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ループ
152.無くしたもの
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朝靄の中、ナザエル神父の前にローザリアを乗せ北へ向かってひた走る4頭の馬。途中水場を見つけ休憩した後はまた無言で馬を走らせた。
夜の騒ぎを誰かが聞きつけたかもしれない。教会関係者が北の関所を朝早く抜けたと王家に知られれば腹を探られる可能性があり、銀髪の子供がいたと公爵家にバレたら誘拐だと騒がれる可能性もある。
昼食は馬を走らせながらパンを齧り、夕方になって漸く宿に入った。一階の食堂で夕食を取る前に部屋に集まり相談をはじめた。
「エリサ、公爵がお前達を探す可能性はどのくらいあると思う?」
「そうですね⋯⋯単純に考えればですけど、ローザリア様については形ばかりの捜索願いを出して終わりだと思います。私はただのメイドなので気にもされないと思いますが⋯⋯」
「王弟妃が口を出してきたら話が変わるな」
「はい、その時は私を誘拐犯すれば、ただの行方不明よりは本格的に捜索してもらえるでしょう」
「日にちずらせば良かった。ごめんね、エリサ」
「問題ありませんよ。ローザリア様を置いて逃げ出す気も、ローザリア様のいないお屋敷に留まる気持ちありませんでしたから」
「まあ、そん時は教会に二人で逃げ込んだって突っぱねてやる。虐待されていた令嬢が教会に助けを求めるのを手伝った事にすりゃあいい。そこはシスター・タニアに頼んどいたから心配ねえ」
(シスター・タニアか⋯⋯)
ローザリアは前回シスター・タニアが味方だったのか敵だったのか決めかねていた。旅の間は親切で優しかったが、最後に見たのは冷たい目で嘲笑うような顔をしていた。
(初めからとは思いたくない。でも、途中から変わるキッカケはなかったと思うんだけど)
「ローザリア、どうした?」
ぼうっと自分の手を見つめるローザリアに気付いたニールが声をかけた。
「えっ? いえ、なんでも⋯⋯」
(話すべき? でも、最後の時はパニックになっていてそう見えただけかもしれないし)
ニールとエリサとローザリアが一つの家族で、ナザエル神父とナスタリア助祭が親子の振りをすることになった。
「もう少し王都を離れたら荷馬車を手に入れる。そこまで来れば少しはゆっくり移動しても大丈夫だろう」
「あの、すみませんでした。私が軽率な行動を取らなかったら⋯⋯」
「ある意味ラッキーだったし、良いんじゃないかな?」
ニールが言っていたのはローザリアとエリサの髪の色の事。まだ薄暗い中で朝起き抜けのボヤけた頭だから、門番はローザリア達の銀髪に気付いていなかったみたいだと言う。
「周りに人が沢山いれば記憶に残った人もいるだろうしね」
夕食を終わらせて早々にベッドに入ったローザリアは前日の睡眠不足でぐっすりと眠り懐かしい夢を見た。
『ローザリアがマーガレットが好きなら今度部屋いっぱいにプレゼントするよ。で、甘くて美味しいショコラトルで乾杯しよう、だからさっさと戻ってこいよ⋯⋯愛してる⋯⋯だから、置いてかないでくれ』
「ローザリア様、ローザリア様⋯⋯」
声に誘われてフッと目を開くと心配そうなエリサの顔があった。泣いていたらしいローザリアの目元を拭っている。
「大丈夫ですか?」
「夢⋯⋯すごく懐かしい夢を見たの。私が無くしたもの。とっても大切だったのに、忘れて逃げ出したから、無くなっちゃったの」
「大切なものならきっとまた見つかりますよ。心配しないでお休み下さい」
「うん」
翌日からまた強行軍がはじまった。馬の体調だけに留意しながらとにかく距離を稼ぐ旅は馬に乗り慣れていないエリサの体力を削っていった。
「エリサ、大丈夫? 回復するね」
「ありがとうございます。精霊王様から加護を戴いたのですから、私も練習しなくてはいけませんね」
青褪めたエリサは気力だけで動いているように見えたが、それでも笑顔を絶やさない。ナザエル神父は早めに荷馬車を手に入れることに決めた。
王都を出て1週間でホルステン伯爵領についた。手に入れた古い荷馬車は速度が出なかったが、王都を出た後の強行軍のお陰で予定通りの日数で辿り着けた。
「賑わってんなあ」
(ここかなぁ⋯⋯こんなに流行ってるなら石碑があったとしても問題な⋯⋯)
【助けてあげて】
【苦しいって言って泣いてる】
(どっちの方向か分かる?)
【山の中】
【大きな木の上の方】
「山の方に行きたいです」
「分かった。とりあえず宿を決めてそこで山の情報を仕入れるか」
夜の騒ぎを誰かが聞きつけたかもしれない。教会関係者が北の関所を朝早く抜けたと王家に知られれば腹を探られる可能性があり、銀髪の子供がいたと公爵家にバレたら誘拐だと騒がれる可能性もある。
昼食は馬を走らせながらパンを齧り、夕方になって漸く宿に入った。一階の食堂で夕食を取る前に部屋に集まり相談をはじめた。
「エリサ、公爵がお前達を探す可能性はどのくらいあると思う?」
「そうですね⋯⋯単純に考えればですけど、ローザリア様については形ばかりの捜索願いを出して終わりだと思います。私はただのメイドなので気にもされないと思いますが⋯⋯」
「王弟妃が口を出してきたら話が変わるな」
「はい、その時は私を誘拐犯すれば、ただの行方不明よりは本格的に捜索してもらえるでしょう」
「日にちずらせば良かった。ごめんね、エリサ」
「問題ありませんよ。ローザリア様を置いて逃げ出す気も、ローザリア様のいないお屋敷に留まる気持ちありませんでしたから」
「まあ、そん時は教会に二人で逃げ込んだって突っぱねてやる。虐待されていた令嬢が教会に助けを求めるのを手伝った事にすりゃあいい。そこはシスター・タニアに頼んどいたから心配ねえ」
(シスター・タニアか⋯⋯)
ローザリアは前回シスター・タニアが味方だったのか敵だったのか決めかねていた。旅の間は親切で優しかったが、最後に見たのは冷たい目で嘲笑うような顔をしていた。
(初めからとは思いたくない。でも、途中から変わるキッカケはなかったと思うんだけど)
「ローザリア、どうした?」
ぼうっと自分の手を見つめるローザリアに気付いたニールが声をかけた。
「えっ? いえ、なんでも⋯⋯」
(話すべき? でも、最後の時はパニックになっていてそう見えただけかもしれないし)
ニールとエリサとローザリアが一つの家族で、ナザエル神父とナスタリア助祭が親子の振りをすることになった。
「もう少し王都を離れたら荷馬車を手に入れる。そこまで来れば少しはゆっくり移動しても大丈夫だろう」
「あの、すみませんでした。私が軽率な行動を取らなかったら⋯⋯」
「ある意味ラッキーだったし、良いんじゃないかな?」
ニールが言っていたのはローザリアとエリサの髪の色の事。まだ薄暗い中で朝起き抜けのボヤけた頭だから、門番はローザリア達の銀髪に気付いていなかったみたいだと言う。
「周りに人が沢山いれば記憶に残った人もいるだろうしね」
夕食を終わらせて早々にベッドに入ったローザリアは前日の睡眠不足でぐっすりと眠り懐かしい夢を見た。
『ローザリアがマーガレットが好きなら今度部屋いっぱいにプレゼントするよ。で、甘くて美味しいショコラトルで乾杯しよう、だからさっさと戻ってこいよ⋯⋯愛してる⋯⋯だから、置いてかないでくれ』
「ローザリア様、ローザリア様⋯⋯」
声に誘われてフッと目を開くと心配そうなエリサの顔があった。泣いていたらしいローザリアの目元を拭っている。
「大丈夫ですか?」
「夢⋯⋯すごく懐かしい夢を見たの。私が無くしたもの。とっても大切だったのに、忘れて逃げ出したから、無くなっちゃったの」
「大切なものならきっとまた見つかりますよ。心配しないでお休み下さい」
「うん」
翌日からまた強行軍がはじまった。馬の体調だけに留意しながらとにかく距離を稼ぐ旅は馬に乗り慣れていないエリサの体力を削っていった。
「エリサ、大丈夫? 回復するね」
「ありがとうございます。精霊王様から加護を戴いたのですから、私も練習しなくてはいけませんね」
青褪めたエリサは気力だけで動いているように見えたが、それでも笑顔を絶やさない。ナザエル神父は早めに荷馬車を手に入れることに決めた。
王都を出て1週間でホルステン伯爵領についた。手に入れた古い荷馬車は速度が出なかったが、王都を出た後の強行軍のお陰で予定通りの日数で辿り着けた。
「賑わってんなあ」
(ここかなぁ⋯⋯こんなに流行ってるなら石碑があったとしても問題な⋯⋯)
【助けてあげて】
【苦しいって言って泣いてる】
(どっちの方向か分かる?)
【山の中】
【大きな木の上の方】
「山の方に行きたいです」
「分かった。とりあえず宿を決めてそこで山の情報を仕入れるか」
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