寂しいを分け与えた

こじらせた処女

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 風呂に入って、寝室に入って、布団に潜って。あの昼の温もりは、今になっても脳に焼き付いている。それどころか、さらに焦がれた気持ちを募らせている。
 寝る前に、少しだけなら。
気づけば師匠の部屋の前にいた。でも、何て言って入れば良いかもわからない。
「灯?」
部屋の前の廊下を行き来していたら、不意に襖が開く。
「どうした?」
「あ、えっと、」
心の準備が完了していなかったのに。なんて言えば良いかわからなくて、口の中で舌を転がした。
 沈黙が5秒、10秒。
「…茶でも飲むか?」
沈黙に耐えかねたのは師匠だった。小さく頷くと、軽く頭を撫でられた。


 火傷しそうなほどに熱いお茶を息で冷ましながら啜っていく。会話はお互い何もない。でも、今までのような気まずさはない。ずっとこんな時間が続けば良いのにとさえ思う。
 あ、飲んじゃった。何も伝えられないまま、夜のお茶会が終わってしまう。
「そろそろ寝なさい」
「あ、あの、片付け、」
「私がやっておくから」
「…おやすみなさい、」
ああ、終わってしまった。渋々部屋の中に入る。でも、うまく目を閉じれない。厠に行くフリをして、師匠の部屋の前を通る。出会えるかな、と。
「あ、師匠、」
丁度師匠が部屋に入るところだった。
「どうした?」
「あ、えっと、」
なんて言ったら。頭の中は迷いだらけだ。
「うまく、眠れなくて…」
自信のない小さな小さな呟きは正解だったようだ。
「枕だけ持ってきなさい」
言われた瞬間、弾かれたように顔を上げる。どんな表情をしていたのだろう。暗くてよく分からなかった。


 一緒の布団に寝るのって慣れなくてソワソワしてしまう。
「暑くないか?」
「…はい、」
髪の毛、なでられるの気持ちいい。
さっきまで全然眠くなかったのに。瞼がゆっくり落ちていく。




「灯、あかり、」
 幸せな夢を見た気がする。目覚めはここ最近で1番と言って良いほどに、気持ちが良かった。夏なのに、ポカポカが不快ではない。
 ゆっくりと伸びをしようとすると、違和感が下半身を覆う。なんだか濡れて、ぐしょりと湿っていて。
「あ、…」
外はまだ暗い。鳥だって鳴いていない。つまり今は夜更けで、俺の失敗のせいで師匠まで起こしてしまったってこと。
「…あの、ごめ、なさい、」
俺の中心部から、じんわりと広がった染みは、師匠の着物にまで侵食している。
 こんな失敗、今までした事なかったのに。何で?と問いかけて、死にたくなった。
「怖い夢でも見たか?」
怒られない。それがまた辛い。いっそのこと責め立てて、怒ってくれれば。なのに師匠の手は俺の頬にあって、体温を確認している。
「…みてない、です、」
「よく眠れたか?」
首を縦に振った。声を出したら堪えきれないと思ったから。
「よかった」
ぼろりと大粒の雫が伝った。あれ、俺何泣いてんの。泣きたいのは師匠の方じゃん。布団汚されて、夜起こされて。
「風呂入るか」
泣きじゃくって中々泣き止まない俺を見て、師匠は困ったように笑った。茶を飲ませて悪かった、とも。
寝巻きも、体を流すのも全部してくれた。髪の毛を拭くのも、新しい寝巻きに着替えるのも。
「もう一度寝直そう」
 せっかく綺麗になったのに、またやらかしたらどうしよう。頭の中はそればかりだった。師匠の布団はダメになってしまったから、俺の布団に移動する。
「…おれ、もう眠くないから、」
「また洗えばいいだろ。来なさい」
無理やり布団に入れられた。そんで、髪の毛を何度も撫でられた。
「…厠…」
「もう2回も行っただろ。大丈夫だから」
諦めて目を閉じる。温かい温かい布団の中。今度こそ、問題なく眠れますように。片足を突っ込んだ夢の端っこで、どうかどうかと願いを込めた。










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