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71.意外すぎる過去
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(これからパーティーだなんて信じられない。三日は続けて寝られそうなくらい疲れたわ)
噂で聞いておりましたパーティーの前準備が終わったわたくしの感想です。
丁寧で強烈なマッサージのお陰で長時間馬車に揺られた腰とお尻の痛みは取れましたが、疲れすぎて立ったまま寝てしまいそうです。
「ティア、凄く似合ってる。きっとパーティーで一番輝くのはティアだね。絶対にそばから離れないでくれ」
人生で言われた事など一度もない賛辞と熱い視線をノア様からいただき、恥ずかしさと嬉しさでぱっちりと目が覚めたわたくしは支度を手伝ってくれた侍女やメイドに礼を言って部屋を出ました。
「ノア様、ご存知だと思いますがわたくしのダンスは相変わらず壊滅的ですの。ですから、もし可能であればわたくしは足を痛め⋯⋯」
「大丈夫だから私に任せてくれないかな? このパーティー最大の楽しみなんだ」
まっすぐ前を向いてエスコートするノア様をチラッと見上げると、耳を少し赤くしておられましたが口元には笑みを浮かべておられます。
こんなふうに言っていただいたのに『でも』とは言えませんでした。
(為せば成る⋯⋯後は笑顔で誤魔化しましょう。ポケットにはグレッグのお守りも入っていますしね)
ゆっくりと階段を降りると微かに音楽が聞こえてきました。
格式ばったことがお嫌いな王太子殿下のパーティーは入場の際の派手なパフォーマンスがないと知りほっと胸を撫で下ろしました。大々的に名前を読み上げられて注目を集めるなど、想像しただけで眩暈がしそうですから。
ノア様は顔見知りの方も多く方々からお声がかかりますが、ずっとわたくしのそばにいて下さいました。
「ティア、バルコニーの近くにいる茶のコートの男性がドラミス侯爵で、周りにいるのが親戚や取り巻きだ。思ったより多いから取り敢えずドラミス卿だけ警戒してくれればいいからね」
ドラミス卿の周りには10人以上の方がおられます。皆様華やかな衣装を身につけておられてとても世慣れておられるご様子。
全員のお名前は分からずともお顔か衣装だけでも覚えようと思い、素知らぬふりをしながらもチラチラと様子を伺いました。
「フォレスト卿がレディをエスコートされるとは驚きですな」
「もしや、良いご縁に出逢われましたかな?」
男性陣の興味津々の目と女性陣の睨みつける視線に慣れた頃、正面の大扉から王太子殿下がおいでになられました。
流れていた音楽が少しだけ小さくなり一斉に礼をします。散々練習した気合いのカーテシーはなんとか様になっていると信じたいものですね。
「皆、今夜は来てくれてありがとう。気張らず楽しんで欲しい」
よく通るお声でとても簡潔な挨拶をされた王太子殿下です。会場中にほっとした空気が流れザワザワとした人の気配が戻ってきました。
ギギっと音がしそうな身体をゆっくりと伸ばしながら顔を上げると、笑みを堪えきれないといったご様子の王太子殿下と目があってしまいました。
慌てて目線を下げたわたくしの目線に艶やかに磨かれた靴が見えると同時に先程聞こえたのと同じ明瞭なお声が聞こえてきました。
「ノア、早く紹介してくれないか?」
「王太子殿下、3歳児でももう少し『待て』ができると思いますよ⋯⋯。
ロイド王太子殿下にご挨拶申し上げます。こちらはラングローズ子爵家のリリスティア様でいらっしゃいます」
「リリスティア・ラングローズが我が国の光、若き獅子ロイド王太子殿下にご挨拶申し上げます。この度はパーティーへの参加をご許可いただき心よりお礼申し上げます。不調法者故、お目汚しとなりませんよう願っております」
「丁寧な挨拶をありがとう。俺もティアと呼んでもいい⋯⋯あ、ダメ? ノアがそんなヤキモチ焼きとは知らなかったよ。では、なんて呼べばいい?」
ノア様に睨まれたらしく王太子殿下が笑いを堪えておられます。
「リリスティア嬢で良いのでは? もしくはラングローズ子爵令嬢。愛称で呼んだりしたら誤解を招く」
「えー! この様子だと長い付き合いになりそうじゃないか。なら、リリス嬢だな。これ以上の譲歩は認めん! それに、牽制にもなるだろう?」
馬車でお聞きしていたよりも王太子殿下とノア様は親しいようでほぼ敬語なしで話しておられます。近々王位を継承されると噂されておられる雲上人とタメ口で話をされるノア様が少し遠く感じられました。
今回のパーティーも継承前の地盤固めの一環だと聞いております。そのような大切なパーティーで粗相をしてノア様に恥をかかせないように致しませんと。
「俺とノアが幼馴染だっていうのは聞いてるかい? おやつを取り合って取っ組み合いの喧嘩とかしてたし、背中に虫を入れられたこともある」
「ロイド殿下も俺の本に落書きしたり落とし穴を掘ったりしてたな」
リアクションが取れず⋯⋯思わず吹き出してしまいました。ノア様が『俺』⋯⋯おやつで取っ組み合い?
「あの落とし穴かぁ、浅すぎて落ちたお前に引き摺り込まれたやつな。俺の黒歴史の中でもトップクラスだな」
楽しそうに昔話をしておられましたが他の方々とも話さなくてはならないからと側近に引きずっていかれたロイド殿下は、最後に少し小さなお声で囁かれました。
「気をつけろよ。もしもの時はパーティーを潰してもかまわん」
噂で聞いておりましたパーティーの前準備が終わったわたくしの感想です。
丁寧で強烈なマッサージのお陰で長時間馬車に揺られた腰とお尻の痛みは取れましたが、疲れすぎて立ったまま寝てしまいそうです。
「ティア、凄く似合ってる。きっとパーティーで一番輝くのはティアだね。絶対にそばから離れないでくれ」
人生で言われた事など一度もない賛辞と熱い視線をノア様からいただき、恥ずかしさと嬉しさでぱっちりと目が覚めたわたくしは支度を手伝ってくれた侍女やメイドに礼を言って部屋を出ました。
「ノア様、ご存知だと思いますがわたくしのダンスは相変わらず壊滅的ですの。ですから、もし可能であればわたくしは足を痛め⋯⋯」
「大丈夫だから私に任せてくれないかな? このパーティー最大の楽しみなんだ」
まっすぐ前を向いてエスコートするノア様をチラッと見上げると、耳を少し赤くしておられましたが口元には笑みを浮かべておられます。
こんなふうに言っていただいたのに『でも』とは言えませんでした。
(為せば成る⋯⋯後は笑顔で誤魔化しましょう。ポケットにはグレッグのお守りも入っていますしね)
ゆっくりと階段を降りると微かに音楽が聞こえてきました。
格式ばったことがお嫌いな王太子殿下のパーティーは入場の際の派手なパフォーマンスがないと知りほっと胸を撫で下ろしました。大々的に名前を読み上げられて注目を集めるなど、想像しただけで眩暈がしそうですから。
ノア様は顔見知りの方も多く方々からお声がかかりますが、ずっとわたくしのそばにいて下さいました。
「ティア、バルコニーの近くにいる茶のコートの男性がドラミス侯爵で、周りにいるのが親戚や取り巻きだ。思ったより多いから取り敢えずドラミス卿だけ警戒してくれればいいからね」
ドラミス卿の周りには10人以上の方がおられます。皆様華やかな衣装を身につけておられてとても世慣れておられるご様子。
全員のお名前は分からずともお顔か衣装だけでも覚えようと思い、素知らぬふりをしながらもチラチラと様子を伺いました。
「フォレスト卿がレディをエスコートされるとは驚きですな」
「もしや、良いご縁に出逢われましたかな?」
男性陣の興味津々の目と女性陣の睨みつける視線に慣れた頃、正面の大扉から王太子殿下がおいでになられました。
流れていた音楽が少しだけ小さくなり一斉に礼をします。散々練習した気合いのカーテシーはなんとか様になっていると信じたいものですね。
「皆、今夜は来てくれてありがとう。気張らず楽しんで欲しい」
よく通るお声でとても簡潔な挨拶をされた王太子殿下です。会場中にほっとした空気が流れザワザワとした人の気配が戻ってきました。
ギギっと音がしそうな身体をゆっくりと伸ばしながら顔を上げると、笑みを堪えきれないといったご様子の王太子殿下と目があってしまいました。
慌てて目線を下げたわたくしの目線に艶やかに磨かれた靴が見えると同時に先程聞こえたのと同じ明瞭なお声が聞こえてきました。
「ノア、早く紹介してくれないか?」
「王太子殿下、3歳児でももう少し『待て』ができると思いますよ⋯⋯。
ロイド王太子殿下にご挨拶申し上げます。こちらはラングローズ子爵家のリリスティア様でいらっしゃいます」
「リリスティア・ラングローズが我が国の光、若き獅子ロイド王太子殿下にご挨拶申し上げます。この度はパーティーへの参加をご許可いただき心よりお礼申し上げます。不調法者故、お目汚しとなりませんよう願っております」
「丁寧な挨拶をありがとう。俺もティアと呼んでもいい⋯⋯あ、ダメ? ノアがそんなヤキモチ焼きとは知らなかったよ。では、なんて呼べばいい?」
ノア様に睨まれたらしく王太子殿下が笑いを堪えておられます。
「リリスティア嬢で良いのでは? もしくはラングローズ子爵令嬢。愛称で呼んだりしたら誤解を招く」
「えー! この様子だと長い付き合いになりそうじゃないか。なら、リリス嬢だな。これ以上の譲歩は認めん! それに、牽制にもなるだろう?」
馬車でお聞きしていたよりも王太子殿下とノア様は親しいようでほぼ敬語なしで話しておられます。近々王位を継承されると噂されておられる雲上人とタメ口で話をされるノア様が少し遠く感じられました。
今回のパーティーも継承前の地盤固めの一環だと聞いております。そのような大切なパーティーで粗相をしてノア様に恥をかかせないように致しませんと。
「俺とノアが幼馴染だっていうのは聞いてるかい? おやつを取り合って取っ組み合いの喧嘩とかしてたし、背中に虫を入れられたこともある」
「ロイド殿下も俺の本に落書きしたり落とし穴を掘ったりしてたな」
リアクションが取れず⋯⋯思わず吹き出してしまいました。ノア様が『俺』⋯⋯おやつで取っ組み合い?
「あの落とし穴かぁ、浅すぎて落ちたお前に引き摺り込まれたやつな。俺の黒歴史の中でもトップクラスだな」
楽しそうに昔話をしておられましたが他の方々とも話さなくてはならないからと側近に引きずっていかれたロイド殿下は、最後に少し小さなお声で囁かれました。
「気をつけろよ。もしもの時はパーティーを潰してもかまわん」
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