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*テイルザール王国*
16 テオフィル=ユーリッシュ
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今でも忘れられない出来事がある。
あの御方を喪ってしまった事
あの御方を護れなかった事
そして────
か弱い人間の更に弱った女の子に……剣先を向けてしまった事
ネルを護る為とは言え、見た目からして無害だと分かる女の子に、鞘に収めたままだったとしても剣先を向けるとは………俺の感覚も鈍ってしまっているのかもしれない。
その剣先を向けてしまった女の子は、まさかのテイルザール国王の10番目側妃だった。
ーついに、あの国王も狂ったのか?ー
とは口にはしなかったが、調べてみると、ギリギリ成人年齢に達していた。それに、友好の証と言う名の人質としてやって来た令嬢だと言う事が分かった。更に、かの有名なダンビュライト公爵家の令嬢でありながら、色を持って生まれ能力も無いそうで虐げられていたようだ。16歳とは思えない体つきをしていた。
そんな女の子に剣先を向けるなど……失態も甚だしいものだ。ただ、か弱いと見える彼女から
『どうなるか分からないけど、この庭園位しか来る所がないから、ここにはよく来ると思うので、その時は…剣を向けないようにして下さい』
と、しっかり釘を刺された。見た目よりはしっかりしているのかもしれない。
そのお詫び?償い?を兼ねて、彼女─レイ様の水魔法の指導をする事にした。
それがまさか、解放へと繋がるとは思ってもみなかった。
どんなに頑張っても解けなかった。ただただ蝕まれて行くのを見ている事しかできなかったのに。
レイ様達と過ごすようになってからのネルは、少しずつ生気を取り戻して行った。レイ様の創り出す浄化の水は少しずつだが、確実にソレを浄化していった。ソレが薄くなればなる程、俺の意識もハッキリとしたものになっていく。
ー後少しだー
そう思っていた矢先の事。
レイ様から1週間会う事ができない─と言われてしまった。
ーここまで来たのにー
正直、1週間浄化が止まってしまったら、ソレがどうなるのか分からない。また蝕まれて行くのか、状態を維持できるのか。
『それで、暫くは引き篭もり生活もお預けだから、今日はいつもより心を込めてお茶とお菓子を用意しました!』
俺の心配を他所に、レイ様が少し顔を緩ませてお茶とお菓子を用意してくれた。今迄「ひょっとして…」とは思っていたが……レイ様には、ネルに掛けられたモノが視えているんだろう。そして、ソレを浄化してくれているのだ。
ダンビュライト家では有り得ない色持ち。アイスブルーの髪に琥珀色の瞳をしたレイ様は、どことなく雰囲気があの御方に似ている。
あまり表情は変わらないが、ふとした時に緩んだ時の顔が何とも──────
「……………」
ギュッと眉間に力が入る。そんな時は、何故かネルに不思議そうな顔をされ、レイ様にはビクビクされてしまう。
んんっ─
兎に角、レイ様には感謝しかない。もし、アレが綺麗に浄化されれば全てが解決する。何も恐れるものはない。そうなれば、レイ様も──
そうして、レイ様とのお茶の時間は終わり、「また建国記念祭が終わったら─」と約束をして別れ、俺とネルはレイ様が魔力を込めたと言うお茶とクッキーを貰って、邸と言う名の小屋へと帰って来た。
ー何が“保護する為”だー
誰も立ち入る事のない後宮の更に奥の小屋に閉じ込めているだけだ。それも、もうすぐ終わりを迎えるだろう。
「ネル、もう少し、お茶を飲みますか?」
「そうだね。もう少し飲んだ方が……否、飲むべきだね」
「分かりました。では、クッキーも一緒に…」
ネルの雰囲気がガラリと変わったが、それには反応せずお茶とクッキーを用意すれば、ネルはそれらを直ぐに口にした。
「──っ!」
あれから何年経ったのだろうか?
ネルからは、懐かしい気が溢れ出した。
『不味いな…今はまだ抑えるべきだな』
「………」
『テオフィル、今迄すまなかったな。でも……もう少しだけ耐えてくれるか?』
「勿論です。レイ様……ですね?」
『彼女には……この恩は返し切れないが、助ける事はできるだろう?それ迄は─』
「勿論です。必ず。ですが……大丈夫ですか?」
『あぁ、今はまだ大丈夫だ。彼女の力はまだ残っているから』
そう言って、胸に手を当てて目を閉じているネルは落ち着いている。ここで暴走すれば、この後宮がどうなるかなんて分からない。別に、この後宮や王城がどうなろうと知った事ではないが、レイ様を危険に晒す事だけは回避しなければならない。
「本来の力に近いモノが使えそうです。影を付けますか?」
『そうだね。念の為に付けておいてもらおうか』
「承知しました」
影を呼べば“待ってました!”と言わんばかりの勢いで気配を消し去った。
ようやくの一歩だ。
『きっちりと……借りは返すからね?』
「………」
目の前でニッコリ微笑むネルのその顔は……久し振りに見た恐怖と安心感を齎すものだった。
あの御方を喪ってしまった事
あの御方を護れなかった事
そして────
か弱い人間の更に弱った女の子に……剣先を向けてしまった事
ネルを護る為とは言え、見た目からして無害だと分かる女の子に、鞘に収めたままだったとしても剣先を向けるとは………俺の感覚も鈍ってしまっているのかもしれない。
その剣先を向けてしまった女の子は、まさかのテイルザール国王の10番目側妃だった。
ーついに、あの国王も狂ったのか?ー
とは口にはしなかったが、調べてみると、ギリギリ成人年齢に達していた。それに、友好の証と言う名の人質としてやって来た令嬢だと言う事が分かった。更に、かの有名なダンビュライト公爵家の令嬢でありながら、色を持って生まれ能力も無いそうで虐げられていたようだ。16歳とは思えない体つきをしていた。
そんな女の子に剣先を向けるなど……失態も甚だしいものだ。ただ、か弱いと見える彼女から
『どうなるか分からないけど、この庭園位しか来る所がないから、ここにはよく来ると思うので、その時は…剣を向けないようにして下さい』
と、しっかり釘を刺された。見た目よりはしっかりしているのかもしれない。
そのお詫び?償い?を兼ねて、彼女─レイ様の水魔法の指導をする事にした。
それがまさか、解放へと繋がるとは思ってもみなかった。
どんなに頑張っても解けなかった。ただただ蝕まれて行くのを見ている事しかできなかったのに。
レイ様達と過ごすようになってからのネルは、少しずつ生気を取り戻して行った。レイ様の創り出す浄化の水は少しずつだが、確実にソレを浄化していった。ソレが薄くなればなる程、俺の意識もハッキリとしたものになっていく。
ー後少しだー
そう思っていた矢先の事。
レイ様から1週間会う事ができない─と言われてしまった。
ーここまで来たのにー
正直、1週間浄化が止まってしまったら、ソレがどうなるのか分からない。また蝕まれて行くのか、状態を維持できるのか。
『それで、暫くは引き篭もり生活もお預けだから、今日はいつもより心を込めてお茶とお菓子を用意しました!』
俺の心配を他所に、レイ様が少し顔を緩ませてお茶とお菓子を用意してくれた。今迄「ひょっとして…」とは思っていたが……レイ様には、ネルに掛けられたモノが視えているんだろう。そして、ソレを浄化してくれているのだ。
ダンビュライト家では有り得ない色持ち。アイスブルーの髪に琥珀色の瞳をしたレイ様は、どことなく雰囲気があの御方に似ている。
あまり表情は変わらないが、ふとした時に緩んだ時の顔が何とも──────
「……………」
ギュッと眉間に力が入る。そんな時は、何故かネルに不思議そうな顔をされ、レイ様にはビクビクされてしまう。
んんっ─
兎に角、レイ様には感謝しかない。もし、アレが綺麗に浄化されれば全てが解決する。何も恐れるものはない。そうなれば、レイ様も──
そうして、レイ様とのお茶の時間は終わり、「また建国記念祭が終わったら─」と約束をして別れ、俺とネルはレイ様が魔力を込めたと言うお茶とクッキーを貰って、邸と言う名の小屋へと帰って来た。
ー何が“保護する為”だー
誰も立ち入る事のない後宮の更に奥の小屋に閉じ込めているだけだ。それも、もうすぐ終わりを迎えるだろう。
「ネル、もう少し、お茶を飲みますか?」
「そうだね。もう少し飲んだ方が……否、飲むべきだね」
「分かりました。では、クッキーも一緒に…」
ネルの雰囲気がガラリと変わったが、それには反応せずお茶とクッキーを用意すれば、ネルはそれらを直ぐに口にした。
「──っ!」
あれから何年経ったのだろうか?
ネルからは、懐かしい気が溢れ出した。
『不味いな…今はまだ抑えるべきだな』
「………」
『テオフィル、今迄すまなかったな。でも……もう少しだけ耐えてくれるか?』
「勿論です。レイ様……ですね?」
『彼女には……この恩は返し切れないが、助ける事はできるだろう?それ迄は─』
「勿論です。必ず。ですが……大丈夫ですか?」
『あぁ、今はまだ大丈夫だ。彼女の力はまだ残っているから』
そう言って、胸に手を当てて目を閉じているネルは落ち着いている。ここで暴走すれば、この後宮がどうなるかなんて分からない。別に、この後宮や王城がどうなろうと知った事ではないが、レイ様を危険に晒す事だけは回避しなければならない。
「本来の力に近いモノが使えそうです。影を付けますか?」
『そうだね。念の為に付けておいてもらおうか』
「承知しました」
影を呼べば“待ってました!”と言わんばかりの勢いで気配を消し去った。
ようやくの一歩だ。
『きっちりと……借りは返すからね?』
「………」
目の前でニッコリ微笑むネルのその顔は……久し振りに見た恐怖と安心感を齎すものだった。
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