【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

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13.ハーヴィーの最後⋯⋯byジェラルド・メイヨー

『日曜に出てきて帳簿を片付けるよ』

 いつもより少し疲れた様子のハーヴィーがため息混じりに言い出した。

『日曜か、参ったな⋯⋯私はその日は』

『大丈夫、この量なら一人でも何とかなるから』

『申し訳ない。この埋め合わせは必ずするから』



「ハーヴィーはお昼前に学園に来たと守衛が話していて⋯⋯その日はハーヴィーしか来なかったし途中外出もしていないとも守衛が言ってるそうだ。
生徒会室の鍵を借りて行ったけれど夕方になっても帰る様子がないので、心配になった守衛が様子を見に行った時⋯⋯か、階段下にひとりで倒れているハーヴィーを守衛が発見したんだ」

 うつ伏せになって血が流れ既に息をしていなかった。慌てて警ら隊や病院に連絡を入れターンブリー侯爵家にも連絡した。

 生徒会室はきちんと施錠され鍵はハーヴィーの上着の右ポケットから発見された。大階段の途中に鞄が落ちており中の物が散乱していたので、生徒会室からの帰り道に大階段を使おうとして足を踏み外したのだと判断された。

 事件性がなく既に亡くなっていたこともあり病院ではなく学園から直接侯爵家に運ばれ、翌日葬儀が執り行われた。


「学園に駆けつけた医師の見解では、後頭部を強打したのが原因だろうと。私が⋯⋯よて、予定をずらして手伝いに行っていればあの階段なんて使わせなかったし、すぐに医師に連絡できたのに⋯⋯本当にすまなかった」

 声を震わせて涙を浮かべたジェラルドの膝にミリセントが手を置いた。

「ジェラルド⋯⋯」

「ごめん、男が泣くなんて情けないな」

「そんな事ない。ハーヴィーとは幼馴染で一番の親友だって言ってたもの」



「そう言えば⋯⋯帳簿はどうなってたの?」

「え?」

「ハーヴィーは生真面目だったから、仕事をやり残したままだと気にしてるだろうなって思って」

「あ、ああ。全部終わってたよ」

「そっか、良かった」

 話が終わるまでライラは虚な目でジェラルドを見つめ続けていた。覚悟を決めて話しはじめたジェラルドだったが時折声が震え、吃ったり詰まったりしながら話し終えた時はミリセントから渡されたハンカチで冷や汗を拭いていた。
 

「ハーヴィーはジェラルドに何を預けたの?」

「頼まれたと言っても口頭で言われただけで⋯⋯生徒会室の金庫に入ってるから中身は知らないんだ。もしもの時はライラに渡して欲しいって頼まれた」

「もしもって⋯⋯まるでハーヴィーは予感があったみたい」

「ビクトールの母親が騒いでいて婚約破棄されそうだとか言ってたから、そう言う意味じゃなかったと思う。突然接見禁止とか言われそうで怖いから念の為だとか、すぐに渡さず半年くらいしてから渡して欲しいとか色々言ってたな⋯⋯」

「婚約破棄の話が出てたなんてハーヴィーから聞いてなかったわ。ビクトールのお母様が騒いでもターンブリー侯爵夫人が許すはずないし」

「僕からの愛だって言うから思わず揶揄ってしまったけど」

「ハーヴィーらしくないことばかりね。婚約破棄の話を隠したり『僕からの愛』なんておかしな言葉とか⋯⋯もしかして金庫の中のあの箱の事?」

「そう、引き継ぎの時何も言えなくて申し訳ない。婚約破棄直後だとライラは落ち込んでるだろうから少し時間が経ってから渡したいって言ってた」

 前期の役員から引き継ぎをした時、確かに中身が不明の箱が金庫に入っていた。誰が入れたのか判明するまでそのままにしておこうと決まったソレには二重に鍵がかけられていたのを覚えている。



 そろそろ帰らなくては夕食の時間になってしまう。

「色々教えてくれてありがとう。まだ気持ちの整理がつかなくて知らないことがいっぱいだったわ。
ハーヴィーが態々生徒会室の金庫にしまった物は気になるから、明日の朝一番に見に行くわね」

 生徒会室の金庫の鍵は学園の職員室にあるので、授業の前に職員室に行けばいいだろう。

(気持ちは急くけどこの時間では学園には入れないし、朝少し早めに行って確認してみよう)

 ミリアーナとジェラルドを残して馬車に乗ったライラは夕闇の迫る街の景色を眺めながら溜息をついた。

(なぜもっと早く知ろうとしなかったのかしら⋯⋯)



 いつも通り御者の隣に腰掛けたノアは機嫌の良い御者の一人語りを聞きながら物思いに耽っていた。

(ジェラルド様の話⋯⋯何がどうってのは分からないけど、どうもムズムズする)

「どっか痒いのか? ムズムズするって」

 考えていた事が口に出ていたらしく御者のデレクが問いかけてきた。

「ちょっと学園でのことを思い出したら、身体がムズムズと」

「それって第六感とか言うやつだろ? なんかがノアに知らせてきてるんだよ。気をつけろってな」

「デレクはそう言うの好きだもんな」


 呑気で楽天家のデレクはライラ専属の御者になって5年になる。ノアより6歳年上で護衛としての腕も一流だが、本人は御者の方が気楽でいいと言ってライラ専属になった。
 つまり、ノアと肩を並べて御者台に乗るのも5年で今では気心のしれた兄のような存在。


「結構馬鹿に出来ないって。何気なく聞き流してた話や見た物が無意識ってやつに働いて危険を知らせてくれるんだそうだぜ」

「⋯⋯お嬢様からの受け売りだろ?」

「大正解! こないだムズムズを信じて事故を回避できたんだから捨てたもんじゃないんだぞ」

「ああ、覚えてる。別のルートを使った理由を聞いたら何だかムズムズしたからって言ってた時の」

「俺のケツのムズムズは優秀だからな」

(ムズムズ⋯⋯違和感とか居心地の悪さか?)



 屋敷に着き玄関を入ると執事が顔を覗かせた。

「お帰りなさいませ」

「ただいま、お父様とお母様は?」

「お二方とも既にお出かけになられました。旦那様はターンブリー侯爵家の夕食会で、奥様はロンベール公爵家のパーティーでございます」

 顔を合わせないようにスケジュールを調整しているかと思うくらい別行動をする両親は今日も夜遅くまで帰ってこないだろう。

(それなら急がなくちゃ)


 急いで階段を駆け上がり部屋で着替えを済ませると父親の執務室に向かった。

 内緒で作った合鍵を使い執務室に入った。外の気配を探る為にドアの近くにノアが立ったのを確認したライラは乱雑な机を避けてランプを床に置いた。壁にかかっている絵画を外し小さな鍵を差し込むと少し錆びついた音を立てながら扉が開いた。

 現金や金・宝石などの横に立てかけてある帳簿を取り出してランプの横に座り込み、帳簿を広げここ数ヶ月の数字を追いかけた。

(えーっと、あった! 日付からして間違いない⋯⋯ビクトール達の保釈金はお父様の資産から出てる。その後に大金が入ってると言うことは⋯⋯)


 大急ぎで帳簿を書き写して部屋に戻るとちょうど食事が運ばれてくるところだった。

(ラッキー、このメイドはどうもお父様の愛人っぽいのよね。お母様や私の行動を報告してる気がするし)

「ノア、ゆっくりでいいんだけど食事が終わったら来てくれる?」

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