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琥珀のネックレス

5.飛び降りは危険

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 リディアは振り返り男を呼び止めた。

「ちょっと良いかしら。
麝香? 珍しい香油を使っているのね」

「とある方からの頂き物でございます。従僕には分不相応ですが、とても気に入っておりまして」

 とても優雅にお辞儀をする従僕は自分の見目に相当な自信があるようで、リディアの前で気取ったポーズをとっている。

「その香りに覚えがあるの。先日部屋を間違えた方がつけていたわ」

 従僕は真っ青になり引き攣った笑いを浮かべ、
「何のことだか分かりかねます」

「ではその方に伝えて頂戴。今度お会いすることがあったら、ただではすまないって」


 硬直している従僕を残して馬車に乗り込んだ。

「リディア様、さっきのアレは何ですか?」

「セオ、顔が怖いわよ」

「マーサなら話してくれるかな? それともリディア様にお仕置きした方が?」

「先日公爵邸に泊まった時、お嬢様に夜這いをかけてきた男のようですね」

「くそっ」

 走っている馬車のドアを開けて飛び降りようとしたセオに飛び付き、

「危ない! セオやめて」

「リディア様、よくもそんな大事な事を隠しておられましたね」

「怒らないで、特に何も問題は起こらなかったんだから。
さっき釘を刺しておいたからもう大丈夫。
公爵家には極力近付かないようにするつもりだし」


 その後支店の応接室で、リディアに洗いざらい吐かせたセオは、

「はぁ、ほんの2週間ちょっとの間によくそれだけ問題を起こせましたね」

「私が起こしたわけじゃないわ。
向こうから問題がやってくるの、本当に不思議だわ。

やっぱりお守りでブルーアンバー身につけようかしら」

「駄目です。リディア様がこれ以上前向きになられたら周りの迷惑です」

「セオってマーサとすっごく気が合うわよね。
キャストライト十字石か、モリオン黒水晶はどうかしら?」

「不信心なリディア様にキャストライトは無理でしょう。
これ以上挑戦する意欲を高めてもらっても困りますし。
モリオンならお薦めだと思います」

 リディアは嬉しそうに両手を叩き、
「やっぱりマーサとそっくり同じ事を言ってるわ」



 数日後、ポーレット伯爵がリディアの自室に駆け込んできた。

「リディア準備できたぞ」

「お父様、何の準備ですの?」

「決まっているだろう。スペンサーに会いに行く。
当面の仕事は全て片付けたし、荷物も準備できたぞ。
後は馬車に積み込むだけで良い」

「荷物って何を準備されましたの?」

「勿論、着替えと保存の効く食料や香辛料。傷薬と畑で使う農機具なんかも準備した」

「お父様、お気持ちはよくわかるのですが、お兄様のことがランカスター伯爵にバレたら何を言い出すか分かりませんわ」

「それは分かっているから、どれも何種類も準備した。
篤志家からの寄付と言うことにすれば良かろうと思ってな」

「それは素敵な案ですわ。イーサンに連絡をして出発いたしましょう」

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