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リンディの真実
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*引き続き、アシェルハイド視点となります*
「殿下は、同じ光持ちだから、気付いているんでしょう?お花畑が、どんなに訓練をしようとも、もう魔力が上がらない事を」
ーやっぱりかー
確信はなかったが、多分そうだろうとは思っていた。あのトラブル以降、真面目に訓練を受けていると報告は受けてはいたが、それでも彼女の魔力が上がる気配がなかったのだ。減る事もなく、“保っている”状態だった。俺としては、それで問題無かったから、そのまま放っておいたが……。
「あのお花畑はね、あなた達の言うところの“試練”を乗り越えていないし、“最後の審判”も受けられなかったのよ」
「────は?“試練”を乗り越えていない?」
最後の審判はともかくとして、試練を乗り越えずして、どうやって光の魔力を、その身体で維持できたと言うのか。試練を乗り越えなければ、殆どの確率で死を迎えるのに。
「エヴィがね、願ってしまったのよ。『リンディに元気な身体を』って」
闇の精霊殿が困った様に笑う。
そのエヴィの願いに反応したのが、目の前に居る闇の精霊─ではなく、水と風の小さな精霊達だった。その精霊達がエヴィに流れていた魔力をお花畑に与えて身体を強化させてしまったのだ。それではいけない─と、光の精霊はお花畑に忠告する事にした。
『お前を思う優しき者の願いの為に、お前は自身の力で“試練”を乗り越える事ができなくなってしまった。優しき者の望みだから。でも、覚えておいて……お前がこれからも光の魔力を望むのであれば、他人を区別、差別せず優しく接し、他人の為にその力を使いなさい。“最後の審判”はできない代わりに、これからの光の魔力を維持できるかどうかは、お前次第だから』
そして、光の精霊は、後はお花畑を見守る事にした。
だが、お花畑は、元気な身体を手に入れた後、光の精霊の忠告を守る事はなかった。エヴィのお陰で寝込む事がなくなったにも関わらず、知らなかったからとは言え、真っ先に虐げたのが魔力を失ったエヴィだった。光の精霊は何度か忠告をする為にお花畑に呼び掛けたが、終には、お花畑に光の精霊の声すら届かなくなってしまった。その意味するところは──
「光の魔力を持つに値しない─と言う事よ」
そう。お花畑は、既に、光の精霊に見限られていたのだ。
「だから、訓練しても光の魔力が上がらないと理解できるが、では、何故光の魔力を維持できているんだ?」
光の精霊に見限られているなら、もう失ってしまっていてもおかしくはない。
「光の魔力を失うと言う事は“死”を意味するわ。でも、エヴィが願ったのはお花畑が元気である事なのよ。だからね……お花畑は、エヴィの水と風の魔力で光の魔力を維持しているだけなのよ。光の魔力は、他の魔力とは全くの別物だから、光の魔力を維持できたとしても、それ以上光の魔力が増える事も強くなる事もないわ。ただ、エヴィが願ってしまったから、完全に失う事もないでしょうけどね」
「闇の精霊殿は、どうして、そのエヴィの願いを止めなかったのだ?」
その願いを止めていれば、エヴィは魔力を失わずに済み、お花畑も今よりはまともな光の魔力持ちになっていたのかもしれない。
「エヴィの持つ魔力が、私にとって心地好くて好きなの。そんなエヴィの側に居たくて、まだエヴィが幼いうちから侍女として側に居たんだけど、闇の精霊は、相手が私を呼んでくれないと側に居る事ができないのよ。それで、エヴィが私を呼ぶ事が少なくなって、私が居ない時に、エヴィが望んでしまって、止める事ができなかったのよ」
あの時、私が側に居れば……と、今でも思うわ─と、闇の精霊殿は盛大な溜め息を吐いた。
結局のところ、光の魔力が減ってしまったのは、お花畑の自業自得。光の精霊の忠告を無視……いや、忠告された事すら覚えてはいなかったのだろう。エヴィの魔力のお陰で、お花畑が光の魔力を完全に失う事が無いと分かった。腹立たしさはあるが、ある意味、予定通りに事を運ぶ事ができると喜ぶべきか。
「一つ……殿下に面白い事を教えてあげるわ」
何を?と訊く前に、闇の精霊殿は愉快そうに嗤った後
「あのクズの母親はね……“魔力無し”よ」
「は?ブルーム伯爵夫人が……魔力無し?」
それは聞いた事がない。
それに─だ。夫人は、もともと光の魔力持ちのリンディ主義者だったが、“魔力無し”となったエヴィを、更に蔑み疎んじるようになった。もし、それが本当なら、自分と同じ境遇となった娘を守ろうとするのではないだろうか?
「“魔力無し”にとっては、かの国はある意味では住みやすい国かもね?」
「……なるほど」
目の前の闇の精霊殿は、やっぱり愉悦そうに嗤っていた。
「殿下は、同じ光持ちだから、気付いているんでしょう?お花畑が、どんなに訓練をしようとも、もう魔力が上がらない事を」
ーやっぱりかー
確信はなかったが、多分そうだろうとは思っていた。あのトラブル以降、真面目に訓練を受けていると報告は受けてはいたが、それでも彼女の魔力が上がる気配がなかったのだ。減る事もなく、“保っている”状態だった。俺としては、それで問題無かったから、そのまま放っておいたが……。
「あのお花畑はね、あなた達の言うところの“試練”を乗り越えていないし、“最後の審判”も受けられなかったのよ」
「────は?“試練”を乗り越えていない?」
最後の審判はともかくとして、試練を乗り越えずして、どうやって光の魔力を、その身体で維持できたと言うのか。試練を乗り越えなければ、殆どの確率で死を迎えるのに。
「エヴィがね、願ってしまったのよ。『リンディに元気な身体を』って」
闇の精霊殿が困った様に笑う。
そのエヴィの願いに反応したのが、目の前に居る闇の精霊─ではなく、水と風の小さな精霊達だった。その精霊達がエヴィに流れていた魔力をお花畑に与えて身体を強化させてしまったのだ。それではいけない─と、光の精霊はお花畑に忠告する事にした。
『お前を思う優しき者の願いの為に、お前は自身の力で“試練”を乗り越える事ができなくなってしまった。優しき者の望みだから。でも、覚えておいて……お前がこれからも光の魔力を望むのであれば、他人を区別、差別せず優しく接し、他人の為にその力を使いなさい。“最後の審判”はできない代わりに、これからの光の魔力を維持できるかどうかは、お前次第だから』
そして、光の精霊は、後はお花畑を見守る事にした。
だが、お花畑は、元気な身体を手に入れた後、光の精霊の忠告を守る事はなかった。エヴィのお陰で寝込む事がなくなったにも関わらず、知らなかったからとは言え、真っ先に虐げたのが魔力を失ったエヴィだった。光の精霊は何度か忠告をする為にお花畑に呼び掛けたが、終には、お花畑に光の精霊の声すら届かなくなってしまった。その意味するところは──
「光の魔力を持つに値しない─と言う事よ」
そう。お花畑は、既に、光の精霊に見限られていたのだ。
「だから、訓練しても光の魔力が上がらないと理解できるが、では、何故光の魔力を維持できているんだ?」
光の精霊に見限られているなら、もう失ってしまっていてもおかしくはない。
「光の魔力を失うと言う事は“死”を意味するわ。でも、エヴィが願ったのはお花畑が元気である事なのよ。だからね……お花畑は、エヴィの水と風の魔力で光の魔力を維持しているだけなのよ。光の魔力は、他の魔力とは全くの別物だから、光の魔力を維持できたとしても、それ以上光の魔力が増える事も強くなる事もないわ。ただ、エヴィが願ってしまったから、完全に失う事もないでしょうけどね」
「闇の精霊殿は、どうして、そのエヴィの願いを止めなかったのだ?」
その願いを止めていれば、エヴィは魔力を失わずに済み、お花畑も今よりはまともな光の魔力持ちになっていたのかもしれない。
「エヴィの持つ魔力が、私にとって心地好くて好きなの。そんなエヴィの側に居たくて、まだエヴィが幼いうちから侍女として側に居たんだけど、闇の精霊は、相手が私を呼んでくれないと側に居る事ができないのよ。それで、エヴィが私を呼ぶ事が少なくなって、私が居ない時に、エヴィが望んでしまって、止める事ができなかったのよ」
あの時、私が側に居れば……と、今でも思うわ─と、闇の精霊殿は盛大な溜め息を吐いた。
結局のところ、光の魔力が減ってしまったのは、お花畑の自業自得。光の精霊の忠告を無視……いや、忠告された事すら覚えてはいなかったのだろう。エヴィの魔力のお陰で、お花畑が光の魔力を完全に失う事が無いと分かった。腹立たしさはあるが、ある意味、予定通りに事を運ぶ事ができると喜ぶべきか。
「一つ……殿下に面白い事を教えてあげるわ」
何を?と訊く前に、闇の精霊殿は愉快そうに嗤った後
「あのクズの母親はね……“魔力無し”よ」
「は?ブルーム伯爵夫人が……魔力無し?」
それは聞いた事がない。
それに─だ。夫人は、もともと光の魔力持ちのリンディ主義者だったが、“魔力無し”となったエヴィを、更に蔑み疎んじるようになった。もし、それが本当なら、自分と同じ境遇となった娘を守ろうとするのではないだろうか?
「“魔力無し”にとっては、かの国はある意味では住みやすい国かもね?」
「……なるほど」
目の前の闇の精霊殿は、やっぱり愉悦そうに嗤っていた。
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