62 / 191
一回目 (過去)
62.汚れた子供と王家の狙い
しおりを挟む
窓からチラリと覗くとどんどん人が集まっているようで騒ぎが大きくなっていく。それほど酷くない怪我なら治せる自信があるが今はまだ⋯⋯。それでも必要なら直ぐにでも馬車を飛び出すつまりでドアに手をかけていると、心配する大人達の声の合間に子供の甲高い声が聞こえてきた。
「はなせよ! けがなんてしてねえ、はなせってば!!」
「おい、落ち着けって!」
「うるさい! 水のせいじょさまがいんだろ!? おい、さわんなつっただろ! 水のせいじょさま、たすけてくれってば!!」
聞きなれない『水の聖女』と言う呼び名。
【ローザリアのことだね】
【ローザリアを呼んでるね】
そっとドアを開けて馬車から降りようとするとジャスパーが慌てて走ってきた。
「降りないで下さい。騒いでいるのは子供がひとりなので危険はないと思いますが、大勢人が集まっているので何があるかわかりませんから」
「その子は大丈夫ですか?」
「騎馬の護衛の前に飛び出してきただけで、器用に避けています。注意を引いて馬車を停めるためにやった、確信犯ですね」
ジャスパーの話では、騒いでいる子供は馬を避ける為に道の脇に転がった時砂まみれになったがどこも怪我はないという。
「取り押さえようとする大人達の方が引っ掻き傷やら打撲やらありそうな勢いです」
人混みをかき分けて戻ってきたナスタリア神父が馬車のドアが開きローザリアが降りかけているのを見て眉を吊り上げた。
「直ぐに出発しましょう。これだけ大勢が集まっていては何があるかわかりませんから」
「子供はどうなりましたか?」
「ニールが馬に乗せて教会に連れて行きます。取り敢えず風呂に入れないと」
余程強烈な臭いでもしていたのかナスタリア神父が鼻に皺を寄せている。
「参内するまでに時間がなければその後になりますが話を聞いてみましょう」
「あの子は私の事を呼んでいると精霊が言っていましたけど」
「ええ、そのようです。巷ではローザリア様の事を水の聖女と呼ぶ人がいますから」
ローザリアかリリアーナのどちらかは確定していないもののオーレアンで奇跡を起こしたのは『水の聖女』だと国中の評判になっている。
教会に着きナザエル枢機卿の執務室に腰を落ち着けた。珍しく不機嫌なナザエル枢機卿は足を組んでソファに座り大きな溜息をついた。
「ローザリアがあの馬車に乗ってたのを見ず知らずのガキが知ってた。
誰がバラした? 教会か? 公爵か? 分かったら締め上げてやる」
子供ひとりに手玉に取られたようで憤懣やるかたない様子のナザエル枢機卿の手には見事な引っ掻き傷ができている。
「子供だと思って侮っているからですよ」
少し楽しそうなナスタリア神父はローザリアと自分にはミルクと砂糖をたっぷりの甘い紅茶を準備し、ナザエル枢機卿の前にはナザエル秘蔵のブランデーを垂らした紅茶を置いた。
「水か」
「水ですね」
オーレアンから1ヶ月以上経ち国中の者が次の順番を争っている。権力で捩じ込もうとする者や金銭で押し切ろうとする者、縁故や知人のつてを使い融通をきかせろと言う者達が喧々囂々騒ぎ立てている。
内務大臣の元には領主や代理人が居座り続け嘆願書は山になり増え続けていると言う。
「今回の呼び出しはそれについてかもしれんな」
「その可能性はありますね。ローザリア様とリリアーナ様を競わせるつもりかもしれません」
2人を別の場所に派遣すれば実力を測る事もできるし一度に2箇所の問題を解決できる。
「それでリリアーナ嬢が失敗したらローザリアが王太子妃に確定してしまうな」
「それは避けなくてはなりませんが、恐らくリリアーナ様は成功すると思います」
「何か掴んだか?」
「カサンドラ様がデラントリア王国から魔道具を密輸したのを確認しました。精霊の力を使わず魔力のみで水を出せる魔道具ですが、かなり危険なもののようです」
デラントリア王国は精霊がほとんどいない代わりに魔道具の開発が盛んな国。魔物から取れる魔石と人の持つ魔力を使う魔道具は明かりを灯すような生活に関わる物から広域に結界を張るような物まで作られている。
ベネングラード王国は輸入を制限しているが珍しさもあり密輸入する者が後を絶たない。
今回カサンドラが買い求めたのは輸入が禁止されている大量の水を出す魔道具。大きな畑全体に水を散布したり、大火災の消火にも使われるそれは王家や一部の高位貴族だけが所持しているもの。
「発動には魔力の多い者でも数人が必要なものだそうです。リリアーナ様が上手く力を発現できなかった時に使用するつもりではないでしょうか」
「そんな代物を買う金がどこから出たのか気になるな」
コンコンとノックの音が聞こえニールが例の子供を連れてきた。
「はなせよ! けがなんてしてねえ、はなせってば!!」
「おい、落ち着けって!」
「うるさい! 水のせいじょさまがいんだろ!? おい、さわんなつっただろ! 水のせいじょさま、たすけてくれってば!!」
聞きなれない『水の聖女』と言う呼び名。
【ローザリアのことだね】
【ローザリアを呼んでるね】
そっとドアを開けて馬車から降りようとするとジャスパーが慌てて走ってきた。
「降りないで下さい。騒いでいるのは子供がひとりなので危険はないと思いますが、大勢人が集まっているので何があるかわかりませんから」
「その子は大丈夫ですか?」
「騎馬の護衛の前に飛び出してきただけで、器用に避けています。注意を引いて馬車を停めるためにやった、確信犯ですね」
ジャスパーの話では、騒いでいる子供は馬を避ける為に道の脇に転がった時砂まみれになったがどこも怪我はないという。
「取り押さえようとする大人達の方が引っ掻き傷やら打撲やらありそうな勢いです」
人混みをかき分けて戻ってきたナスタリア神父が馬車のドアが開きローザリアが降りかけているのを見て眉を吊り上げた。
「直ぐに出発しましょう。これだけ大勢が集まっていては何があるかわかりませんから」
「子供はどうなりましたか?」
「ニールが馬に乗せて教会に連れて行きます。取り敢えず風呂に入れないと」
余程強烈な臭いでもしていたのかナスタリア神父が鼻に皺を寄せている。
「参内するまでに時間がなければその後になりますが話を聞いてみましょう」
「あの子は私の事を呼んでいると精霊が言っていましたけど」
「ええ、そのようです。巷ではローザリア様の事を水の聖女と呼ぶ人がいますから」
ローザリアかリリアーナのどちらかは確定していないもののオーレアンで奇跡を起こしたのは『水の聖女』だと国中の評判になっている。
教会に着きナザエル枢機卿の執務室に腰を落ち着けた。珍しく不機嫌なナザエル枢機卿は足を組んでソファに座り大きな溜息をついた。
「ローザリアがあの馬車に乗ってたのを見ず知らずのガキが知ってた。
誰がバラした? 教会か? 公爵か? 分かったら締め上げてやる」
子供ひとりに手玉に取られたようで憤懣やるかたない様子のナザエル枢機卿の手には見事な引っ掻き傷ができている。
「子供だと思って侮っているからですよ」
少し楽しそうなナスタリア神父はローザリアと自分にはミルクと砂糖をたっぷりの甘い紅茶を準備し、ナザエル枢機卿の前にはナザエル秘蔵のブランデーを垂らした紅茶を置いた。
「水か」
「水ですね」
オーレアンから1ヶ月以上経ち国中の者が次の順番を争っている。権力で捩じ込もうとする者や金銭で押し切ろうとする者、縁故や知人のつてを使い融通をきかせろと言う者達が喧々囂々騒ぎ立てている。
内務大臣の元には領主や代理人が居座り続け嘆願書は山になり増え続けていると言う。
「今回の呼び出しはそれについてかもしれんな」
「その可能性はありますね。ローザリア様とリリアーナ様を競わせるつもりかもしれません」
2人を別の場所に派遣すれば実力を測る事もできるし一度に2箇所の問題を解決できる。
「それでリリアーナ嬢が失敗したらローザリアが王太子妃に確定してしまうな」
「それは避けなくてはなりませんが、恐らくリリアーナ様は成功すると思います」
「何か掴んだか?」
「カサンドラ様がデラントリア王国から魔道具を密輸したのを確認しました。精霊の力を使わず魔力のみで水を出せる魔道具ですが、かなり危険なもののようです」
デラントリア王国は精霊がほとんどいない代わりに魔道具の開発が盛んな国。魔物から取れる魔石と人の持つ魔力を使う魔道具は明かりを灯すような生活に関わる物から広域に結界を張るような物まで作られている。
ベネングラード王国は輸入を制限しているが珍しさもあり密輸入する者が後を絶たない。
今回カサンドラが買い求めたのは輸入が禁止されている大量の水を出す魔道具。大きな畑全体に水を散布したり、大火災の消火にも使われるそれは王家や一部の高位貴族だけが所持しているもの。
「発動には魔力の多い者でも数人が必要なものだそうです。リリアーナ様が上手く力を発現できなかった時に使用するつもりではないでしょうか」
「そんな代物を買う金がどこから出たのか気になるな」
コンコンとノックの音が聞こえニールが例の子供を連れてきた。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
594
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる