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挿話【夏の紅い月夜の下、紅い瞳の孤独な彼と】

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 タオルで体をぬぐってもらった。
 恥ずかしい気持ちを分かってくれて、ルインがまぶたを下ろしてくれた。
 暗闇の中で触れられると安心した。
 ルインの手はいつでも優しい。
 泣きたくなるくらい。

「私のものだから、大きいけれど」

 ううん、ルインのが着れて嬉しい。ありがとう。

 ルインがローブを羽織らせてくれた。
 サイズは大きいけれど、気にならなかった。
 何も感じないのが残念だった。
 着心地が良さそうな生地なのに、その肌触りを味わえないのが悔しかった。

 けど、柔らかい花のような匂いが分かったからそれで良かった。
 息はしていなくても漂う香りは感じ取れていた。
 ルインと同じ匂いがして幸せだった。
 彼に抱きしめられているようだった。

 私はルインに抱え上げられて、寝室へと運ばれた。

 ランプの案内は相変わらず続いていて、おどけたようにお辞儀をしてくれたりもした。それがルインのいたずらなのは知っていた。
 そういう茶目っ気のある人なのが嬉しかった。

 心が豊かになってるのが分かる。
 ルインが私をそうしてくれているって繋がりが教えてくれた。
 私の心をいやすために、ずっと魔力が与えられている。
 どこまでも優しい人だと思う。

 寝室は一人で過ごすには広すぎるように感じた。
 この洋館もそうだけど、より孤独感が大きくなってしまう気がする。

 ルインがずっとここで暮らしているんだと思うと、寂しかったろうなと同情してしまう。余計なお世話かもしれないけれど。

「そんなことはないよ」

 ごめんなさい。私、うるさくない?

「ちっとも。さぁ、ヒメ。おやすみの時間だよ」

 ルインが微笑んで私をベッドに寝かせてくれた。
 とても大きなベッドで、天蓋てんがいまで付いている。薄いレースのカーテンが柱に束ねられていて、貴族が使うものだと一目で分かった。

 私が寝てもいいのかな?

「もちろん。それより、不都合はない?」

 それを探す方が大変そう。ありがとう。ルイン。

 ルインは最初に会った頃より心配性になっているみたいだった。
 私を離したくないという思いが伝わってくる。
 寂しそうな眼差まなざしが子犬のように見えて、愛おしくてたまらなくなる。

 どうして私は死んでいるのだろう。
 もし体が動くのなら、今すぐにでも貴方あなたを抱きしめてあげられるのに。
 その孤独を私にも分けてほしい。
 貴方あなたが癒やしてくれたように、私も貴方あなたを癒やしたい。

 ルインは紅い瞳を涙に沈めた。
 私の思いを受け取ってくれたのが分かる。
 孤独を覆っていた氷が溶けて、冷たい寂しさが流れ込んでくる。
 それと、雪の中にぽつりと立つ彼の記憶も。

 ルインは生まれてすぐに父に捨てられていた。
 母の血筋に潜んでいた魔族の種が、ルインの中で芽吹いてしまったからだ。

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