番から逃げる事にしました

みん

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40 治癒魔法

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『お母様…もうそろそろお庭のお花が綺麗に咲くわ。咲いたら、また一緒に庭でお茶をしましょうね』


庭には、どんな花が咲いていたのか…ポレットと最後に一緒に見た花は何だったのか……今ではもう思い出せない。

『ポレット……愛しているわ………』

子供ながらに、私を守ってくれたポレット。私が居なくなった後は、自分の幸せを掴んでくれただろうか?







『─レット──────ん…』

目を開けると、彫刻の綺麗な天蓋があった。泊まっているホテルのベッドには、天蓋はなかった筈。

「リュシエンヌ!目が覚めたのね!」
『え?リリアーヌ様!?』
「起きては駄目よ。そのまま横になってなさい。医者を呼んで来るわ」

よしよし─と、リリアーヌ様は私の頭を撫でてから部屋から出て行った。

ー白豹のままでいいのかなぁ?ー

体が軽くなっているせいか、自然と尻尾がパタパタと動く。

『ん?』

何となく懐かしいような香りがして、その香りの方に視線を向けると、ベッドサイドのテーブルにピンク色のマーガレットの花が飾られていた。

『良い香り………』
「目が覚めたようだね。気分はどうかな?」
『はい、大じょ─────王太子殿下!?』

リリアーヌ様は、医者を呼ぶ─と言っていなかった?それが、何故王太子様が!?

「対魔獣用の短剣で刺されて、かなり酷い状態だったけど、アラスターの対応が早かったお陰で、傷痕も残ってないし、後遺症もないと思うけど…」
『……え?』

後遺症が無いどころか、傷痕がない?そんな事がある?刺されたのは……今日だよね?

「私はね………治癒の魔法が使えるんだ」
『──────え???』

治癒の魔法が使える──って、そんな事、私に言っても良いんですか!?その前に私なんかの為に、治癒の力を使っても良いんですか!?

王太子様が治癒魔法を使えるなんて、今迄聞いたことはない。そもそも、名も無き女神の逆鱗に触れ、失ってしまった魔法なのだ。でも……確かに、左足に受けた筈の傷痕はないし、痛みも痺れも全く無い。意識を失う前は、もう騎士として生きて行く事は無理かもしれない─とも思ったのに、今では、あの時の痛みや苦しみが嘘のように体が軽い。

『本当に……そんな、大切な力を私なんかの為に…』

きっと、今迄隠していた力だろう。

「“私”ではないよ。クレイオン嬢は、私にとっては大切で…護るべき民の1人だからね。ただ、あまり知られても困るし、一応は極秘事項だから、クレイオン嬢だけに留めて置いて欲しい」
『勿論です!他言などしません!本当……ありがとうございます!』
「ははっ…元気になったようで……良かった」

ポンポンと白豹わたしの頭を、優しく叩く王太子様の手はとても温かい。

『?』

何となく、不思議な感覚に囚われ小首を傾げる。

『王太子殿下、あの───』
「殿下、獣化しているからと言って、簡単に触れるのは如何かと…あくまでも、その白豹はリュシエンヌですからね?」
「そうだったね。の怒りは喰らいたくないな」
『?』

リリアーヌ様が戻って来たところで、王太子様との会話が途切れて、そこからは、2人から私が意識を失ってからの話を教えてもらった。






私は、ユラに刺された後、ヴェルティル様に抱き上げられて、転移魔法でユーグレイシア王国の王太子様の元へと転移した後、王太子様に治癒してもらい、そのまま3日間眠っていたそうだ。

それから聞かされたのは、目くらましを掛けられた森の話だ。
シーフォールスの若き国王が、今回の件について不問に処す為に出した条件が

“王妃と王子に掛けられた呪いを解く─治癒する”

だった。それを、他言しない。情報が漏れれば友好関係もどうなるか分からない─と言う条件で、王太子様はその条件を受け入れ、既に、昨日のうちにシーフォールス王国に行って来たと言う。

『え!?もう…呪いを解呪したのですか!?』
「呪いの進行は止められたけど、元を絶たないと駄目だからね。今は、その元を……兎に角、王妃と王子は大丈夫だと思う。これで、今回の件は終わりだから、クレイオン嬢は何も気にしなくて良いよ。そもそも、クレイオン嬢は被害者だからね」
『ありがとう…ございます……それで……ユラは…』
「………元の世界に還されたわ」
『え?』

何故か、ニッコリ微笑むリリアーヌ様と、目をスッと細めた王太子様。

ーあれ?これ、訊いては駄目だった?ー

『あ…還れたんです…ね?』
「「…………」」

ーあれ?還されたんですよね?還れた…んです…よね?ー

王太子様もリリアーヌ様も、微笑むだけで答えてくれないのなら、これ以上は訊くな─と言う事だろう。

「言える事と言えば、ユラは自業自得、因果応報それと………運次第と言う事だけよ」
『ソウデスカ……』

ーそれは、とっても怖ろしい言葉ばかりですねー

きっと、ユラは最後まで謝罪も反省もしなかったんだろう。本当にどうなったのか──

ー知らないままの方が、良いのかもしれないー






❋次話は、王太子視点でのざまぁです❋




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