怒鳴り声が怖くて学校から帰ってしまった男子高校生

こじらせた処女

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「今日は学校どーする?」
朝の7:30。ジクリと痛んだお腹をおさえて無理です、と小さく呟いた。
「分かった。連絡しとくね。ご飯はどう?食べられそう?」
食事は問題ない。熱だってない。でも、またアレが起きたらって考えるだけで、
心臓がバクバクして苦しくなりそうで。
「今日さ、気晴らしに一緒にお昼食べに行こうか」
あの出来事から3日。俺は一歩も外に出ていない。優しい優しい光輝さんは責めることなく休ませてくれている。でも自分では分かっている。このままだと出席日数はヤバいし、これから生活もしていけない。
「…近くがいい、」
何としてでも外に慣れないと。久しぶりに外行きの私服に着替えて髭を剃った。


 久しぶりの日の光は眩しい。思わず顔を顰めた。
「何食べたい?」
「…なんでもいい、」
「じゃあ公園突っ切って喫茶店行こっか。デザートまで行っちゃう?」
紫陽花が咲いた散歩道。こんな時間に高校生が歩いて目立たないものかと緊張していたが、すれ違うのはお年寄りか小さな子供。案外皆気にしていない。
「オタフクアジサイって言うんだって。変なのー」
一々止まって看板を覗くものだから、中々進まない。でも、久しぶりに外に出たからか、空気が気持ちいいからか。とても心が落ち着いている。
「こーきさん、お腹すいた。早くいこーよ」
「っしょーがないなー。何食べるか決めたん?」
「まだ。オムライスあるかな」
「あるんじゃない?今流行りのトロトロじゃないやつだと思うけど」
のんびりとした会話が心地いい。少し蒸して熱いけれど、青空が気持ちいい。
 喫茶店の机は冷たくて、コーヒー豆の匂いと、しょっぱい匂い。喋り声は聞こえるけれど、静か。
「俺はAランチにしようかな。鳴は?」
「オムライスがいい、」
「デザートは?ケーキとか…プリンもあるってさ」
「くりーむそーだ…いい?」
みんなは学校に行っていて、俺は元気なのに休んで喫茶店で贅沢をしている。家にいたら罪悪感でヤバかったのに、外にいると少しだけ薄れる気がする。


「鳴…何ニヤニヤしてんの」
「…別に」
「ケチャップ付いてるよ」
「うそ、どこ」
「もうちょい右。あ、とれた」
ご飯が美味しい。久しぶりに飲んだクリームソーダは甘くて冷たい。
「明日からは行くよ、学校」
虚をつかれたような顔をした光輝さんは、急がなくて良いと少し慌てた。
「無理だったらすぐ帰ってきなよ?」
「過保護すぎ」
食器が擦れる音に、老夫婦の会話。新聞がめくれる音に、サイフォンの音。ここ数日で張り詰めていた心がほぐれる気がする。ポカポカして、気持ちいい。
「食べ終わったらもう少しお散歩しない?」
「…する、」
「クレープ屋さんが新しくできたらしいよ」
「どこ」
「商店街前の通り。横断歩道のとこ」
「へー」
「…食べない?」
「え、まだ食べるの?入んないよ」
「高校生のくせに少食なのね」
あー。ずっとこんな会話を続けたい。少し眠くて、クーラーの冷気と温かい日差しが気持ちいい。



「今日涼しくて良かったね」
「でも蒸してるよね。あーやだなー…これからどんどん暑くなるじゃん」
「じゃあ次は冷やし中華とかき氷だね」
「だから何でご飯とおやつを一緒に済ませようとするの」
「鳴より胃袋が若いから」
クレープのメニュー表をスマホで調べながら歩く光輝さんの隣をボーッと歩く。
「ほら鳴、ちっちゃいサイズもあるらしいよ」
「んー…あ、チョコバナナ食べたい」
光輝さんはクリームがマシマシのやつを食べるらしい。横断歩道を渡った先のクレープ屋さんで注文すると、平日だからかあまり並ばずに受け取れた。
「なんか休日はめっちゃ混むらしいよ。snsで紹介されたらしい」
「へー。あ、うまい」
近くのベンチに座って、ゆっくりとクリームをすくう。
「…俺さ、明日から学校行く」
 本当にのんびりできたから。だから、自然と言葉が出た。
「…ん。分かった。しんどくなったらいつでも帰って来なさいね。ほら俺ずっと家いるから」
 こうやって穏やかに外出したり、甘やかしてもらったり。日の光を浴びたからなのか、美味しいものを食べたからなのか。要因は何かははっきりとはわからないけれど、確かにメンタルは回復していた。
 頑張る、頑張る、頑張る。
口の中で何度も唱えて、少しテンションが上がってまた、口角が上がる。
「なに、次は何にニヤニヤしてんの」
 光輝さんに肩を小突かれる。何でもないとそっぽを向いた。

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