【完結】チャンス到来! 返品不可だから義妹予定の方は最後までお世話宜しく

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8.最強王者決定戦

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「今度キャサリンを連れてきますよ。そうすればアーシェの話が嘘だってすぐにわかるから」

「そうね、次に会うときは是非その女の子を連れていらっしゃいな。日時を決めたら連絡するわね」

 リリベルに許された⋯⋯リリベルは怒っていないと確信したデイビッドが満面の笑みを浮かべた。

「良かった~、やっぱりおばさんは俺の味方なんだね。いや、本当にアーシェに騙されてるのかと思ってビックリしましたよ。でも、考えてみたらおばさんはキャンストルとローゼンタールの約束の内容を知ってるはずだから俺のことを無碍にできるわけがないんだ。
じゃ、今日は帰るから次に会うまでにアーシェにちゃんと言い聞かせておいてくださいね。キャサリンが怯えてここに来るのは嫌だって言い出したら可哀想だから、しっかりと躾をして下さい。んじゃ、よろしく~」

 横柄な態度でヒラヒラと手を振ったデイビッドが応接室を出て行った。

「⋯⋯⋯⋯あれが⋯⋯あれがこの家に婿に来る予定だなんて吐き気がするわ! そんな事になったら爵位と領地を返上して全財産を教会に寄付しますからね。あんなゲス野郎には雑草一本でさえ渡すものですか!」

(お母様が壊れちゃった! あのマナーに厳しいお母様が『ゲス野郎』だなんて)

「自分勝手で我儘放題のジジイどもの首を締め上げてやるわ!」

「お母様が⋯⋯ジジイを締め上げる⋯⋯ジジイって」







「フェックション⋯⋯」

「ハーハックション! どうも寒気がする⋯⋯温泉に入りすぎて風邪でもひいたかもしれん」

 呑気なコメントを口にしながら鼻をゴシゴシと擦ったのはランドルフ・キャンストル。

「いや、これは別もんじゃ。寒気ではのうて悪寒というやつじゃな。死んだ婆さんが癇癪を起こした時と同じ気配がする」

 妙に勘のいい⋯⋯的確に危険を察知したのがエマーソン・ローゼンタール。

 暑い季節に入る温泉は格別だと言いながら長湯をした後のエールを飲んでいたランドルフの手が止まった。

「レティの癇癪⋯⋯嘘だろう? 墓から念を飛ばしとるとでも言うのか? ま、まあミランダよりはマシじゃと思うがな」

 レティとは14年前に亡くなったエマーソンの妻。穏やかで優しい夫人だったがエマーソンの言動にキレると大剣を振り回して追いかけてくる女丈夫で、酔ったエマーソンは『魔王レティ様』と呼んで一昼夜正座させられたことがある。

 ミランダは21年前に亡くなったランドルフの妻で、領地に盗賊団が住みついた時に散弾を詰めたマスケット銃を抱えて飛び出した強者。ランドルフが悪ふざけした時、後頭部にシングルショット式の銃を突きつけられたのは数知れないと言う。

「まさかと思うがリリベルでは⋯⋯いやいやいやいや、あれがキレたらまずい⋯⋯レティよりヤバい」

 神妙な顔になったランドルフとエマーソンが顔を見合わせて荷物の片付けをはじめた。

「昔からエマーソンの第六感はよく当たるからのう」

「リリベルはレティに仕込まれて師匠レティを越えたからの。危険を察知する能力がなければローゼンタールでは行き抜けん」

「その点キャンストルの女傑は一度途切れとるから助かるわい。しかもライルのアホは女に騙されて托卵された間抜けじゃからな」

 散々な悪口を言い続ける老人達だが荷物をまとめる手が決して止まらないところにふたりの恐怖心と焦燥感が現れていた。


 トントントン⋯⋯


「ほら、やはりきたじゃろ?」

「きたな⋯⋯うん」

「ジャングルの奥地で人喰い人種に囲まれた時と同じ気配がするんじゃもん」

「あん時はお前を信じんで丸焼きにされかけたが⋯⋯今回は信じるぞ」

 ブツブツと言い合いながらドアを見つめる老人ふたり。


 トントントン⋯⋯


「やるか?」

「うん」

 フンスと気合を入れた老人ふたりが向かい合って立ち右手でフィストバンプした。

「「(せえのぉ)スイッ!」」

「くそお! 負けたぁ~、蟻など出すんじゃなかったわ」

「ふふん、早うもらってこい」

 老人ふたりが真剣に勝負していたのは遠い国のジャンケン。親指が象で人差し指は人間を表し、小指が蟻を意味している。象は人間に勝ち蟻に負け、人間は蟻に勝つ。

「遅くなってすまんのお」

 ジャンケンに負けたランドルフが手紙を受け取りかなり多めのチップを渡した。

「ほれ、予想通りローゼンタールの印が押されておる」

 テーブルの上に投げ出された手紙を見つめたエマーソンが溜息をついた。

「はぁ、前回これが届いた時は庭を百周するまで屋敷に入れんかったし、その前はツルツルに眉まで剃られてしもうたし⋯⋯今回はそれではすまんと全身の毛が言うておる気がする。
⋯⋯ランドルフ、わし最近目が霞んで字が読みにくくての。代わりに読んでく⋯⋯」

「嘘コケ! ついこの間狩りでワシより高得点じゃった奴が何を言いよる。こう言う時だけ年寄りのふりをするのはやめい!」

 荷物を詰め終わったランドルフがベッドにゴロンと横になるとエマーソンが観念したように手紙を開封しはじめた。

「何があったか知らんが諦めて首を差し出してこい。ワシはしばらく船にでも乗ってくるからの」

「喜べ。召喚状はふたり宛じゃ」

 目をキラキラと輝かせたエマーソンがランドルフに向けた手紙を楽しそうにひらめかせた。

「⋯⋯はあ!? ワシはお前と違うていい子にしとるわい。よ、呼び出されるはずはなかろう⋯⋯印はローゼンタールだけじゃし、ワシにはきとらんからな⋯⋯ワシは⋯⋯ワシは腰が痛くなってきおったし目も霞んできた気がする。医者に診てもらわんとならんから時間⋯⋯」

「最大級の危険が迫っとるに違いなかろう⋯⋯『商品について急ぎ詳細知りたし』としか書かれとらんのじゃもん。後は『ローゼンタール現当主としてはおふたり揃っての早期帰還をお勧めする』じゃと」

「終わった⋯⋯リリベルは魔王をオットマンがわりにできる女じゃからな」

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