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【2巻発売記念番外編】おじさまの来訪

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2巻発売記念の番外編です。
2巻購入のご報告いただき、本当にありがとうございます( ´ ▽ ` )ありがたやー!

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ベーコンの試食会という名の宴会をしてから半月ほど経過した頃、ガルバノおじさまが我が家へとやってきた。
お父様ではなく私に用があるとのことで、ミリアが自室にいる私の元へその旨を伝えにきた。
「おじさまが? 一体何かしら?」
ベーコン関係のことは試食会後に異例の速さで納品されたはずだし……はて、今おじさまにお願いしていた道具や研ぎなどのメンテナンスに出したものもなかったと思うけれど……?
心当たりがないまま、私はおじさまが待つ応接間へと向かったのだった。

「おじさま、ようこそいらっしゃいませ。私に何かご用ですか?」
ミリアや他の使用人の目もあるので、いつもより丁寧に挨拶をしておじさまに訪問の理由を尋ねた。
「おお、嬢ちゃん。突然尋ねてすまんな。見せたいものと、ちと頼みたいことがあってきたんだ」
あら、おじさまが私に頼み事だなんて珍しい。逆ならいつものことなのだけれど。
「お願いだなんて水くさいですわ。おじさまにはいつもお世話になっていますもの。私にできることでしたらお手伝いしますわ。それに、見せたいものとは何ですの?」
おじさまが私に無理難題を押し付けることはないだろう。逆は……これまたいつものことだけどね。
「おお、見せたいものとはこれなんだが」
おじさまがそう言いながらいそいそと私に見せてくれたのは、ジョッキだった。
一般的に木製のジョッキが多いのに、そのジョッキは金属製だった。表面には繊細で精緻な模様が施されており、持ち手の部分には石がはめ込まれていた。……もしかして、この石は魔石?
「おじさま、これは……?」
「ベーコンの試食会の時、冷えたエールを飲ませてくれたのを覚えとるか? あれをどうしたら家でもできるか嬢ちゃんに尋ねたらヒントをくれたろう?」
そういえば、冷えたエールは好評だった。おじさまが自宅で飲むときも冷えたのが飲みたい、でも大量のエールを冷やしておく場所がないと嘆いていたから、飲む都度冷やしてはどうか、ジョッキが冷えるような魔導具なんかがあればいいのではないかしらとおじさまと魔導具について盛り上がったような気がしなくもない。
「確かにそんなお話をしましたわね……ということは、これは……」
「そうだ、冷却機能がついたジョッキを拵えてみた!」
さ、さすがおじさま……お酒をより美味しくする努力を惜しまないあたり、本当にぶれないわ……!
「冷却機能とおっしゃいましたが、これはどうやって冷やすのですか?」
「おお、これはな、こうやって……」
おじさまは出されていた熱い紅茶をジョッキに注ぐと、目の前で冷やして見せてくれた。魔石に魔力を流すと、模様に見せかけた術式が展開してジョッキの中身が冷えるようになっているらしい。
「ジョッキを魔導具化したのですか⁉︎」
本当に魔導具を作ってしまうとは。これ、ものすごーくお高いのでは……⁉︎
「あら?でもこれおじさまが作られたのですか?」
おじさまがご自分で魔導具を作れるだなんて初耳だけど……
「おお、ジョッキの部分はわしが拵えたが、魔導具化するのは他のモンにやらせたんだ。それでなんだが、そいつがこのジョッキをえらく気に入ってなぁ。自分も作りたいんだがええだろうかと頼まれたんだ。嬢ちゃんの権利とかあるが、ええかの?」
「他の方……ですか? 私が作ったわけではありませんし、製作者の権利はおじさまにありますわ。おじさまが良いのでしたら私は別に構いませんが……一体どなたがこれを?」
「わしの工房の近くに店を構える魔導具屋だ」
「え……」
魔導具屋。少し前にちょっとしたことで関わった人物を思い出し、それ以上問いただすのを止めた。
その代わりといってはなんだけど、私もその魔導具を発注することにした。だってほんのちょっと魔力を流すだけで冷えるだなんてとっても便利そうなんだもの。
ただし、魔力の流しすぎには注意が必要らしいので、私の場合は気をつけないといけないみたいだけど……うん、中身をかっちこちに凍らせる予感しかしない。
「そ、そうですか……あの、もしよろしければ、私用にも10個ほどお願いできますか? このジョッキほど大きくなくてもいいので……」
私も冷えた果実水やお茶を手軽に飲みたいし、他の人に飲み物をふるまう時のためにいくつか確保しておきたい。
ゴブレットのような形なら、なにかと使いやすいだろうか、いや、魔導具化する細工のためにある程度サイズが大きくないといけないのならジョッキのままでもいいし、いっそピッチャーにしてもらえばいいかもしれない。そうおじさまに伝えると、二つ返事で引き受けてくださった。
お値段もアイデア料として格安で。い、いいのかなぁ……?

上機嫌で帰られるおじさまを見送りながら、世間って狭いなぁ……と思った私なのだった。

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2巻発売記念としての番外編でした。
これは2巻の内容&書籍帯のQRコードからアンケートにお答えいただくと読める書き下ろし番外編と連動したお話になっております。合わせてお読みいただくとより楽しめるかと思います。
まだお読みでない方は、ぜひぜひ読んでやってくださいませ( ´ ▽ ` )
「転生令嬢は庶民の味に飢えている」2巻、現在発売中でございますー!
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