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51.燃料追加は危険
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「今日はリリスティア様と子供達の護衛として参りました。マーベル伯爵家やソラリス侯爵家の不穏分子がいる可能性があり、ターニャだけでは全員を守りきれない可能性があると判断致しました」
フォレスト公爵様が誤解を解く為に丁寧な説明をしてくださいました。これで暴走は駆け足くらいになるはずです。
「ほう、ソラリスもか⋯⋯アレは屍肉を漁るブチハイエナのような奴じゃから用心するに越したことはなかろう。
彼奴は侯爵位を継いだくせにへっぽこでのう、悪知恵を働かせてあれこれと手を出しては失敗ばかりしておる。子爵位を継いだ弟が成功しておるのを妬んで足を引っ張ることしか考えておらんクズじゃ。
護衛役ならええじゃろう⋯⋯ターニャ、フォレスト殿に茶を淹れてくれんか?」
「全く、相変わらずのリリスティア様ラブですねぇ」
苦笑いを浮かべたターニャが席を立ちお茶を淹れはじめました。
「離婚が成立したら全力でアピールするつもりでおります」
あ、その情報は司教様が一気に加速してしまいます。
今はトーマス司教様を確実に仕留める⋯⋯落ち着かせられるセルゲイ爺ちゃんがいないのですから燃料の追加は危険です。
「あ? それはいかんぞ⋯⋯ターニャ、茶はなしじゃ! リリスティアにつく虫なんぞ排除じゃ排除。グレッグは許すが貴様はダメじゃ。漸く自由になれると言うのに、何処の馬の骨がわからん奴を寄せ付けるとか⋯⋯やはり毒薬を取りに⋯⋯」
「トーマス司教様~、そんな我儘言ってるとセルゲイ爺ちゃんに負けちゃいますよ~」
「ムムム!」
トーマス司教様とセルゲイ爺ちゃんは長年のライバルです。飄々とかわすセルゲイ爺ちゃんに突っかかるトーマス司教様⋯⋯正反対の性格ですが大の仲良しです。
しょっちゅう言い合いをしていますが、教会を抜け出したトーマス司教様がセルゲイ爺ちゃんの家に泊まり込み、エールを飲みながら一晩中語り合うくらいの親友です。
将来のグレッグとチェイスを見るような、ケニス先生とターニャの方が近いかもしれませんね。
「その坊主の戯言は置いておいて、さっさとクソ野郎を捨てるとするかのう。わしの手にかかれば明日にはリリスティア・ラングローズじゃ」
元気よく立ち上がったトーマス司教様⋯⋯白い離婚は申請してから受理されるまでに最低でも1週間位はかかるはずですよ?
教会が受理した後、教会から相手方に書類を送り異議申し立てがなければ成立すると聞いていますから。
それでも離婚届にサインをもらうより早いとは思いますけれど、今日の明日は無理じゃないでしょうか。
「ステファン様は今逮捕されて軍事刑務所に一時収監されていますから、簡単にはお会いできないと思います」
「心配せんでも、軍であろうが王家であろうがリリスの離婚を妨げる奴は蹴散らしてくれるわい」
トーマス司教様が仰ると嘘に聞こえません。まあ、迷子にならずに行きつければという注釈はつきますけど。
「トーマス司教様、迷子になったりして?」
ターニャも同意見でした。
「ブルス助祭を連れて行けば問題ない。あのデカい身体を見失う事はあり得んじゃろ?」
「確かに」
7フィート近くありそうな身長と子供を乗せても余りそうな肩幅⋯⋯物語に出てくる巨人族みたいだと思ったのは秘密です。見た目と違い笑い皺のある穏やかなお顔とお声をされていましたし、トーマス司教様の扱いにも手慣れておられたような気がします。
あの方が一緒なら心配性のターニャでも安心できるでしょう。軍事刑務所の塀を鼻息で吹き飛ばしそうな⋯⋯いえ、優しそうな聖職者でした。
ケーキのお陰でグレッグ達も落ち着いたようですから、隣の部屋にトーマス司教様と2人で移動しました。
既に大まかな状況はご存知なので大して説明することも残っておりません。お渡しした書類をトーマス司教様が精査する間に幾つかの確認と質問にお答えするだけですむはずです。
「あの坊主と結婚するんか?」
とんでもない方向から質問が飛んできました。トーマス司教様くらいのお年の方から見ると30前のフォレスト公爵様でも『坊主』扱いなのですね。
「お声をかけていただいてはおりますが、そうはならないと思います。ほんの数回しかお会いしたことがない方ですし、条件的にも合いませんし」
「フォレストと言えば王弟の息子か。戦争で大立ち回りをしたのが有名じゃが、何年か前に婚約者に捨てられた間抜け」
「よくご存知ですね」
意外でした。世俗のことには興味を示されないトーマス司教様がフォレスト公爵様のことをご存知だったとは。
「アンポンタンの上長じゃから調べたんじゃ。戦争終結の手口からして頭もキレそうじゃし、権力の使い所も弁えておる。
リリスは変な奴ばかりばかり拾うくせがあるから仕方ないが、頑固でひっついたら離れんオナモミみたいなとこもあるぞ。
しかもいい年して素人童貞と処女の組み合わせは⋯⋯面倒そうじゃのう」
思わず耳を塞ぎそうになりました。非常にプライベートな情報をサラッと暴露されても返答に困ります。この後どんな顔をすればいいのか⋯⋯。
「あの、資料の内容に移ってもいいでしょうか?」
フォレスト公爵様が誤解を解く為に丁寧な説明をしてくださいました。これで暴走は駆け足くらいになるはずです。
「ほう、ソラリスもか⋯⋯アレは屍肉を漁るブチハイエナのような奴じゃから用心するに越したことはなかろう。
彼奴は侯爵位を継いだくせにへっぽこでのう、悪知恵を働かせてあれこれと手を出しては失敗ばかりしておる。子爵位を継いだ弟が成功しておるのを妬んで足を引っ張ることしか考えておらんクズじゃ。
護衛役ならええじゃろう⋯⋯ターニャ、フォレスト殿に茶を淹れてくれんか?」
「全く、相変わらずのリリスティア様ラブですねぇ」
苦笑いを浮かべたターニャが席を立ちお茶を淹れはじめました。
「離婚が成立したら全力でアピールするつもりでおります」
あ、その情報は司教様が一気に加速してしまいます。
今はトーマス司教様を確実に仕留める⋯⋯落ち着かせられるセルゲイ爺ちゃんがいないのですから燃料の追加は危険です。
「あ? それはいかんぞ⋯⋯ターニャ、茶はなしじゃ! リリスティアにつく虫なんぞ排除じゃ排除。グレッグは許すが貴様はダメじゃ。漸く自由になれると言うのに、何処の馬の骨がわからん奴を寄せ付けるとか⋯⋯やはり毒薬を取りに⋯⋯」
「トーマス司教様~、そんな我儘言ってるとセルゲイ爺ちゃんに負けちゃいますよ~」
「ムムム!」
トーマス司教様とセルゲイ爺ちゃんは長年のライバルです。飄々とかわすセルゲイ爺ちゃんに突っかかるトーマス司教様⋯⋯正反対の性格ですが大の仲良しです。
しょっちゅう言い合いをしていますが、教会を抜け出したトーマス司教様がセルゲイ爺ちゃんの家に泊まり込み、エールを飲みながら一晩中語り合うくらいの親友です。
将来のグレッグとチェイスを見るような、ケニス先生とターニャの方が近いかもしれませんね。
「その坊主の戯言は置いておいて、さっさとクソ野郎を捨てるとするかのう。わしの手にかかれば明日にはリリスティア・ラングローズじゃ」
元気よく立ち上がったトーマス司教様⋯⋯白い離婚は申請してから受理されるまでに最低でも1週間位はかかるはずですよ?
教会が受理した後、教会から相手方に書類を送り異議申し立てがなければ成立すると聞いていますから。
それでも離婚届にサインをもらうより早いとは思いますけれど、今日の明日は無理じゃないでしょうか。
「ステファン様は今逮捕されて軍事刑務所に一時収監されていますから、簡単にはお会いできないと思います」
「心配せんでも、軍であろうが王家であろうがリリスの離婚を妨げる奴は蹴散らしてくれるわい」
トーマス司教様が仰ると嘘に聞こえません。まあ、迷子にならずに行きつければという注釈はつきますけど。
「トーマス司教様、迷子になったりして?」
ターニャも同意見でした。
「ブルス助祭を連れて行けば問題ない。あのデカい身体を見失う事はあり得んじゃろ?」
「確かに」
7フィート近くありそうな身長と子供を乗せても余りそうな肩幅⋯⋯物語に出てくる巨人族みたいだと思ったのは秘密です。見た目と違い笑い皺のある穏やかなお顔とお声をされていましたし、トーマス司教様の扱いにも手慣れておられたような気がします。
あの方が一緒なら心配性のターニャでも安心できるでしょう。軍事刑務所の塀を鼻息で吹き飛ばしそうな⋯⋯いえ、優しそうな聖職者でした。
ケーキのお陰でグレッグ達も落ち着いたようですから、隣の部屋にトーマス司教様と2人で移動しました。
既に大まかな状況はご存知なので大して説明することも残っておりません。お渡しした書類をトーマス司教様が精査する間に幾つかの確認と質問にお答えするだけですむはずです。
「あの坊主と結婚するんか?」
とんでもない方向から質問が飛んできました。トーマス司教様くらいのお年の方から見ると30前のフォレスト公爵様でも『坊主』扱いなのですね。
「お声をかけていただいてはおりますが、そうはならないと思います。ほんの数回しかお会いしたことがない方ですし、条件的にも合いませんし」
「フォレストと言えば王弟の息子か。戦争で大立ち回りをしたのが有名じゃが、何年か前に婚約者に捨てられた間抜け」
「よくご存知ですね」
意外でした。世俗のことには興味を示されないトーマス司教様がフォレスト公爵様のことをご存知だったとは。
「アンポンタンの上長じゃから調べたんじゃ。戦争終結の手口からして頭もキレそうじゃし、権力の使い所も弁えておる。
リリスは変な奴ばかりばかり拾うくせがあるから仕方ないが、頑固でひっついたら離れんオナモミみたいなとこもあるぞ。
しかもいい年して素人童貞と処女の組み合わせは⋯⋯面倒そうじゃのう」
思わず耳を塞ぎそうになりました。非常にプライベートな情報をサラッと暴露されても返答に困ります。この後どんな顔をすればいいのか⋯⋯。
「あの、資料の内容に移ってもいいでしょうか?」
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