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13.最弱こそが最強と知る
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自分達の身勝手な行動が子や孫にまで影響していると知ったエマーソンとランドルフへの最終的なお仕置きは全てが終わってからとなった。
「但し、問題が解決するまで毎日中庭を百周と腹筋腕立て三百回です。何しろキャンストル伯爵家は子供と孫を超えて⋯⋯ひ孫が成長して会社を引き継ぐまで頑張らなくてはならなそうですし、エマーソンお義父様はそれを支えていかなくてはなりませんものね」
キャンストル伯爵家の執事セドリックはローゼンタール伯爵家の正門の前を行ったり来たりし続けていた。
(はあ、とうとうこの日がやってきた。キャンストル家の執事として何があっても雇い主の不利にならないように⋯⋯執事に黙秘権ってあったっけ? あー、もー無理!)
「あのぉ⋯⋯」
(あのケイン様とリリベル様を前にして誤魔化しきれる自信もないし黙秘する勇気もないよ~。
旦那様! なんで帰ってきてくださらないんだよお)
「あのぉ⋯⋯」
(ダメ元でギリギリまで戦って執事として頑張ったって気分だけでも味わう⋯⋯自信はないな。多分そんな余裕なんてない。
何か言われる前に土下座はどうだろう? ジャンピング土下座とかスライディング土下座っていうのもあるよなあ)
「あのぉ、キャンストル伯爵家の執事の⋯⋯」
(どうせ全部喋らされるならとっとと吐いて⋯⋯いや、それは流石に執事として嫌かも)
「あのぉ、キャンストル伯爵家執事のセドリック様ですよね。門を開けましょうか?」
「へ? き、君は⋯⋯あ、ああ。その制服はローゼンタール伯爵家の門番の! 少し考えごとをしていたものだから気付かずすまなかった」
何度も声をかけて無視され続けていた門番の声がようやくセドリックに届いた。
玄関に辿り着いたセドリックの唇は色をなくし蒼白な顔にはこれ以上はないと思える程の悲壮感が漂っていた。
「暑い中ご苦労様です。旦那様方は応接室でお待ちですのでこちらへどうぞ」
「お手間を取らせますがお願い致します」
(同じ執事でもこの違い⋯⋯やっぱり勤め先を間違ったよなぁ、それとも俺の力量不足か?)
ローゼンタール家の執事の後をついて歩きながらガックリと肩を落としたセドリックの目の前で地獄の門⋯⋯応接室のドアが開いた。
執事としての威厳をキャンストル家の裏口辺りに置き忘れたらしいセドリックは目を上げる勇気もなくギクシャクと部屋の中に入った。
(謝罪と土下座のどっちが最適解だ!?)
セドリックの頭の中に現れた天秤が謝罪に傾きかけた瞬間正面から低い声が聞こえてきた。
「セドリック、久しぶりだな」
「ひぃ! ももも、申し訳ありません。どど、どうかお許しをォォォ」
ピョンと飛び上がったセドリックは予定とは違う見事なジャンピング土下座を披露した。
「こここ、この度は我が、我が主人が大変ご迷惑をおかけし⋯⋯デデデ、デイビッド様もそそそ⋯⋯その」
「セドリック、落ち着いて話さんか。ワシじゃ、ランドルフじゃ」
床に頭をつけた状態で謝罪していたセドリックが固まった。
「随分と苦労をかけておったようじゃのう」
「へ?」
頭を上げたセドリックがポカンと口を開けてランドルフの顔を見つめた後滂沱の涙を流しはじめた。
「お、大旦那様ぁ! ああ、大旦那しゃまがぁぁぁ⋯⋯エグ、エグ⋯⋯ラ、ライル様が⋯⋯デイビッド様がぁ⋯⋯ エグ、エグ⋯⋯助けてくださいぃぃぃ、俺にはもうどうにもできましぇんからぁぁぁ! うわぁぁぁん」
「セドリックが壊れてしもうた。こりゃマズい」
まだ28歳のセドリックは執事見習いから執事に昇格してまだ3年の所謂新米。先代の執事が病気で長期療養が必要になり早期退職した為に急遽役職が繰り上がり、それ以来必死に頑張ってはいたが今回のような状況に対応できるほどのテクニックも回避できるほどの図太さも持ち合わせていなかった。
「お、おで⋯⋯執事失格で、申じ訳あびまじぇん」
床に座り込みハンカチで顔をゴシゴシと拭きながら謝り続けるセドリックの頭を撫でるランドルフは今までになく真面目な顔をしていた。
「ワシらの⋯⋯いや、ワシのせいじゃ。セドリックには責はないからのう、もう泣き止みなさい」
「お、大旦那様のお言葉なら旦那様のお耳にも届ぐばずでじゅ。もも、申し訳あびまじぇん」
ズビズビと鼻を啜りながら噛みまくりで謝っていたセドリックは盛大な音を立てて鼻をかみ⋯⋯苦笑いを浮かべたケインとリリベルに気付き慌てて頭を下げた。
「キャンストル家執事のセセ、セドリックと申します。何度もお問い合わせいただきました件に真面な返答もできず、大変申し訳ありませんでした」
「大体の事情は分かっているつもりだからそんなに萎縮しないでくれたまえ」
「ランドルフ様が責任を持って対処してくださるはずだもの。そうですわよねえ」
穏やかなケインの声に比べて威圧と嫌味を感じるリリベルの声にセドリックの足が震えはじめた。
「も、もちろんじゃとも。そのためにセドリックをここに呼んだのじゃからな。後はワシの仕事じゃがここ最近のキャンストル家の内情を教えてくれんかの?」
「えーっと、ここででしょうか? それは色々と問題がありまくりと申しますか⋯⋯できれば大旦那様とふたりで」
「セドリック、執事としては正しい判断じゃが⋯⋯もう隠し立てできる時期は過ぎたんじゃよ。キャンストルはローゼンタールに迷惑をかけすぎた」
「それは間違いないです。私の知っている事はそれほど多くありませんが⋯⋯こんなに長い間連絡が途絶えるなど話に聞いておりました昔の大旦那様のようで、どうすれ⋯⋯」
「ゴホンゴホン! あーあー、昔の話はさておき⋯⋯ライルから連絡は来ておらんのか?」
「但し、問題が解決するまで毎日中庭を百周と腹筋腕立て三百回です。何しろキャンストル伯爵家は子供と孫を超えて⋯⋯ひ孫が成長して会社を引き継ぐまで頑張らなくてはならなそうですし、エマーソンお義父様はそれを支えていかなくてはなりませんものね」
キャンストル伯爵家の執事セドリックはローゼンタール伯爵家の正門の前を行ったり来たりし続けていた。
(はあ、とうとうこの日がやってきた。キャンストル家の執事として何があっても雇い主の不利にならないように⋯⋯執事に黙秘権ってあったっけ? あー、もー無理!)
「あのぉ⋯⋯」
(あのケイン様とリリベル様を前にして誤魔化しきれる自信もないし黙秘する勇気もないよ~。
旦那様! なんで帰ってきてくださらないんだよお)
「あのぉ⋯⋯」
(ダメ元でギリギリまで戦って執事として頑張ったって気分だけでも味わう⋯⋯自信はないな。多分そんな余裕なんてない。
何か言われる前に土下座はどうだろう? ジャンピング土下座とかスライディング土下座っていうのもあるよなあ)
「あのぉ、キャンストル伯爵家の執事の⋯⋯」
(どうせ全部喋らされるならとっとと吐いて⋯⋯いや、それは流石に執事として嫌かも)
「あのぉ、キャンストル伯爵家執事のセドリック様ですよね。門を開けましょうか?」
「へ? き、君は⋯⋯あ、ああ。その制服はローゼンタール伯爵家の門番の! 少し考えごとをしていたものだから気付かずすまなかった」
何度も声をかけて無視され続けていた門番の声がようやくセドリックに届いた。
玄関に辿り着いたセドリックの唇は色をなくし蒼白な顔にはこれ以上はないと思える程の悲壮感が漂っていた。
「暑い中ご苦労様です。旦那様方は応接室でお待ちですのでこちらへどうぞ」
「お手間を取らせますがお願い致します」
(同じ執事でもこの違い⋯⋯やっぱり勤め先を間違ったよなぁ、それとも俺の力量不足か?)
ローゼンタール家の執事の後をついて歩きながらガックリと肩を落としたセドリックの目の前で地獄の門⋯⋯応接室のドアが開いた。
執事としての威厳をキャンストル家の裏口辺りに置き忘れたらしいセドリックは目を上げる勇気もなくギクシャクと部屋の中に入った。
(謝罪と土下座のどっちが最適解だ!?)
セドリックの頭の中に現れた天秤が謝罪に傾きかけた瞬間正面から低い声が聞こえてきた。
「セドリック、久しぶりだな」
「ひぃ! ももも、申し訳ありません。どど、どうかお許しをォォォ」
ピョンと飛び上がったセドリックは予定とは違う見事なジャンピング土下座を披露した。
「こここ、この度は我が、我が主人が大変ご迷惑をおかけし⋯⋯デデデ、デイビッド様もそそそ⋯⋯その」
「セドリック、落ち着いて話さんか。ワシじゃ、ランドルフじゃ」
床に頭をつけた状態で謝罪していたセドリックが固まった。
「随分と苦労をかけておったようじゃのう」
「へ?」
頭を上げたセドリックがポカンと口を開けてランドルフの顔を見つめた後滂沱の涙を流しはじめた。
「お、大旦那様ぁ! ああ、大旦那しゃまがぁぁぁ⋯⋯エグ、エグ⋯⋯ラ、ライル様が⋯⋯デイビッド様がぁ⋯⋯ エグ、エグ⋯⋯助けてくださいぃぃぃ、俺にはもうどうにもできましぇんからぁぁぁ! うわぁぁぁん」
「セドリックが壊れてしもうた。こりゃマズい」
まだ28歳のセドリックは執事見習いから執事に昇格してまだ3年の所謂新米。先代の執事が病気で長期療養が必要になり早期退職した為に急遽役職が繰り上がり、それ以来必死に頑張ってはいたが今回のような状況に対応できるほどのテクニックも回避できるほどの図太さも持ち合わせていなかった。
「お、おで⋯⋯執事失格で、申じ訳あびまじぇん」
床に座り込みハンカチで顔をゴシゴシと拭きながら謝り続けるセドリックの頭を撫でるランドルフは今までになく真面目な顔をしていた。
「ワシらの⋯⋯いや、ワシのせいじゃ。セドリックには責はないからのう、もう泣き止みなさい」
「お、大旦那様のお言葉なら旦那様のお耳にも届ぐばずでじゅ。もも、申し訳あびまじぇん」
ズビズビと鼻を啜りながら噛みまくりで謝っていたセドリックは盛大な音を立てて鼻をかみ⋯⋯苦笑いを浮かべたケインとリリベルに気付き慌てて頭を下げた。
「キャンストル家執事のセセ、セドリックと申します。何度もお問い合わせいただきました件に真面な返答もできず、大変申し訳ありませんでした」
「大体の事情は分かっているつもりだからそんなに萎縮しないでくれたまえ」
「ランドルフ様が責任を持って対処してくださるはずだもの。そうですわよねえ」
穏やかなケインの声に比べて威圧と嫌味を感じるリリベルの声にセドリックの足が震えはじめた。
「も、もちろんじゃとも。そのためにセドリックをここに呼んだのじゃからな。後はワシの仕事じゃがここ最近のキャンストル家の内情を教えてくれんかの?」
「えーっと、ここででしょうか? それは色々と問題がありまくりと申しますか⋯⋯できれば大旦那様とふたりで」
「セドリック、執事としては正しい判断じゃが⋯⋯もう隠し立てできる時期は過ぎたんじゃよ。キャンストルはローゼンタールに迷惑をかけすぎた」
「それは間違いないです。私の知っている事はそれほど多くありませんが⋯⋯こんなに長い間連絡が途絶えるなど話に聞いておりました昔の大旦那様のようで、どうすれ⋯⋯」
「ゴホンゴホン! あーあー、昔の話はさておき⋯⋯ライルから連絡は来ておらんのか?」
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