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10.危機管理能力は生き残る術
「貴様には相変わらず危機管理能力が皆無じゃのう」
「なんじゃ、またお前の鼻毛がなんぞ教えてくれたか?」
「ああ、キャンストルに行くのは絶対にダメじゃとわしの耳毛が言いよる」
エマーソンが人差し指で耳を指しながらしたり顔で頷いた。
「キャンストル伯爵邸に行っても良いなら手紙の内容は違っておろうて」
前線に赴く戦士のような気迫のエマーソンをガン見していたランドルフが手紙の内容を思い出した。
『商品について急ぎ詳細知りたし』
『ローゼンタール現当主としてはおふたり揃っての早期帰還をお勧めする』
「急ぎ知りたし⋯⋯とっとと帰ってこいと言うのは理解できたが他にも何かあったかのう?」
「ケインが『ローゼンタールの現当主』とわざわざ書いたのはライルには関わるなと言う意味か、この件に関わらせないと言う宣言のどちらかじゃな。それに、早期帰還をお勧めする⋯⋯この文言はケインの脅しじゃ。好きにしてもええがタダじゃおかんからなって言うとる」
「う~ん、じゃがワシは眠いし腹が減った」
「バカ言え! ヌーの大移動を見に行ったのを覚えとるか? わしらは今ヌーとシマウマで、ワニの蔓延る川の前におる。ここを抜けねば次の飯にはありつけんから渡らにゃならん。
恐らくキャンストル伯爵邸にはワニはおらんが二度と草地には辿り着けんぞ」
「⋯⋯賭けるか?」
ふたりの中でも勢いで突っ走るタイプのランドルフが問いかけ、野生の勘で突き進んできたエマーソンが頷いた。
「おう、わしの愛馬のジェニーちゃんを賭けてもええ」
「お前の耳毛は信用できんがジェニーちゃんを賭ける程なら信用するしかあるまい」
老人ふたりは煙突から煙が上がり使用人達の気配がしはじめるまで屋敷から少し離れた場所で待機すると決めた。
門番に声をかけて屋敷に足を踏み入れたエマーソンとランドルフは風呂で丸洗いされてから食堂に案内された。
待っていたのはケインとリリベルとアーシェのみ。
エマーソンの背中に冷や汗が流れた。
(やはり⋯⋯この場にライルやデイビッドがおらんのは何かとんでもないことが起きとる)
ランドルフは安堵のため息を漏らした。
(ジェニーちゃんはワシのもんじゃな。皆ニコニコしとるではないか)
「エマーソンお祖父様とランドルフお祖父様、お久しぶりです」
簡単な挨拶を済ませて全員が席につくと普段より豪華な朝食が運ばれてきた。保養所の様子や移動の途中の見聞きした話で盛り上がる中で学園の期末試験でアーシェが2位だったと知ったエマーソンが相貌を崩した。
「アーシェは賢い上にますます美人になったのう! 土産を買う暇がなかったから後で何か買うてやろうな」
「美人で頭も良いアーシェと婚約できたデイビッドは果報者じゃ」
ランドルフの言葉で食堂内がピキッと凍りつきランドルフとエマーソン以外の全員が動きを止めた。
「ん? まさかと思うが⋯⋯デイビッドがなんぞやらかしたとかかのう。それならワシがキッチリと言い聞⋯⋯かせて⋯⋯」
ケインの眉間の皺とリリベルの手に瞬時に現れた短剣を見た能天気なランドルフは自分が危険地帯に足を踏み入れたことにようやく気付いた。
「え、えーっと⋯⋯アーシェ?」
「ランドルフお祖父様、お腹が空いておられたのでしょう? お食事を召し上がってくださいませ」
口元だけに笑みを浮かべたアーシェの顔には『食べられるうちに食べておいた方が良いですよ』と書いてあった。
食休みの後居間にやって来たランドルフとエマーソンは家具が一掃され背もたれ付きの椅子が三脚並ぶ前に古いスツールが二脚並んでいるのに気付いて覚悟を決めた。
「わしらは床に座った方がええかのう?」
「いえ、先ずはスツールへお座りくださいませ。お話をお聞きせねばなりませんから」
リリベルがピシリと手に打ち付けたのはレティから贈られた鉄扇。顔を見合わせたランドルフとエマーソンが恐る恐るスツールに腰掛けるとアーシェを真ん中にしてケインとリリベルの3人が背もたれ付きの椅子に腰掛けた。
「今回は私から質問させていただきます。デイビッドと私の婚約についてですが、政略結婚であっていますか?」
「⋯⋯ああ、わしらが貿易会社を作る時に決めたんじゃよ。縁戚になれば結束が固くなるからのう」
問いただすのがアーシェだからか少し安心したエマーソンが笑顔を浮かべた。
「お祖父様達がその約束をされて既に数十年経っておりますでしょう? 今までは一度も問題なく運営できてきましたのに今更必要があるとお思いですか?」
「あ~、まあ⋯⋯しかし普通はそんな感じで⋯⋯なあ」
「結束云々と言う戯言以外にも理由がおありなのではありませんか?」
「あ? いや⋯⋯それは」
「はっきり仰って下さいませ! ローゼンタール伯爵家の今後を左右する大切な問題ですから、誤魔化しや言い訳はお断り致します」
「昔はローゼンタールからの資金提供なんぞもあったがキャンストルは全額返済し終わっておるから⋯⋯後はまあ、ワシらの老後の楽しみ?」
「両方の血を分けたひ孫なら可愛がりやすいしのう⋯⋯な?」
「おう、さぞかし可愛かろうと⋯⋯」
ヒュン⋯⋯ヒュン⋯⋯
「ぐぇっ!」「ガハッ!」
リリベルの手にあったはずの鉄扇がエマーソンとランドルフの額をまっすぐに打ち抜いた。
「なんじゃ、またお前の鼻毛がなんぞ教えてくれたか?」
「ああ、キャンストルに行くのは絶対にダメじゃとわしの耳毛が言いよる」
エマーソンが人差し指で耳を指しながらしたり顔で頷いた。
「キャンストル伯爵邸に行っても良いなら手紙の内容は違っておろうて」
前線に赴く戦士のような気迫のエマーソンをガン見していたランドルフが手紙の内容を思い出した。
『商品について急ぎ詳細知りたし』
『ローゼンタール現当主としてはおふたり揃っての早期帰還をお勧めする』
「急ぎ知りたし⋯⋯とっとと帰ってこいと言うのは理解できたが他にも何かあったかのう?」
「ケインが『ローゼンタールの現当主』とわざわざ書いたのはライルには関わるなと言う意味か、この件に関わらせないと言う宣言のどちらかじゃな。それに、早期帰還をお勧めする⋯⋯この文言はケインの脅しじゃ。好きにしてもええがタダじゃおかんからなって言うとる」
「う~ん、じゃがワシは眠いし腹が減った」
「バカ言え! ヌーの大移動を見に行ったのを覚えとるか? わしらは今ヌーとシマウマで、ワニの蔓延る川の前におる。ここを抜けねば次の飯にはありつけんから渡らにゃならん。
恐らくキャンストル伯爵邸にはワニはおらんが二度と草地には辿り着けんぞ」
「⋯⋯賭けるか?」
ふたりの中でも勢いで突っ走るタイプのランドルフが問いかけ、野生の勘で突き進んできたエマーソンが頷いた。
「おう、わしの愛馬のジェニーちゃんを賭けてもええ」
「お前の耳毛は信用できんがジェニーちゃんを賭ける程なら信用するしかあるまい」
老人ふたりは煙突から煙が上がり使用人達の気配がしはじめるまで屋敷から少し離れた場所で待機すると決めた。
門番に声をかけて屋敷に足を踏み入れたエマーソンとランドルフは風呂で丸洗いされてから食堂に案内された。
待っていたのはケインとリリベルとアーシェのみ。
エマーソンの背中に冷や汗が流れた。
(やはり⋯⋯この場にライルやデイビッドがおらんのは何かとんでもないことが起きとる)
ランドルフは安堵のため息を漏らした。
(ジェニーちゃんはワシのもんじゃな。皆ニコニコしとるではないか)
「エマーソンお祖父様とランドルフお祖父様、お久しぶりです」
簡単な挨拶を済ませて全員が席につくと普段より豪華な朝食が運ばれてきた。保養所の様子や移動の途中の見聞きした話で盛り上がる中で学園の期末試験でアーシェが2位だったと知ったエマーソンが相貌を崩した。
「アーシェは賢い上にますます美人になったのう! 土産を買う暇がなかったから後で何か買うてやろうな」
「美人で頭も良いアーシェと婚約できたデイビッドは果報者じゃ」
ランドルフの言葉で食堂内がピキッと凍りつきランドルフとエマーソン以外の全員が動きを止めた。
「ん? まさかと思うが⋯⋯デイビッドがなんぞやらかしたとかかのう。それならワシがキッチリと言い聞⋯⋯かせて⋯⋯」
ケインの眉間の皺とリリベルの手に瞬時に現れた短剣を見た能天気なランドルフは自分が危険地帯に足を踏み入れたことにようやく気付いた。
「え、えーっと⋯⋯アーシェ?」
「ランドルフお祖父様、お腹が空いておられたのでしょう? お食事を召し上がってくださいませ」
口元だけに笑みを浮かべたアーシェの顔には『食べられるうちに食べておいた方が良いですよ』と書いてあった。
食休みの後居間にやって来たランドルフとエマーソンは家具が一掃され背もたれ付きの椅子が三脚並ぶ前に古いスツールが二脚並んでいるのに気付いて覚悟を決めた。
「わしらは床に座った方がええかのう?」
「いえ、先ずはスツールへお座りくださいませ。お話をお聞きせねばなりませんから」
リリベルがピシリと手に打ち付けたのはレティから贈られた鉄扇。顔を見合わせたランドルフとエマーソンが恐る恐るスツールに腰掛けるとアーシェを真ん中にしてケインとリリベルの3人が背もたれ付きの椅子に腰掛けた。
「今回は私から質問させていただきます。デイビッドと私の婚約についてですが、政略結婚であっていますか?」
「⋯⋯ああ、わしらが貿易会社を作る時に決めたんじゃよ。縁戚になれば結束が固くなるからのう」
問いただすのがアーシェだからか少し安心したエマーソンが笑顔を浮かべた。
「お祖父様達がその約束をされて既に数十年経っておりますでしょう? 今までは一度も問題なく運営できてきましたのに今更必要があるとお思いですか?」
「あ~、まあ⋯⋯しかし普通はそんな感じで⋯⋯なあ」
「結束云々と言う戯言以外にも理由がおありなのではありませんか?」
「あ? いや⋯⋯それは」
「はっきり仰って下さいませ! ローゼンタール伯爵家の今後を左右する大切な問題ですから、誤魔化しや言い訳はお断り致します」
「昔はローゼンタールからの資金提供なんぞもあったがキャンストルは全額返済し終わっておるから⋯⋯後はまあ、ワシらの老後の楽しみ?」
「両方の血を分けたひ孫なら可愛がりやすいしのう⋯⋯な?」
「おう、さぞかし可愛かろうと⋯⋯」
ヒュン⋯⋯ヒュン⋯⋯
「ぐぇっ!」「ガハッ!」
リリベルの手にあったはずの鉄扇がエマーソンとランドルフの額をまっすぐに打ち抜いた。
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