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一回目 (過去)
63.丸洗いされた少年の願い
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風呂に入り着替えを済ませた子供はローザリアを見つけた途端駆け出しニールに首根っこを掴まれた。
「くそっ、はなせ! おい、アンタが水のせいじょだろ? たのみがあるんだ!!」
ニールの手から逃れようと暴れながらも少年はローザリアから目を離さない。
「おい、頼みがあるってんなら先ず名前を言え。どこから来た?」
ローザリアしか見ていなかった少年の目に大きく威圧感たっぷりのナザエル枢機卿が目に入った。
「げっ、デカ! オ、オレはジェイク。ベッ、ベリントンのむらからちた!」
ニールに片手で吊り下げられたまま吃り吃り名乗ったジェイクはナザエル枢機卿の迫力に押されて⋯⋯噛んだ。
「ベリントンですか? 聞いたことがありませんが、どこにあるんですか?」
「フィッツバルドにある小さなむらなんだ。いどがカラカラで草もはえねえし、ひつじも死にかけてる。なあ、水をふらしにきてくれよ。
父ちゃんのはなしだとおーさまたちはえらいきぞくしかたすけねえし、アンタのオヤジはたかいかねをはらうやつしかあいてにしねえって言ってるんだろ?
りょーしゅさまはよわっちいし、ビンボーだからむりだって言うんだ。でもこのままじゃみんな死んじまう!」
ナザエル枢機卿を目に入れないようにローザリアだけを見つめながらジェイクが一生懸命に話した。
「ジェイク、お前の親父さんはどこでその話を聞いた?」
「ど、どのはなち?」
ナザエル枢機卿が話しかけるとジェイクは噛むらしい。
「どれもこれもだ」
「えーっと、父ちゃんはぎょーしょーにんからきいたって言ってた⋯ました。おーけがたすけるのはこうしゃく? とかだけだって。
んで、この人のオヤジさまは、かねをさきにはらったらじゅんばんに来てくれるとかなんとか⋯⋯です。
うちのりょーしゅさまがビンボーなのはむかしっからだしです」
アントン・フィッツバルド子爵の治める領地。弱小貴族のひとりで特に目立った特産品があるわけでもない。強いて言うなら長閑な自然と人の良さくらい。
あちこちおかしな話し方になりながらなんとか話し終えたジェイクはチラリと上を見上げニールの様子を伺った。
「なあ、そろそろ手をはなしてくんない?」
「先ず、人に物を頼みたいと思うなら『アンタ』は禁止だな。それと、この国は今みんな旱魃に苦しんでいて一日も早くなんとかしたいってみんな頭を抱えてるんだ」
「あたまをかかえるひまがあったらとっととケツを上げて水を出しまくりゃいいじゃんか」
子供ならではの素直な感想に思わず全員が首を縦にふりかけた。
「⋯⋯その通りなんだがなあ。大人には面倒くさいことが色々あるんだ」
「そんなこと言ってるあいだに、オレんとこの村なんてこのよからきえちまうよ。どうしてもダメなら、水のだしかたをおしえてくれねえかな?」
「⋯⋯水の聖女は精霊の力を借りて水を出すのだと知っていますか?」
「きょーかいは行ったことないけど知ってるよ、それくらい。父ちゃんが言ってたもん!
きょーかいはたまーに気がむいたら、カゴってのをくれるんだろ? で、それをつかったらいろんなすげえことができる! だからそれ、ちょーだい」
えっへんと胸を張ったジェイクは周りの大人が硬直したことに気づいておらず、自慢げな顔で腰に手を当てた。
呆然としたままのニールに吊り下げられたまま⋯⋯。
「「⋯⋯」」
「意外な盲点です」
「千年培ってきた教会の仕組みも体制も木っ端微塵だな」
「国法にも教会法にも抵触してはいないですし。ジェイク、領主様やお父様達から教会に行こうと言われたことはありませんか?」
「ない!」
「では、その村に加護のある人がいる可能性もあるんですね」
「「そうか!!」」
ローザリアの発言にナザエル枢機卿とナスタリア神父が立ち上がった。2人の勢いに怯えたジェイクが「ひっ!」と叫んでニールの足にしがみついた。
「村人の数は何人だ? 百人として加護が発現する割合は確か⋯⋯。その中に水の加護のある人がいれば」
ナスタリア神父は眼を眇めてジェイクを見ながら「こんな子が住んでる村なら確率が上がるかも」とぶつぶつ呟いている。
「なっ、なあ、オレなんかやっちゃった? しんぷさまがこわれた」
【この子は土の加護だよ】
「えっ? 本当に? ナスタリア神父、この子の神託の儀直ぐやって下さい!」
「もしかして?」
「はい、ありです」
「くそっ、はなせ! おい、アンタが水のせいじょだろ? たのみがあるんだ!!」
ニールの手から逃れようと暴れながらも少年はローザリアから目を離さない。
「おい、頼みがあるってんなら先ず名前を言え。どこから来た?」
ローザリアしか見ていなかった少年の目に大きく威圧感たっぷりのナザエル枢機卿が目に入った。
「げっ、デカ! オ、オレはジェイク。ベッ、ベリントンのむらからちた!」
ニールに片手で吊り下げられたまま吃り吃り名乗ったジェイクはナザエル枢機卿の迫力に押されて⋯⋯噛んだ。
「ベリントンですか? 聞いたことがありませんが、どこにあるんですか?」
「フィッツバルドにある小さなむらなんだ。いどがカラカラで草もはえねえし、ひつじも死にかけてる。なあ、水をふらしにきてくれよ。
父ちゃんのはなしだとおーさまたちはえらいきぞくしかたすけねえし、アンタのオヤジはたかいかねをはらうやつしかあいてにしねえって言ってるんだろ?
りょーしゅさまはよわっちいし、ビンボーだからむりだって言うんだ。でもこのままじゃみんな死んじまう!」
ナザエル枢機卿を目に入れないようにローザリアだけを見つめながらジェイクが一生懸命に話した。
「ジェイク、お前の親父さんはどこでその話を聞いた?」
「ど、どのはなち?」
ナザエル枢機卿が話しかけるとジェイクは噛むらしい。
「どれもこれもだ」
「えーっと、父ちゃんはぎょーしょーにんからきいたって言ってた⋯ました。おーけがたすけるのはこうしゃく? とかだけだって。
んで、この人のオヤジさまは、かねをさきにはらったらじゅんばんに来てくれるとかなんとか⋯⋯です。
うちのりょーしゅさまがビンボーなのはむかしっからだしです」
アントン・フィッツバルド子爵の治める領地。弱小貴族のひとりで特に目立った特産品があるわけでもない。強いて言うなら長閑な自然と人の良さくらい。
あちこちおかしな話し方になりながらなんとか話し終えたジェイクはチラリと上を見上げニールの様子を伺った。
「なあ、そろそろ手をはなしてくんない?」
「先ず、人に物を頼みたいと思うなら『アンタ』は禁止だな。それと、この国は今みんな旱魃に苦しんでいて一日も早くなんとかしたいってみんな頭を抱えてるんだ」
「あたまをかかえるひまがあったらとっととケツを上げて水を出しまくりゃいいじゃんか」
子供ならではの素直な感想に思わず全員が首を縦にふりかけた。
「⋯⋯その通りなんだがなあ。大人には面倒くさいことが色々あるんだ」
「そんなこと言ってるあいだに、オレんとこの村なんてこのよからきえちまうよ。どうしてもダメなら、水のだしかたをおしえてくれねえかな?」
「⋯⋯水の聖女は精霊の力を借りて水を出すのだと知っていますか?」
「きょーかいは行ったことないけど知ってるよ、それくらい。父ちゃんが言ってたもん!
きょーかいはたまーに気がむいたら、カゴってのをくれるんだろ? で、それをつかったらいろんなすげえことができる! だからそれ、ちょーだい」
えっへんと胸を張ったジェイクは周りの大人が硬直したことに気づいておらず、自慢げな顔で腰に手を当てた。
呆然としたままのニールに吊り下げられたまま⋯⋯。
「「⋯⋯」」
「意外な盲点です」
「千年培ってきた教会の仕組みも体制も木っ端微塵だな」
「国法にも教会法にも抵触してはいないですし。ジェイク、領主様やお父様達から教会に行こうと言われたことはありませんか?」
「ない!」
「では、その村に加護のある人がいる可能性もあるんですね」
「「そうか!!」」
ローザリアの発言にナザエル枢機卿とナスタリア神父が立ち上がった。2人の勢いに怯えたジェイクが「ひっ!」と叫んでニールの足にしがみついた。
「村人の数は何人だ? 百人として加護が発現する割合は確か⋯⋯。その中に水の加護のある人がいれば」
ナスタリア神父は眼を眇めてジェイクを見ながら「こんな子が住んでる村なら確率が上がるかも」とぶつぶつ呟いている。
「なっ、なあ、オレなんかやっちゃった? しんぷさまがこわれた」
【この子は土の加護だよ】
「えっ? 本当に? ナスタリア神父、この子の神託の儀直ぐやって下さい!」
「もしかして?」
「はい、ありです」
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