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一回目 (過去)
58.大きなトランクの中身
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大きなトランクから一番初めに出てきたのはランプ。蜜蝋に火をつけると狭い部屋の中が一気に明るくなった。
元々置いてあった小さな机とがたつく椅子を廊下に出した後に置いたのは折りたたみ式の机と折り畳んだままの椅子二脚。
あちこちささくれている床にラグを敷きカーテンを取り付けた。ベッドを部屋の隅に押しつけて出来たスペースに丸めたマットと毛布を置いた。
その後工具を取り出したニールはドアに鍵をつけはじめた。金槌の音が響き使用人が怒鳴り込んできそうでローザリアがビクビクしていると、案の定ドカドカとわざとらしい音を立ててメイド長がやってきた。
「何やってるんですか!? うるさくて仕事になりゃしない。旦那様達はお食事中なんですから静かにして下さい!!」
「ローザリア様はこの家の娘のはずだが、何故食事に呼ばれないんですか?」
片膝をついて作業していたニールが金槌を右手に持ったまま立ち上がりメイド長に問いかけた。ナザエル枢機卿程ではないが背が高く筋肉質なニールは黙ったままでも迫力があるが今は武器を手にしている。
「は?」
「ローザリア様の食事はどうなっていますか?」
「ローザリア様の食事なんて」
「外出から帰られたのに湯を運んでこないのは何故ですか?」
「えっ? 湯?」
「お茶の湯だったり、手を清める湯だったりが必要だと思いますが?」
「それは⋯⋯」
よく通る声で淡々と質問を続けるニールと腰に手を当ていた手で揉み手をしながら尻すぼみになっていくメイド長。
「ローザリア様の部屋には鍵がついていませんでしたが他の部屋の防犯はどうなっていますか?」
「そっ、それは私には」
「ローザリア様の部屋の模様替えが終わるのはいつですか?」
「模様替え?」
「作業の邪魔なのでそこにいられたら迷惑です。廊下に出した机と椅子は使い物にならないので早急に片付けて下さい。それから部屋に持ち込んだものは全て教会所有のものですから破棄・破損等があれば弁償していただきます。宜しいですね」
立板に水の如く話したニールはメイド長の返事を待たずに鍵の取り付けを再開した。
ガンガンガン⋯⋯。
鍵を打つ音が再び響きはじめた。
「ローザリア様、いい加減にしてもらわないと迷惑です!」
「お借りした部屋の備品を守るためには鍵は必要ですし、これ以上遅くなれば寝ている時間に作業することになりますから⋯⋯仕方ありませんわ」
「奥様に申し上げてまいります! どうなっても知りませんよ!!」
金槌の音に負けないようにと大声を張り上げていたメイド長がドスドスと音を立てて階段を降りて行った。
カサンドラかウォレスが文句を言いにくるかと身構えていたが結局誰も来ないまま鍵の取り付けが終わった。
ニールがトランクから出した煉瓦を部屋の隅に積み上げポットを取り出した。
「ローザリア様、これに水を入れて頂けますか?」
ローザリアが恐る恐る水をポットに出すと煉瓦の上に置いてニールが火をつけた。
「お湯が沸いたら夕食にしましょう。それとも使用人が食事を持ってくるまでお待ちになられますか?」
「いえ、食事が届いたことはないので待たなくていいと思います」
「賢明です。あの様子だと持ってきたとしても碌なものはないでしょう」
話をしながらニールはカップや茶葉を出しサクサクと準備を続けている。
「狭い部屋だと思っていましたがニールさんの手にかかると必要なものがちゃんと収まっていくんですね」
「野営では狭いスペースでどれだけ効率良く物を置くか考えるので、そのイメージですね。ずっとこの部屋に?」
「はい、ずっとこの部屋に住んでいます」
「クローゼットを作りたいと思っていましたが流石に無理そうです。毎日のドレスは朝持ってくるようにしましょう」
トランクから淡い青紫に白の花柄を織り出したデイドレスまで出てきた。細身のボディスのウエスト部分はV字型になりウエストをよりほっそりと見せている。スカートは何枚も重ねたペチコートでふわっと広がり、上品な刺繍の施された飾り襟と腕に沿う細身の筒袖の細いシルクのリボンが可愛らしい。
「そこまでして頂くのは贅沢すぎます。もうこれで十分ですから」
「⋯⋯着替えは必要です」
昨日と同じデイドレスを着ていることに気づかれたのだろう。ローザリアは恥ずかしさで顔を赤くした。
ドスドス⋯⋯。
苛立たしげな足音と共に目を吊り上げたメイドがトレーを運んできた。
「ローザリア様ぁ、ご希望のお食事をお持ちしました。態々お運び致しましたので残されませんよう」
元々置いてあった小さな机とがたつく椅子を廊下に出した後に置いたのは折りたたみ式の机と折り畳んだままの椅子二脚。
あちこちささくれている床にラグを敷きカーテンを取り付けた。ベッドを部屋の隅に押しつけて出来たスペースに丸めたマットと毛布を置いた。
その後工具を取り出したニールはドアに鍵をつけはじめた。金槌の音が響き使用人が怒鳴り込んできそうでローザリアがビクビクしていると、案の定ドカドカとわざとらしい音を立ててメイド長がやってきた。
「何やってるんですか!? うるさくて仕事になりゃしない。旦那様達はお食事中なんですから静かにして下さい!!」
「ローザリア様はこの家の娘のはずだが、何故食事に呼ばれないんですか?」
片膝をついて作業していたニールが金槌を右手に持ったまま立ち上がりメイド長に問いかけた。ナザエル枢機卿程ではないが背が高く筋肉質なニールは黙ったままでも迫力があるが今は武器を手にしている。
「は?」
「ローザリア様の食事はどうなっていますか?」
「ローザリア様の食事なんて」
「外出から帰られたのに湯を運んでこないのは何故ですか?」
「えっ? 湯?」
「お茶の湯だったり、手を清める湯だったりが必要だと思いますが?」
「それは⋯⋯」
よく通る声で淡々と質問を続けるニールと腰に手を当ていた手で揉み手をしながら尻すぼみになっていくメイド長。
「ローザリア様の部屋には鍵がついていませんでしたが他の部屋の防犯はどうなっていますか?」
「そっ、それは私には」
「ローザリア様の部屋の模様替えが終わるのはいつですか?」
「模様替え?」
「作業の邪魔なのでそこにいられたら迷惑です。廊下に出した机と椅子は使い物にならないので早急に片付けて下さい。それから部屋に持ち込んだものは全て教会所有のものですから破棄・破損等があれば弁償していただきます。宜しいですね」
立板に水の如く話したニールはメイド長の返事を待たずに鍵の取り付けを再開した。
ガンガンガン⋯⋯。
鍵を打つ音が再び響きはじめた。
「ローザリア様、いい加減にしてもらわないと迷惑です!」
「お借りした部屋の備品を守るためには鍵は必要ですし、これ以上遅くなれば寝ている時間に作業することになりますから⋯⋯仕方ありませんわ」
「奥様に申し上げてまいります! どうなっても知りませんよ!!」
金槌の音に負けないようにと大声を張り上げていたメイド長がドスドスと音を立てて階段を降りて行った。
カサンドラかウォレスが文句を言いにくるかと身構えていたが結局誰も来ないまま鍵の取り付けが終わった。
ニールがトランクから出した煉瓦を部屋の隅に積み上げポットを取り出した。
「ローザリア様、これに水を入れて頂けますか?」
ローザリアが恐る恐る水をポットに出すと煉瓦の上に置いてニールが火をつけた。
「お湯が沸いたら夕食にしましょう。それとも使用人が食事を持ってくるまでお待ちになられますか?」
「いえ、食事が届いたことはないので待たなくていいと思います」
「賢明です。あの様子だと持ってきたとしても碌なものはないでしょう」
話をしながらニールはカップや茶葉を出しサクサクと準備を続けている。
「狭い部屋だと思っていましたがニールさんの手にかかると必要なものがちゃんと収まっていくんですね」
「野営では狭いスペースでどれだけ効率良く物を置くか考えるので、そのイメージですね。ずっとこの部屋に?」
「はい、ずっとこの部屋に住んでいます」
「クローゼットを作りたいと思っていましたが流石に無理そうです。毎日のドレスは朝持ってくるようにしましょう」
トランクから淡い青紫に白の花柄を織り出したデイドレスまで出てきた。細身のボディスのウエスト部分はV字型になりウエストをよりほっそりと見せている。スカートは何枚も重ねたペチコートでふわっと広がり、上品な刺繍の施された飾り襟と腕に沿う細身の筒袖の細いシルクのリボンが可愛らしい。
「そこまでして頂くのは贅沢すぎます。もうこれで十分ですから」
「⋯⋯着替えは必要です」
昨日と同じデイドレスを着ていることに気づかれたのだろう。ローザリアは恥ずかしさで顔を赤くした。
ドスドス⋯⋯。
苛立たしげな足音と共に目を吊り上げたメイドがトレーを運んできた。
「ローザリア様ぁ、ご希望のお食事をお持ちしました。態々お運び致しましたので残されませんよう」
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