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オークリー&カルム

3.逃走失敗

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 セオが馬車に乗り込んできて、ドアの鍵を閉め馬車の屋根を叩くと、馬車はゆっくりと走り出した。


「港で抗争?」

「はい、港湾管理局が新しい関税を設けると言い出して船主達と揉めています。
既に、一触即発の状態だそうです」

 大通りには武器を持った船員達が集まり始め、辺りはますます騒がしくなってきた。

「ここは一旦オークリーに引き返して、騒ぎが落ち着いてからルーカスに任せましょう」

「そうね、とりあえずオークリーに戻りましょう」

 港の近くまで来ていた馬車は、大通りを外れてオークリーへの迂回路を走りはじめた。


 バーン! ガタン、ガコン。どーん。
「きゃあー」


 馬車が右に傾き車輪が外れた。

 斜めに傾いた馬車の中では、セオがリディアとマーサを抱え込んでいる。

「おい、さっさと出て来やがれ」

 複数の男達が馬車を揺さぶり、ドアを開けようとガタガタ揺らしている。

 セオ・マーサ・リディアの順に馬車から降りる。

「ひゅー、こいつはすげぇ」

 男達のヤジが飛んできた。


 セオがリディア達の前に立ちはだかり、きつい口調で睨みつけた。

「これはどう言う事だ!」

 男達の後ろで誰かが何か言っている。男達は顔を見合わせ、持っていた武器を下ろして後ろに下がった。

 1人のニールが前に出てきた。

「俺はあそこに見える船の船長、ニールだ。
あんたら港湾局の奴らじゃねえのか?」

 ニールは沖に止まっている船の中で、一番大きな船を指差した。
 その船は艦首を港に向けていて、いつでも臼砲を撃てるよう準備してある。


「ただの旅行者だ。随分と物騒な雰囲気だから、たった今引き返そうとしていたんだ」

「あー、そいつはすまねえ。
随分と立派な馬車だからよぉ、てっきり港湾局のお偉方が乗ってるんだと思ってな。
おい、誰か車大工を呼んでこい」

 男が1人、町に向けて走り出した。

 残った男達は、道を塞いでいた馬車を端に寄せた後、所在なげにウロウロしている。

 馬車の下を覗いていた男の1人が、

「こいつは修理に手間がかかりそうだな。車軸がモロにいっちまってやがる」

「馬は二頭とも怪我してなさそうだぜ」

 逃げ出していた御者が、恐る恐る帰ってきた。


「馬車が直るまで、この町に滞在するしかなさそうね」

「おう、宿に案内するぜ。
あんたらが普段泊まってる上品なとことは随分ちげえが、酒と料理はとびっきりだ。
お前ら、この方達の荷物を運びやがれ。
一つでも壊したりかっぱらったりしたらただじゃおかねえからな」

 ニールを先頭にして、混雑した道を歩いて行く。

 リディアは、小声でセオに話しかけた。
「ついでだから、ニールさんにお話を聞こうかしら」

「・・リディア様。まさかの参加ですか?」


「だって関税が増えたら困るでしょ」

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