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春休みの夜(番外編)
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春休みも終わりに近づいた夜。
――動きやすい格好で。
たった一言の連絡に、ハイキングにでも行くつもりなのかと頭をよぎって、先生には似合わないなって笑ってしまった。
ママは夜勤でいないから、抜け出すのは容易かった。
白い息を吐きながら、ラフな服装で指定されたコンビニまで向かった。
「よお」
先生はバイクの横で肉まんを頬張っていた。
手の中のものが、全体を纏う空気とミスマッチすぎて、脳がバグを起こすかと思った。
困惑している私に、先生は食べかけの肉まんを差し出した。
「ほら」
「……別に欲しかったわけじゃないもん」
そんなことを言いながら、ぱくりと噛み付いた。
ほのかに温かかった。
咀嚼して味わっていると、先生はフッと笑った。
「ドライブにでも行こうかと思って」
それがお誘いの理由らしい。
私は目を見開いた。
「……危ないから生徒は乗せないんじゃなかったの」
「広瀬なら、いいかなと思って」
それは私のことを大事に思っていないのか、危ないことも共有できる相手ということなのか。あんまりいい印象ではなかったので、眉を寄せてしまう。
私の反応が意外だったのか、先生は理由を付け加えた。
「乗りたがってただろう」
……言った。
たしかに「今度乗せてね」と言った。
どうせ相手にされないと思いながら。
「ヘルメット買ってくれたの」
「うん」
何でもないことのように返事をする。
先生は憑き物が取れたかのように甘やかす時があるし、冷たいだけの目をしなくなった。
でも、どれも気まぐれにやるから、こっちの心の準備が出来ていない。
「嫌ならいいけど」
「嫌なんて言ってないけど」
これを逃したら、次の気まぐれはいつか分からない。
無防備にさらされている、先生の手の甲に指を這わせる。
「……そういうの、どこで覚えてくるの」
ちょっと不満そう。
ただ、本能的にこうしただけ。
「じゃあ、行くか」
「うん」
先生の熱を感じながら、私たちはバイクの走行音だけが聞こえる夜に溶けていった。
――動きやすい格好で。
たった一言の連絡に、ハイキングにでも行くつもりなのかと頭をよぎって、先生には似合わないなって笑ってしまった。
ママは夜勤でいないから、抜け出すのは容易かった。
白い息を吐きながら、ラフな服装で指定されたコンビニまで向かった。
「よお」
先生はバイクの横で肉まんを頬張っていた。
手の中のものが、全体を纏う空気とミスマッチすぎて、脳がバグを起こすかと思った。
困惑している私に、先生は食べかけの肉まんを差し出した。
「ほら」
「……別に欲しかったわけじゃないもん」
そんなことを言いながら、ぱくりと噛み付いた。
ほのかに温かかった。
咀嚼して味わっていると、先生はフッと笑った。
「ドライブにでも行こうかと思って」
それがお誘いの理由らしい。
私は目を見開いた。
「……危ないから生徒は乗せないんじゃなかったの」
「広瀬なら、いいかなと思って」
それは私のことを大事に思っていないのか、危ないことも共有できる相手ということなのか。あんまりいい印象ではなかったので、眉を寄せてしまう。
私の反応が意外だったのか、先生は理由を付け加えた。
「乗りたがってただろう」
……言った。
たしかに「今度乗せてね」と言った。
どうせ相手にされないと思いながら。
「ヘルメット買ってくれたの」
「うん」
何でもないことのように返事をする。
先生は憑き物が取れたかのように甘やかす時があるし、冷たいだけの目をしなくなった。
でも、どれも気まぐれにやるから、こっちの心の準備が出来ていない。
「嫌ならいいけど」
「嫌なんて言ってないけど」
これを逃したら、次の気まぐれはいつか分からない。
無防備にさらされている、先生の手の甲に指を這わせる。
「……そういうの、どこで覚えてくるの」
ちょっと不満そう。
ただ、本能的にこうしただけ。
「じゃあ、行くか」
「うん」
先生の熱を感じながら、私たちはバイクの走行音だけが聞こえる夜に溶けていった。
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