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「馬車でもそれとなく確認したけど……クリステア嬢、君は契約者だね?」
……そこまでどストレートに確認されたら「はい」としか答えようがないじゃないか。
「……はい」
ああ……入学式前にバレるとか想定外すぎる。
私、これからどうなっちゃうんだろう。
正式には入学前なんだし、自宅に帰されて聖獣契約者として国に報告されちゃうんだろうか。うあー、そうなったら今まで頑張って隠してたのが水の泡じゃないの……
「さっきの様子から察するに、このお二人がクリステア嬢と契約している聖獣様で間違いないんだね?」
「……はい」
ごめん、真白ましろ黒銀くろがね。これまで日陰の身で耐えてもらっていたのに……
「素晴らしい!」
「……え?」
暗澹あんたんたる思いでうつむいていた私がニール先生の言葉に顔を上げると、先生はとてもいい笑顔で私を見ていた。
「あの……?」
「僕は魔物学の教師だけど、元々聖獣について研究していたんだ」
「え……っ? は、はあ……」
突然始まったニール先生の自分語りになんとリアクションしてよいものか戸惑う私に気づくことなく先生は話を続けた。
「僕は昔から聖獣契約に憧れていてね。どうにか自分も聖獣契約ができないものかとあれこれ調べているうちに魔物に詳しくなったんだ」
「はあ……」
「それでね、研究の一環として魔獣契約はしたんだけど、聖獣契約は叶わなかったんだ……」
「そうですか……」
にこやかな表情から一転、悲痛な顔で語っていた先生はリアクションに困る私の様子に気づいたようでまた笑顔になった。
「ああ、でもいいんだ。今は魔獣契約のおかげで相棒もできたことだし。それに、これからはじっくり研究ができそうだからね!」
「……え?」
ニール先生はとてもいい笑顔で言い放ったけど……じっくり研究って、どういう……?
「というわけで、歓迎するよ。ようこそ、特別寮へ!」
「と、特別寮?」
なにその特別寮って?
「ニール先生、クリステアが驚いているではありませんか。ちゃんと説明してやってください」
そうそう、言ってやってお兄様!
もう何がなんだかわからないんだけど⁉︎
「え? 聖獣契約しているクリステア嬢が特別寮に入るのは当然の流れだろう?」
ニール先生はキョトンとして言った。
だから、その特別寮って何なの?
ここって、女子寮じゃないの⁉︎
私がパニックになっていると、談話室のドアが開き、年配の女性が入ってきた。
「まあ、こんなところにいらしたのね。女子階の鍵をお持ちしましたよ」
「ああ、ミセス・ドーラ。ありがとうございます」
ニール先生はすっと立ち上がり、ミセス・ドーラと呼ばれた女性の元へ向かうと鍵の束を受け取った。
「ミセス・ドーラ。女子寮に入寮予定だったクリステア・エリスフィード嬢は特別寮に入寮することになりました。先に届いていた荷物の移動をお願いします」
「あらまあ! 今年は珍しいこと」
「えっ! こ、ここは女子寮ではないのですか?」
女子寮から移動って、どういうことなの。
「まあぁ、ニール先生? 貴方、クリステアさんにちゃんとご説明なさったの?」
ミセス・ドーラなる女性は、私が慌てて発した言葉に反応し、ニール先生を問い詰めた。
「え……っ、いやあの、今しがた説明を……」
「ミセス・ドーラ。ニール先生からは詳しい経緯を説明していただいていません」
しどろもどろのニール先生の言葉を遮るように、お兄様がピシャリと言った。
「……そんなことだと思いましたよ。ニール先生のことですもの。研究のことに夢中でろくにお話もしていないに違いありませんわ」
ミセス・ドーラはほう、とため息をひとつ吐いてニール先生を見ると、先生は身を縮こまらせた。
「め、面目ない……契約者が入寮ってだけでもすごいのに、聖獣契約だよ? これでも興奮を抑えるのに必死なんだ! 今年は稀に見る大豊作だよ!」
「落ち着きなさいな、ニール先生。ええと、クリステアさんだったわね。エリスフィード公爵のご令嬢ね。私はドーラ・メイスン。女子寮の寮監です。ドーラと呼んでちょうだい」
ミセス・ドーラは呆れたようにニール先生を嗜めると、私に向き直って自己紹介した。
「は……はい。クリステア・エリスフィードです。よろしくお願いいたします。あの……私は女子寮に入れないのですか?」
おずおずと尋ねると、ミセス・ドーラはにっこり微笑んで私達に座るよう促した。
「お茶を淹れなおしましょうね……ニール先生? 貴方またこんなでたらめな淹れ方をして!」
「す、すみません……この方が効率的かと思いまして」
ニール先生はミセス・ドーラにピシャリと叱られ、ますます身を縮こまらせた。
「お黙りなさい。相手をもてなすのに効率など関係ありません。心を込めるのがまず先ではなくて?」
「は、はい……」
ミセス・ドーラはニール先生を叱る間もテキパキとお茶の支度を調えていった。
そしてゆっくり丁寧にお茶を淹れながら、茶葉を蒸らしている間に腰に下げていたポーチから紙とペンを取り出し、ささっと何かを書きつけると近くの窓を開け、短い詠唱のあとその紙にふうっと息を吹きかけた。
すると、紙は鳥の形に変化して飛び去った。
「わあ……っ」
えっ、すごい! なにあれ? 式神っぽくてかっこいい!
「ごめんなさいね。あれは手紙を送る魔法で、女子寮に届いていた貴女の荷物をこちらに運ばせるよう指示をしたの」
「あの……特別寮って何ですか? 私は女子寮に入れないのですか?」
「入れないわけではないのだけれど……契約者は基本的にこちらの特別寮に入寮することになっているの。この特別寮は、聖獣契約や魔獣契約をした者のために準備された寮なのよ」
……そういえば、お父様達が以前そんなことを言っていたような……ここがそうだったのか。


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コミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」の更新は2月13日(木)です!
是非お読みくださいませ~( ´ ▽ ` )
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