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闇の精霊

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「エヴィ嬢、大丈夫か?」と、心配そうに声を掛けて来たアンカーソン様のその声を耳にしたとたん、私の体かゾクゾクと震え出した。

ー何?これ!?ー

ドクドクと心臓が激しく波打ち、体が熱を持って自然と体が震える。「エヴィ……」姉が心配そうに呟く私の名前にも、いつもと違う反応をする自分の体がある。立っているのも辛くなって、何の躊躇いもなく、姉にしがみついた。

ドクドクと煩い心臓の音で、周りの声もあまり聞こえなくなり、更に体が熱くなって来た時、急に体がフワリと持ち上げられた。

「──っ!アシェル……ハイド殿下……っ」
「エヴィ、今は黙って顔を隠しておけ、良いな?」
「──っ……」

その殿下の声に更に体が震えて、殿下の体に触れている部分全てが更に熱を帯びる。思考も朦朧として、このまま殿下にしがみついてしまいたい──と言う衝動に駆られてしまうのを耐えるように、必死に自分の両腕を抱きかかえて、顔だけは殿下の胸に埋めるようにしてくっつけた。








「男は近付けるな!エヴィに付けた女官を呼んで来てくれ!」

「後、お花畑は絶対に部屋から出すな!」

どうやら、どこかの部屋──おそらく、私に充てがわれていた客室へと戻って来たのだろう。殿下が誰かに何かを指示した後、私をベッドの上に下ろした。

「エヴィ、大丈夫か?って、大丈夫じゃないな…この際、もう知らないフリは止めにする。エヴィ、今回のは………のか?」

“祓えなかったのか?”

ーあぁ、殿下は、私が闇の魔力持ちだと……気付いていたんだー

「……すみま……せん…。祓う前に……口に入ってしまって……」

「謝るな。エヴィは悪くない。それで…何を口にしたか、分かるか?」

フルフルと首を振る。ピンク色のモノだったのは分かるかけど、それが何かは分からない。
体内に取り込んでしまったモノを祓えるのか…それも分からない。それを試そうとしようにも、体も思考も思う通りに働かない。気を緩めれば、目の前の殿下にしがみついて…何をしでかすか分からない自分が恐ろしい。そんな恐ろしさに、自然と涙が溢れた。

「怖い……」

「──っ!エヴィ……」

ー自分が自分ではない思考と感覚が怖いー

ギュウッと自分を抱き抱えるように蹲る。

『エヴィは、何を願う?』

ふと、頭の隅で声が聞こえたような気がした。幼い頃、私がどうにもならなくて困っている時に、よく聞こえた優しい声だ。


「─────ライラ………ライラ……助けて!」

私がそう呟いた後、そこで意識がプツリと途絶えた。












*アシェルハイド視点*


「─────ライラ………ライラ……助けて!」

エヴィがそう呟いた後、クタリとベッドの上で横たわったまま意識を失ってしまった。

「エヴィ!!」
「もう!エヴィ、遅いわよ!」
「なっ!お前は……エヴィの侍女の……どこから入って来たんだ!?」

この部屋には俺とエヴィしか居なかった筈が、気が付けばエヴィ付きの侍女のライラがベッドサイドに立っていた。

ーいや─これは……人間ひと……なのか?ー

ライラを意識して見る事がなかったから気付かなかったのか?このライラも、珍しい黒色の髪と瞳をしているのにも関わらず、今迄殆ど気になる事は無かった。

ジッとライラを見ていると

『ようやく気付いた?光の魔力持ちさん?』

ニッコリと微笑むライラ。

「闇の……精霊か?」

『取り敢えず、先にエヴィを助けるわね。』

と、ライラは手の平から金色の光を紡ぎ出して、その光をエヴィの身体に纏わせた。









金色の光がエヴィの身体に染み込むようして消えた後、ベッドの上には、落ち着いたような顔をしたエヴィがスヤスヤと眠っていた。『このまま、ここで寝かせておきましょう。』とライラがエヴィに布団を掛けた後、俺とライラは隣の部屋へと移動した。



「本当に、あのお花畑はやってくれるわね。」

目の前に座っているライラ─闇の精霊が、目を細めて微笑んでいる。

「エヴィは、今回はどうして祓えなかったんだ?」

「んー……後でエヴィには怒られるかもしれないけど、殿下なら、エヴィを護ってくれるだろうから、教えてあげるわ。エヴィは、基本、その悪しきモノに直接触れないと祓えないのよ。おそらく、今回は、悪しきモノは視えたけど、直接触れて祓う前に口にしてしまった─と言うところじゃないかしら?」

なるほど。確かに、俺が見ていた限りでは、あのグラスに触れる前に、あの中身を浴びてしまっていた。それが、たまたま口に入ってしまったんだろう。

「それに、エヴィ曰く、エヴィは、その悪しきモノが色で視えるらしいの。今迄、色んな色のモノを目にして来たと思うけど、今回のは…モノがモノでしょう?多分……今迄見た事が無い色だったんだと思うのよね…。それで、動揺?して油断したのかもしれないわ。」

「そうか……兎に角、ライラ──闇の精霊殿には本当に、助けてもらって、感謝しかない。」

「ふふっ。殿下に感謝される理由は無いと思うけど……受け取っておくわ。後は…あのお花畑をどうするか─ね。」

と、闇の精霊殿は顎に人差し指をあてながら、ニヤリ─と嗤った。



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