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7.パパのいない時を狙ったのかなあ
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「デイビッドが来てるって⋯⋯もめるの間違いなしだから学園休んでお父様がいない時を狙ったのかなぁ」
「奥様のご指示でデイビッド様は応接室にお通し致しました。奥様は隣のお部屋でデイビッド様の言動を確認してから行かれるそうです」
貴族の屋敷の応接室は小さな隣室が準備されているのが一般的な作りになっている。主人や客人の世話をするための従者が控えていたり、危険な相手の場合には護衛が控えていることもある。
最大の特徴は応接室の話が全て筒抜けだと言うことだろう。応接室内の状況に臨機応変に対応できるように壁が薄くなっている。
気合を入れて応接室のドアから一歩足を踏み入れると数枚の紙がアーシェに投げつけられた。
「アーシェ、この手紙はどう言うことだ!?」
握りしめてしわくちゃになった手紙を投げつけられて驚いたアーシェが立ち尽くしていると、気を良くしたデイビッドがドスンとソファに座りカップを足で脇によけてコーヒーテーブルの上に足を乗せた。
「なんの手紙ですか?」
「は! 白々しい、お前がおじさんに書かせたんだろうが!」
ミーニャが拾って皺を伸ばした手紙を読むと今までデイビッドにかかった費用の請求書と今後ローゼンタールの名前での購入や店舗の利用等の禁止などが書かれていた。
「ここにローゼンタール伯爵家当主としての印が押されていますよね。と言うことは正式文書って事だから不服があるならお父様がおられる時に来て聞いて下さい」
「お前、キャサリンのブレスレットを盗んだんだってなあ。それがバレそうになって慌てて職員室に届けたって」
相変わらず人の話を聞かないデイビッドは頭の後ろで腕を組んでコーヒーテーブルから下ろした足を組んだ。
「何か勘違いしてませんか? 私はケレイブ様の持ち物には何一つ触ってないし、ブレスレットの件は冤罪だってちゃんと⋯⋯」
ガン! カチャカチャン⋯⋯
アーシェの言葉の途中でデイビッドがコーヒーテーブルを蹴り付け紅茶のカップが音を立てた。
「煩え! 俺がこの家を継いだ後に追い出されたくなけりゃおじさんにちゃんと取りなしとけよ。でなきゃお前が犯罪者だってみんなに教えてやる」
「なんのことを言ってるのかさっぱ⋯⋯」
「ブレスレットだけじゃない! キャサリンに暴言を吐いたり叩いたり⋯⋯お前みたいなブスがヤキモチ焼いてもちっとも可愛くねえんだよ!」
「私はケレイブ様とお話しした事も近くに行った事もないんだけど?」
「そんな嘘はどうだっていい! いい事を教えてやろうか? 俺はな、ふたつの伯爵家の当主になってふたつの貿易会社を合併させて社長になるって決まってるんだ」
「ふたつの伯爵家がどれを指してるのか知らないけど、デイビッドはローゼンタールの当主にはなれないからね」
「バァカ、お前は知らないみたいだけど爺さん同士が約束したんだよ。だからローゼンタールは俺んちの⋯⋯俺のものになるんだ。しかも兄上には資格がないからキャンストル伯爵家も俺のもの」
デイビッドの話がかけらも理解できないアーシェが返事に困り目を泳がせるとコーヒーテーブルから手紙が落ちかけているのが目に入った。
「キャンストル伯爵家はザック兄様が継ぐに決まってるよね? デイビッドが何を勘違いしてるのかわかんな⋯⋯」
手紙をデイビッドの前に置き直しながら取り敢えずの疑問をアーシェが口にしかけると話を遮ったデイビッドからとんでもない言葉が飛び出した。
「お前が今まで通りの暮らしをしたいなら俺様の前に這いつくばって今までの図々しい態度を謝るんだな」
「這いつくばるなんて絶対にしないから! デイビッド、誰に何を言われたのか知らないけど後で後悔しないようにちゃんと調べたほうがいいよ!?」
以前から貴族らしくない乱暴な言動が多いデイビッドだったがほんの数ヶ月で破落戸のようになっていた。
(手紙だけじゃなくちゃんと会いに行って話し合うべきだった? 誰に何を聞いたのかここまでおかしなことを言い出すなんて!)
テーブルのカップを持ち上げたデイビッドがニヤリと笑ってアーシェの頭から紅茶をかけた。
「きゃあ! おやめください! 誰か、早くお嬢様があ」
ミーニャが手近なタオルを手に走って来るのと同時に奥の扉が開いてリリベルが入ってきた。
「随分横柄な態度だこと。しかもわたくしの娘にお茶をかけるだなんて!」
「ち、違うんです! これは⋯⋯手が⋯⋯手が滑っただけで! そうだよな、アーシェ!」
「ミーニャも見てるのに言い訳なんてカッコ悪いよ?」
「たかが使用人の言うことなんて⋯⋯おばさんは俺のことわかってくれますよね!? 将来この家を引き継いだらおばさんの世話だってちゃんとしてあげるし⋯⋯アーシェが⋯⋯アーシェは俺に惚れてて、んでヤキモチを焼いてキャサリンを虐めてばかりなんです。
だからちょっと注意しただけで⋯⋯」
「キャサリンと言うのは誰のことかしら?」
「え、おばさんもまだ知らないんですか? もうすぐ俺の義妹になるんですけど、すっごい美人で物知りなんです。俺が知らなかった我が家とかこの家の内情とか教えてくれて⋯⋯だからおばさんの老後のためにも俺を大切にした方がいいですよ」
バキリ
ほんの数日前に聞いたのと同じ扇子が割れる音が聞こえた。
「準成人になったばかりの青二才にわたくしの老後を心配される言われはないわ。そこにある紅茶まみれの書類を持ってさっさと帰りなさい。たとえ滲んで読めない箇所があろうとも内容の変更はないと覚えておくことね」
「ま、待って! この手紙は何かの間違いのはずで⋯⋯おじさんが勘違いしてるみたいなんです。多分ヤキモチを焼いたアーシェがあれこれくだらない事を言っておじさんはそれを信じたんだと思う。ちゃんと話せばわかるんです!」
「デイビッドが今日わたくしやアーシェに言った世迷い言も暴力行為も全て、ローゼンタール伯爵家から正式に抗議いたしますからね。帰り道はわかるでしょう? さっさと出ていきなさい!」
「お、おばさん? 何を⋯⋯え、俺が出てくって⋯⋯俺を追い出せるわけないじゃないですか⋯⋯⋯⋯そっか、おばさんまでアーシェに騙されてるんですね。今度キャサリンを連れてきますよ。そうすればアーシェの話が嘘だってすぐにわかるから」
「奥様のご指示でデイビッド様は応接室にお通し致しました。奥様は隣のお部屋でデイビッド様の言動を確認してから行かれるそうです」
貴族の屋敷の応接室は小さな隣室が準備されているのが一般的な作りになっている。主人や客人の世話をするための従者が控えていたり、危険な相手の場合には護衛が控えていることもある。
最大の特徴は応接室の話が全て筒抜けだと言うことだろう。応接室内の状況に臨機応変に対応できるように壁が薄くなっている。
気合を入れて応接室のドアから一歩足を踏み入れると数枚の紙がアーシェに投げつけられた。
「アーシェ、この手紙はどう言うことだ!?」
握りしめてしわくちゃになった手紙を投げつけられて驚いたアーシェが立ち尽くしていると、気を良くしたデイビッドがドスンとソファに座りカップを足で脇によけてコーヒーテーブルの上に足を乗せた。
「なんの手紙ですか?」
「は! 白々しい、お前がおじさんに書かせたんだろうが!」
ミーニャが拾って皺を伸ばした手紙を読むと今までデイビッドにかかった費用の請求書と今後ローゼンタールの名前での購入や店舗の利用等の禁止などが書かれていた。
「ここにローゼンタール伯爵家当主としての印が押されていますよね。と言うことは正式文書って事だから不服があるならお父様がおられる時に来て聞いて下さい」
「お前、キャサリンのブレスレットを盗んだんだってなあ。それがバレそうになって慌てて職員室に届けたって」
相変わらず人の話を聞かないデイビッドは頭の後ろで腕を組んでコーヒーテーブルから下ろした足を組んだ。
「何か勘違いしてませんか? 私はケレイブ様の持ち物には何一つ触ってないし、ブレスレットの件は冤罪だってちゃんと⋯⋯」
ガン! カチャカチャン⋯⋯
アーシェの言葉の途中でデイビッドがコーヒーテーブルを蹴り付け紅茶のカップが音を立てた。
「煩え! 俺がこの家を継いだ後に追い出されたくなけりゃおじさんにちゃんと取りなしとけよ。でなきゃお前が犯罪者だってみんなに教えてやる」
「なんのことを言ってるのかさっぱ⋯⋯」
「ブレスレットだけじゃない! キャサリンに暴言を吐いたり叩いたり⋯⋯お前みたいなブスがヤキモチ焼いてもちっとも可愛くねえんだよ!」
「私はケレイブ様とお話しした事も近くに行った事もないんだけど?」
「そんな嘘はどうだっていい! いい事を教えてやろうか? 俺はな、ふたつの伯爵家の当主になってふたつの貿易会社を合併させて社長になるって決まってるんだ」
「ふたつの伯爵家がどれを指してるのか知らないけど、デイビッドはローゼンタールの当主にはなれないからね」
「バァカ、お前は知らないみたいだけど爺さん同士が約束したんだよ。だからローゼンタールは俺んちの⋯⋯俺のものになるんだ。しかも兄上には資格がないからキャンストル伯爵家も俺のもの」
デイビッドの話がかけらも理解できないアーシェが返事に困り目を泳がせるとコーヒーテーブルから手紙が落ちかけているのが目に入った。
「キャンストル伯爵家はザック兄様が継ぐに決まってるよね? デイビッドが何を勘違いしてるのかわかんな⋯⋯」
手紙をデイビッドの前に置き直しながら取り敢えずの疑問をアーシェが口にしかけると話を遮ったデイビッドからとんでもない言葉が飛び出した。
「お前が今まで通りの暮らしをしたいなら俺様の前に這いつくばって今までの図々しい態度を謝るんだな」
「這いつくばるなんて絶対にしないから! デイビッド、誰に何を言われたのか知らないけど後で後悔しないようにちゃんと調べたほうがいいよ!?」
以前から貴族らしくない乱暴な言動が多いデイビッドだったがほんの数ヶ月で破落戸のようになっていた。
(手紙だけじゃなくちゃんと会いに行って話し合うべきだった? 誰に何を聞いたのかここまでおかしなことを言い出すなんて!)
テーブルのカップを持ち上げたデイビッドがニヤリと笑ってアーシェの頭から紅茶をかけた。
「きゃあ! おやめください! 誰か、早くお嬢様があ」
ミーニャが手近なタオルを手に走って来るのと同時に奥の扉が開いてリリベルが入ってきた。
「随分横柄な態度だこと。しかもわたくしの娘にお茶をかけるだなんて!」
「ち、違うんです! これは⋯⋯手が⋯⋯手が滑っただけで! そうだよな、アーシェ!」
「ミーニャも見てるのに言い訳なんてカッコ悪いよ?」
「たかが使用人の言うことなんて⋯⋯おばさんは俺のことわかってくれますよね!? 将来この家を引き継いだらおばさんの世話だってちゃんとしてあげるし⋯⋯アーシェが⋯⋯アーシェは俺に惚れてて、んでヤキモチを焼いてキャサリンを虐めてばかりなんです。
だからちょっと注意しただけで⋯⋯」
「キャサリンと言うのは誰のことかしら?」
「え、おばさんもまだ知らないんですか? もうすぐ俺の義妹になるんですけど、すっごい美人で物知りなんです。俺が知らなかった我が家とかこの家の内情とか教えてくれて⋯⋯だからおばさんの老後のためにも俺を大切にした方がいいですよ」
バキリ
ほんの数日前に聞いたのと同じ扇子が割れる音が聞こえた。
「準成人になったばかりの青二才にわたくしの老後を心配される言われはないわ。そこにある紅茶まみれの書類を持ってさっさと帰りなさい。たとえ滲んで読めない箇所があろうとも内容の変更はないと覚えておくことね」
「ま、待って! この手紙は何かの間違いのはずで⋯⋯おじさんが勘違いしてるみたいなんです。多分ヤキモチを焼いたアーシェがあれこれくだらない事を言っておじさんはそれを信じたんだと思う。ちゃんと話せばわかるんです!」
「デイビッドが今日わたくしやアーシェに言った世迷い言も暴力行為も全て、ローゼンタール伯爵家から正式に抗議いたしますからね。帰り道はわかるでしょう? さっさと出ていきなさい!」
「お、おばさん? 何を⋯⋯え、俺が出てくって⋯⋯俺を追い出せるわけないじゃないですか⋯⋯⋯⋯そっか、おばさんまでアーシェに騙されてるんですね。今度キャサリンを連れてきますよ。そうすればアーシェの話が嘘だってすぐにわかるから」
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