6 / 99
6.子供をさっくりと攻略する方法
しおりを挟む
「これからわたくしの部屋に遊びに来ない? 甘~いお菓子をちょっとだけ食べようかなって思ってるの」
「⋯⋯あ、あまい?」
「ええ、内緒にしてくれる? 他の人には秘密なの」
わたくしに弟や妹はおりませんが孤児院の子供達が教えてくれた必殺技です。『甘いおやつと秘密』には誰も勝てない⋯⋯ですわ。餌付けではありませんからね。
「ひみちゅ?」
「そう、ご飯の前だもの。秘密にできる?」
「うん」
伯爵家に仕えている使用人達は下位貴族やある程度裕福な平民の子女ばかりです。贅沢はできなくても守られた環境で育てられた人達ですからグレッグやチェイスの癇癪に対応できなかったのでしょう。
わたくしだって長年孤児院で大勢の子供達を見ていなければ彼女達と同じようになっていたでしょう。
突然知らないところに連れて行かれて大勢の大人に囲まれ、恐怖でパニックになり暴れる子供には何度も遭遇しました。
無関心な親に助けを求められない子もいました。ビビアン様の態度とグレッグの怯えた目はまさにあの子供達と同じで、グレッグの癇癪は助けて欲しいと言うビビアン様へのメッセージです。怯えた目をしていたのでそれだけではなさそうですが。
目の前の親に『助けて』と素直に言えないのは日常的に虐待を受けていた子供に多いとシスターは言っておられました。
嬉しそうな顔やほっとした顔のメイド達に部屋の掃除は任せてグレッグと一緒に部屋を出て自室に向かいました。
わたくしの部屋は2階の突き当たりにあります。日当たりが悪くベッド以外にはテーブルと椅子があるだけの小さな部屋ですが自分なりに工夫して居心地良くなっていると思います。
「椅子は高すぎて危険だわ⋯⋯うーんと、ベッドに座ってくれるかしら」
ぐっすり寝てしまったチェイスをベッドの真ん中に寝かせるとグレッグがその横に恐る恐る座りました。期待に輝いていた可愛い顔にはまた緊張と恐怖が戻っています。
テーブルの上に置いておいた小さな籠を取り上げてグレッグの横に置きわたくしも座ります。
これはお義母様達のティータイムのお茶請けの余り物なのですが、日持ちするお菓子を選んでメイド達が内緒で持ってきてくれるのです。今日はクッキーとマドレーヌがありました。
「一個だけどうぞ」
「⋯⋯いっこ?」
お菓子を見た途端キラキラ輝いた目が途端にドヨンと曇りました。見えない耳と尻尾が垂れ下がったみたいで思わず頭を撫でてしまい、驚いて飛び上がったグレッグの目がまん丸に。
ますます可愛くて手をワキワキしてしまいそうですがここはグッと我慢。少し癖のあるふわふわの金髪はちゃんと手入れをすればキラキラと輝くはずですし、少し痩せすぎなのもご飯をしっかり食べればプクプクのほっぺになりそうです。
流石、無駄に顔だけはいいステファン様の子供達ですね。ビビアン様も口を開かなければとても魅力的なお顔立ちをしておられましたもの。緩やかなウェーブのピンクブロンドが整ったお顔を縁取り、くるくると表情を変える大きな青い目にステファン様が目を奪われたのは当然かもと思います。
大きなお胸が羨ましいなんて思ってはおりませんわ。わたくしだってそれなりには⋯⋯ええ、まあ⋯⋯人それぞれですものね。わたくしは気にしておりませんとも、はい。
「ご飯をちゃんと食べられたらもう一個あげるけど?」
「うん!」
貝の形のマドレーヌをそっと口に運んだグレッグは大きく息を吸い込んでにぱっと笑い一気にマドレーヌを口に詰め込んで喉を詰まらせました。
「ゲフッ! ゴホッ、ゴホッ」
水差しから朝入れ替えた水をコップに入れてグレッグの口元に運びます。
「ほら、これを飲んで」
涙目で水を飲むグレッグは小さな両手でコップを抱え込んでの上目遣いです。『天使降臨』です。計算も何もない天然はわたくしの早期離婚計画に支障をきたしてしまう危険を孕んでいます。この子達に心惹かれて逃げ出すチャンスを失うわけには参りません。
早急に使用人達を魅了するよう手を打ちましょう。この屋敷の使用人達は皆とても良い方ばかりですから、この攻撃にやられれば必ず強力な防御を展開してくれる事でしょう。
先ずは執事からですね。彼を落としてしまえばメイド達は放っておいても落ちてしまうはずです。優秀で常に平静を保っている執事ですが、遠くに住んでいる孫になかなか会えずに落ち込んでいる事は知っておりますの。
グレッグに向かって伸びそうになる両手をぐっと握りしめているとドアが小さくノックされました。
「⋯⋯あ、あまい?」
「ええ、内緒にしてくれる? 他の人には秘密なの」
わたくしに弟や妹はおりませんが孤児院の子供達が教えてくれた必殺技です。『甘いおやつと秘密』には誰も勝てない⋯⋯ですわ。餌付けではありませんからね。
「ひみちゅ?」
「そう、ご飯の前だもの。秘密にできる?」
「うん」
伯爵家に仕えている使用人達は下位貴族やある程度裕福な平民の子女ばかりです。贅沢はできなくても守られた環境で育てられた人達ですからグレッグやチェイスの癇癪に対応できなかったのでしょう。
わたくしだって長年孤児院で大勢の子供達を見ていなければ彼女達と同じようになっていたでしょう。
突然知らないところに連れて行かれて大勢の大人に囲まれ、恐怖でパニックになり暴れる子供には何度も遭遇しました。
無関心な親に助けを求められない子もいました。ビビアン様の態度とグレッグの怯えた目はまさにあの子供達と同じで、グレッグの癇癪は助けて欲しいと言うビビアン様へのメッセージです。怯えた目をしていたのでそれだけではなさそうですが。
目の前の親に『助けて』と素直に言えないのは日常的に虐待を受けていた子供に多いとシスターは言っておられました。
嬉しそうな顔やほっとした顔のメイド達に部屋の掃除は任せてグレッグと一緒に部屋を出て自室に向かいました。
わたくしの部屋は2階の突き当たりにあります。日当たりが悪くベッド以外にはテーブルと椅子があるだけの小さな部屋ですが自分なりに工夫して居心地良くなっていると思います。
「椅子は高すぎて危険だわ⋯⋯うーんと、ベッドに座ってくれるかしら」
ぐっすり寝てしまったチェイスをベッドの真ん中に寝かせるとグレッグがその横に恐る恐る座りました。期待に輝いていた可愛い顔にはまた緊張と恐怖が戻っています。
テーブルの上に置いておいた小さな籠を取り上げてグレッグの横に置きわたくしも座ります。
これはお義母様達のティータイムのお茶請けの余り物なのですが、日持ちするお菓子を選んでメイド達が内緒で持ってきてくれるのです。今日はクッキーとマドレーヌがありました。
「一個だけどうぞ」
「⋯⋯いっこ?」
お菓子を見た途端キラキラ輝いた目が途端にドヨンと曇りました。見えない耳と尻尾が垂れ下がったみたいで思わず頭を撫でてしまい、驚いて飛び上がったグレッグの目がまん丸に。
ますます可愛くて手をワキワキしてしまいそうですがここはグッと我慢。少し癖のあるふわふわの金髪はちゃんと手入れをすればキラキラと輝くはずですし、少し痩せすぎなのもご飯をしっかり食べればプクプクのほっぺになりそうです。
流石、無駄に顔だけはいいステファン様の子供達ですね。ビビアン様も口を開かなければとても魅力的なお顔立ちをしておられましたもの。緩やかなウェーブのピンクブロンドが整ったお顔を縁取り、くるくると表情を変える大きな青い目にステファン様が目を奪われたのは当然かもと思います。
大きなお胸が羨ましいなんて思ってはおりませんわ。わたくしだってそれなりには⋯⋯ええ、まあ⋯⋯人それぞれですものね。わたくしは気にしておりませんとも、はい。
「ご飯をちゃんと食べられたらもう一個あげるけど?」
「うん!」
貝の形のマドレーヌをそっと口に運んだグレッグは大きく息を吸い込んでにぱっと笑い一気にマドレーヌを口に詰め込んで喉を詰まらせました。
「ゲフッ! ゴホッ、ゴホッ」
水差しから朝入れ替えた水をコップに入れてグレッグの口元に運びます。
「ほら、これを飲んで」
涙目で水を飲むグレッグは小さな両手でコップを抱え込んでの上目遣いです。『天使降臨』です。計算も何もない天然はわたくしの早期離婚計画に支障をきたしてしまう危険を孕んでいます。この子達に心惹かれて逃げ出すチャンスを失うわけには参りません。
早急に使用人達を魅了するよう手を打ちましょう。この屋敷の使用人達は皆とても良い方ばかりですから、この攻撃にやられれば必ず強力な防御を展開してくれる事でしょう。
先ずは執事からですね。彼を落としてしまえばメイド達は放っておいても落ちてしまうはずです。優秀で常に平静を保っている執事ですが、遠くに住んでいる孫になかなか会えずに落ち込んでいる事は知っておりますの。
グレッグに向かって伸びそうになる両手をぐっと握りしめているとドアが小さくノックされました。
38
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。
クロユキ
恋愛
「君には悪いけど、彼女が身籠る間の妻でいて欲しい」
平民育ちのセリーヌは母親と二人で住んでいた。
セリーヌは、毎日花売りをしていた…そんなセリーヌの前に毎日花を買う一人の貴族の男性がセリーヌに求婚した。
結婚後の初夜には夫は部屋には来なかった…屋敷内に夫はいるがセリーヌは会えないまま数日が経っていた。
夫から呼び出されたセリーヌは式を上げて久しぶりに夫の顔を見たが隣には知らない女性が一緒にいた。
セリーヌは、この時初めて夫から聞かされた。
夫には愛人がいた。
愛人が身籠ればセリーヌは離婚を言い渡される…
誤字脱字があります。更新が不定期ですが読んで貰えましたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
よどら文鳥
恋愛
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる