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41.進化と好き嫌い

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 子供達はお行儀良くそれぞれの席につき美味しいそうな料理の数々に目を輝かせています。

 少し危なっかしい手つきでスプーンやフォークを使っているグレッグは甘く味付けした野菜やシチューがお気に入りです。

 お兄ちゃんの真似をしてスプーンを使いたがるチェイスはあちこちに料理を飛び散らせるのが定番で、どうやら野菜よりお肉派のようです。

 2人に共通するのは果物好きなとこくらいで、今も食事をしながら林檎に目が釘付けです。

「にんじん、おいちぃ」

「あーん」

「いなない、それチェイスの」

 自分の嫌いな物をグレッグに押し付けようとするチェイスと、自分の好きな物を取られないように急いで食べるグレッグの攻防戦は何度見ても見飽きるということがありません。

 お兄様と歳が離れており一人っ子のように育ったわたくしには新鮮な光景です。孤児院の子供達の闘い方とも違っていてとても面白いのです。

 この屋敷でこの子達が食事をするのも明日の朝で終わりだと思うと、仲良くなったメイド達と子供達の食事風景を絵に残しておきたい気がしました。



 翌朝10時半、マーベル伯爵邸の外に大勢の騎馬の護衛を伴った3台の馬車が停まりました。

 いよいよです。

 青の間の窓からこっそりと覗いていると1台目の馬車から降りてきたフォレスト公爵の周りをコナー秘書官と護衛が固め、玄関に向かって歩いてくるのが見えました。それ以外に馬車の近くに残っている人達だけでも20人以上いそうです。

 全員が険しい顔をしていて威圧感たっぷりです。急いで見物に行かなくては面白いところを見損ねて⋯⋯状況が読めなくなってしまいそうです。

 そんなワクワクした気持ちで振り返ると子供達とメイド達は不安そうな顔をしていました。ごめんなさい、状況が分からなくて不安ですよね。

 もう少し辛抱してくださいね。


「お客様がお見えのようだわ、どなたがいらしたのかちょっと覗いてくるわね」

 部屋を出て階段に着き下を覗くと、髪を撫で付けていたのか頭に手を置いたエマーソンがフォレスト公爵の前で絶句していました。

「聞こえませんでしたか? マーベル中尉はご在宅ですか?」

 冷ややかな声はコナー秘書官です。

「ご、ご連絡は⋯⋯いた、いただいておりますでしょうか?」

 日に日に目の下のクマが酷くなっているエマーソンは数日前に仮面をどこかに置き忘れ能面執事は既に廃業しています。

「緊急の要件の為先触れは出しておりませんが、在宅しておられる事は確認済みです」

 居留守を使えないと分かったエマーソンの肩がガックリと落ちるのが遠くからでも分かる程でした。
 


「フォレスト閣下を玄関に立たせたままお待たせするのがマーベル伯爵家の流儀ですか?」

 コナー秘書官、張り切っておられます。

「も、申し訳ありません。応接室にご案内致します」

 青褪めて立ち尽くしていた従僕がエマーソンの指示で食堂に向けて走り出しました。

 悲壮な顔をしたエマーソンに続いてホールを抜けるフォレスト公爵様がチラッと階段上のわたくしを見て口元を綻ばせました。

 覗き見がバレて恥ずかしいですが、この後の惨劇は見逃せません。

 フォレスト公爵様達が応接室に入った後、ステファン様を先頭にしたマーベル一家が乱れた服装を整えながら勢揃いでホールを横切って行きます。

「こんな朝早くから一体何事なの!?」

「知らん! 知るわけがないだろうが!?」

「この格好でおかしくないかしら!?」


 全員が応接室に入った気配を確認して階段を降りそっと応接室に滑り込みました。フォレスト公爵様はソファに座りもせず仁王立ちしておられますし、護衛の方々は剣の鍔に手をかけておられます。

 ドアの両側に立っている護衛は逃亡防止のためでしょうか。

「この、このような朝早くからいかがなさいましたか? ご用がありましたら⋯⋯そう⋯⋯お呼び立ていただければこちらから伺いましたのですが?」

 マーベル伯爵はソファやお茶をお勧めする余裕さえなくしておられるようですが、土壇場に強いのは女性だというのは本当のようですね。

「フォレスト様、お会いできて光栄です! どうぞソファにお掛けになってくださいませ。今、当家自慢のお茶をお持ちいたしますから、ゆっくりなさってくださいませ」

 一歩前に出たアリシア様がにこやかに微笑んでおられるようです。

「マーベル中尉と第二夫人のビビアンさんには幼児虐待の容疑がかけられております。庶子2人をここに連れてきていただけますか」

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