責任感をつけさせるのに丁度ええやろ」

 そう言って、リンドウさんが小さな巾着袋をウイナちゃんの前に置く。

 ウイナちゃんはそれを手に取り「ほえ⁉ ずっしりしとるのじゃ⁉」と驚いた様子で呟き、開いて中を覗き込む。

「き、金貨がいっぱいなのじゃ!」

「ほうや。大きいお金やから気ぃつけるんやぞ。うてきて欲しいもんは、一緒に入れてある紙に書いてあるからな。ほんなら、頼んだで」

 サイネちゃんが「はいなのです」と言って、ウイナちゃんの手を取る。

「ウイナ、まずはサツキを呼びに行くのですよ」

「そ、そうじゃな。サイネ、何も心配いらんのじゃぞ? サイネのことは、ウイナが守るのじゃ」

「違うのです。二人ともサツキに守ってもらうのですよ」

 二人が影に沈んで消える。途端にリンドウさんとスズランさんが「はぁー」と深い溜め息をいて、空気が抜けたように脱力した。
 
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

銀色狼と空駒鳥のつがい 〜巡礼の旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

あなたに愛や恋は求めません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:100,068pt お気に入り:8,839

可愛いあの子は溺愛されるのがお約束

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:6,818

どうやら、我慢する必要はなかったみたいです。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:71,370pt お気に入り:3,720

軍事大国のおっとり姫

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:80

背徳のアルカディア

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:70

処理中です...