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第32話 ダイエット道は果てしない
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勇者マコトがハジマリノ王国で美女達と戯れている頃、それを物影からジッと見つめている姫がいた。
そう。かぐや姫である。
かぐや姫は勇者マコト好みの淑女になる為、努力中。
一生懸命ダイエットに励んでいた。
大好きなハッピーREターンを封印し、代わりに蒟蒻を齧る毎日。しかし、厳しいダイエット道。それだけでは全然痩せる気配がない。
「姫様……。またここにおられましたか……」
「じ、爺や……」
かぐや姫は爺やに向かって振り向くと、気不味そうな表情を浮かべる。
「姫様。あんなクズの……。いえ、マコト様のどこがよろしいのですか……」
爺やは爺やで、呆れ顔で呟くと、かぐや姫は嬉々とした顔を向けて来る。
「爺や。マコト様は立派な殿方ですわ。英雄色を好むというでしょう。今、私はマコト様に対する愛を試されているのです……。爺やなら分かるでしょう? 爺やも散々、意中の女性を執拗なまでに追いかけ回し確かな愛を手に入れたのですから!」
爺やは感慨深い表情を浮かべるとそっと目を閉じる。
「そうでしたな、私も若い頃は愛の狩人をやっていました。意中の人と結ばれる為、町で見初めた女性を追いかけては捕ま……。邪魔が入り、それにもめげず追いかけては邪魔が入り、そうしている内に私は気付いたのです。私は私の事を気持ちが悪いと罵ってくれる……。そんな女性に恋焦がれていたのだと……。ああ、目を閉じれば目蓋に浮かびます。彼女達は本当に……」
「爺や。その話まだ続くのかしら?」
「おお、申し訳ございません! 彼女達の事を思い出したら話が止まらなくなってしまいました」
かぐや姫は爺やの気持ちが悪い話を打ち切ると、胸を撫で下ろす。
「所で姫様。ダイエットの調子は如何でしょうか?」
爺やのデリカシーさのカケラもない一言がかぐや姫の心のケージを的確に抉っていく。
「も、勿論順調その物ですわ! レディにそんな事を聞く物ではなくてよ」
「そ、そうですか。それは失礼致しました。マコト様より怪しげな物を貰っていた様ですので心配になりまして……」
「怪しげな物? そんなの貰っていたかしら?」
マコト様から頂いたのは、体脂肪を減らすのを助けるお茶に、食事の際、一緒に飲むだけで摂取カロリーを抑える事のできる錠剤。そして一食置き換えるだけで楽に痩せる事のできるダイエット食品。
怪しげな物とは何の事を言っているのでしょうか?
マコト様に頂いたものは、どれも魅力的な効果のある物ばかりというのに……。
「この爺や、姫様がダイエットに成功する様にと経費でこんな物を買ってきました!」
すると爺やは、どこからともなく壺とブレスレットを取り出した。
「爺や……。これは?」
「これは爺やめが城下町で怪しげな黒いローブを着た美女から買ったダイエット効果のある壺と、ダイエット効果のあるブレスレットです。何でもコレらを近くに置いておくだけで、どんどん痩せていくとか」
「……それ、呪われているのではないかしら?」
「そんな事はございません! 見て下さい! このパンフレットを!」
そこには壺を買った女性のビフォーアフターが描かれていた。女性は痩せたというより、やつれた感じになっている。
壺一つで痩せれたら苦労はしない。大方、その怪しげな黒いローブを着た美女とやらに騙されたのだろう。
「それで爺やはその壺とブレスレットをいくらで購入したのかしら?」
「そうでしたそうでした! こちらです!」
すると0が7つ書かれた領収証を取り出してくる。
何とその額、1,000万……。
あまりの高さにかぐや姫の顔が凍りつく。
「いや、安い買い物でした。コレさえあれば、マコト様なぞイチコロです。姫様、この壺を側に置き楽に痩せましょう! ん? どうかされたのですかな姫様?」
かぐや姫は領収証をそっと爺やの手に返すと、笑顔を浮かべながら呟いた。
「コレを経費で落とす事はできないわ。この壺とブレスレットは爺や、あなたが持って帰りなさい」
「えっ! し、しかしコレは!?」
「爺や……」
かぐや姫は爺やに蔑みの視線を向ける。
「わ、わかりました……」
壺とブレスレットを持った爺やは、何となく痩せて見えた。きっと気の所為だろう。
かぐや姫はそんな爺やから視線を外すと、そっとマコトを見つめる。
美女達とイチャつくマコト様……。
何て羨ましいの……。
しかし、美女達の顔面偏差値はかぐや姫より遥かに低い。
待っていてねマコト様……。マコト様の本当の気持ちはわかっている。
本当は顔面偏差値の低い女達ではなく、顔面偏差値が天元突破している痩せた頃の私とイチャイチャしたかった筈……。
私もすぐあの頃のグラマラスバディを手に入れ、マコト様の元に馳せ参じます。
今はその顔面偏差値が私より低い女達で我慢して下さい……。
かぐや姫は決意新たに拳を握るとマコトの姿を瞼の裏に焼き付ける。
「行くわよ爺や」
「は、はい! しかし何処へ……」
そんなの決まっている。
今は昼時。どこからともなくいい匂いが漂ってきた。
「食事を食べに行きましょう。ダイエットサプリがあれば私に怖いものはないわ」
まだまだ続くダイエット道。かぐや姫がゴールする日はまだまだ遠い。
そう。かぐや姫である。
かぐや姫は勇者マコト好みの淑女になる為、努力中。
一生懸命ダイエットに励んでいた。
大好きなハッピーREターンを封印し、代わりに蒟蒻を齧る毎日。しかし、厳しいダイエット道。それだけでは全然痩せる気配がない。
「姫様……。またここにおられましたか……」
「じ、爺や……」
かぐや姫は爺やに向かって振り向くと、気不味そうな表情を浮かべる。
「姫様。あんなクズの……。いえ、マコト様のどこがよろしいのですか……」
爺やは爺やで、呆れ顔で呟くと、かぐや姫は嬉々とした顔を向けて来る。
「爺や。マコト様は立派な殿方ですわ。英雄色を好むというでしょう。今、私はマコト様に対する愛を試されているのです……。爺やなら分かるでしょう? 爺やも散々、意中の女性を執拗なまでに追いかけ回し確かな愛を手に入れたのですから!」
爺やは感慨深い表情を浮かべるとそっと目を閉じる。
「そうでしたな、私も若い頃は愛の狩人をやっていました。意中の人と結ばれる為、町で見初めた女性を追いかけては捕ま……。邪魔が入り、それにもめげず追いかけては邪魔が入り、そうしている内に私は気付いたのです。私は私の事を気持ちが悪いと罵ってくれる……。そんな女性に恋焦がれていたのだと……。ああ、目を閉じれば目蓋に浮かびます。彼女達は本当に……」
「爺や。その話まだ続くのかしら?」
「おお、申し訳ございません! 彼女達の事を思い出したら話が止まらなくなってしまいました」
かぐや姫は爺やの気持ちが悪い話を打ち切ると、胸を撫で下ろす。
「所で姫様。ダイエットの調子は如何でしょうか?」
爺やのデリカシーさのカケラもない一言がかぐや姫の心のケージを的確に抉っていく。
「も、勿論順調その物ですわ! レディにそんな事を聞く物ではなくてよ」
「そ、そうですか。それは失礼致しました。マコト様より怪しげな物を貰っていた様ですので心配になりまして……」
「怪しげな物? そんなの貰っていたかしら?」
マコト様から頂いたのは、体脂肪を減らすのを助けるお茶に、食事の際、一緒に飲むだけで摂取カロリーを抑える事のできる錠剤。そして一食置き換えるだけで楽に痩せる事のできるダイエット食品。
怪しげな物とは何の事を言っているのでしょうか?
マコト様に頂いたものは、どれも魅力的な効果のある物ばかりというのに……。
「この爺や、姫様がダイエットに成功する様にと経費でこんな物を買ってきました!」
すると爺やは、どこからともなく壺とブレスレットを取り出した。
「爺や……。これは?」
「これは爺やめが城下町で怪しげな黒いローブを着た美女から買ったダイエット効果のある壺と、ダイエット効果のあるブレスレットです。何でもコレらを近くに置いておくだけで、どんどん痩せていくとか」
「……それ、呪われているのではないかしら?」
「そんな事はございません! 見て下さい! このパンフレットを!」
そこには壺を買った女性のビフォーアフターが描かれていた。女性は痩せたというより、やつれた感じになっている。
壺一つで痩せれたら苦労はしない。大方、その怪しげな黒いローブを着た美女とやらに騙されたのだろう。
「それで爺やはその壺とブレスレットをいくらで購入したのかしら?」
「そうでしたそうでした! こちらです!」
すると0が7つ書かれた領収証を取り出してくる。
何とその額、1,000万……。
あまりの高さにかぐや姫の顔が凍りつく。
「いや、安い買い物でした。コレさえあれば、マコト様なぞイチコロです。姫様、この壺を側に置き楽に痩せましょう! ん? どうかされたのですかな姫様?」
かぐや姫は領収証をそっと爺やの手に返すと、笑顔を浮かべながら呟いた。
「コレを経費で落とす事はできないわ。この壺とブレスレットは爺や、あなたが持って帰りなさい」
「えっ! し、しかしコレは!?」
「爺や……」
かぐや姫は爺やに蔑みの視線を向ける。
「わ、わかりました……」
壺とブレスレットを持った爺やは、何となく痩せて見えた。きっと気の所為だろう。
かぐや姫はそんな爺やから視線を外すと、そっとマコトを見つめる。
美女達とイチャつくマコト様……。
何て羨ましいの……。
しかし、美女達の顔面偏差値はかぐや姫より遥かに低い。
待っていてねマコト様……。マコト様の本当の気持ちはわかっている。
本当は顔面偏差値の低い女達ではなく、顔面偏差値が天元突破している痩せた頃の私とイチャイチャしたかった筈……。
私もすぐあの頃のグラマラスバディを手に入れ、マコト様の元に馳せ参じます。
今はその顔面偏差値が私より低い女達で我慢して下さい……。
かぐや姫は決意新たに拳を握るとマコトの姿を瞼の裏に焼き付ける。
「行くわよ爺や」
「は、はい! しかし何処へ……」
そんなの決まっている。
今は昼時。どこからともなくいい匂いが漂ってきた。
「食事を食べに行きましょう。ダイエットサプリがあれば私に怖いものはないわ」
まだまだ続くダイエット道。かぐや姫がゴールする日はまだまだ遠い。
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