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第7話 赤い羽根付き帽子の女-2-
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三男夫妻に先に帰宅すると断ってから、玄関ホールへ向かっていると、テューダー伯爵がアイザック様に声をかけてきた。
「もうお帰りですか?」
「ええ」
「最近、婚約されたと聞きましたが、こちらが噂の婚約者ですか。とても可愛らしい方だ。お祝いにうちのいいワインを差し上げたいと思うのですが帰りに立ち寄っていただけませんか。なかなかお目にかかれない年代物の逸品ですよ」
別宅の一つを歴代の愛人専用にしていたが、最近は、ワイン好きのキャロライン嬢のためにワインの貯蔵庫を作ったという。
「テューダー伯爵は、もう帰られてもよろしいのですか?」
「むしろ、もっと早く帰ってキャロラインの機嫌をとらないといけないくらいですよ。あとあと面倒になりますからな。わははは」
社交界の色男は豪快に笑った。
テューダー伯爵の馬車が先に行き、その先導についていく。
アイザック様が申し訳なさそうに言う。
「適当なところで切り上げられるようにするから、しばらく我慢してくれ」
「少し疲れてしまっただけですから大丈夫です。そんなに心配しないでください」
テューダー伯爵は爵位を継いだハワード家の長兄と親交が深いらしいが、アイザック様にとってはあまり気の合う人ではないようだ。
想像するにハワード家としては好きではないが無下にもできない相手といったところだろう。貴族もいろいろ大変だ。
20分ほど走っただろうか、伯爵のお屋敷が見えてきた。
そんなに大きな家ではないといってはいたが、とんでもない。立派な邸宅だ。
門をくぐると、玄関の扉が大きく開いているのが見えた。
なんか様子がおかしい。
テューダー伯爵が馬車を降り、慌てた様子で走っていくのが見えた。
私たちも急いで向かう。
玄関扉の向こう、広間の中央に真っ赤なドレスの女性が倒れていた。
床には血だまりができ、長く艶やかな黒髪は血で濡れている。
羽根付き帽子は踏みつけられ、潰れていた。
あちこちの引き出しが開けられ、調度品は乱れて、いくつかは床に転がっていた。
家人の留守を狙って忍び込んだ強盗が部屋をあさっているときにキャロライン嬢がタイミング悪く帰宅してしまい、居直った強盗に襲われたのだろうか。
遺体を一目見るなり、伯爵は膝から崩れおち、彼女の名前を呼びながら泣き叫んだ。
従者も後ろで茫然と突っ立っていたが、アイザック様は護衛官に知らせに行くよう言いつけた。
「あれ?」
私はあることに気付いた。
「どうした?」
「なぜ彼女は靴を履き替えているんでしょうか?」
「靴?」
「ええ、舞踏会では黒のパンプスを履いていたんです」
「今は赤いハイヒールだな」
床に横たわる女性が今履いているのは、綺麗な宝石で縁取られた、一目で高級品とわかる10センチのハイヒールだ。
あの靴ならドレスにもピッタリなのに、どうして何の飾りもついていないパンプスで舞踏会に履いてきたのだろう。
「どうやら、見た目通りの居直り強盗の仕業ではなさそうだな」
アイザック様の言葉に、私はこくりとうなずく。
「もうお帰りですか?」
「ええ」
「最近、婚約されたと聞きましたが、こちらが噂の婚約者ですか。とても可愛らしい方だ。お祝いにうちのいいワインを差し上げたいと思うのですが帰りに立ち寄っていただけませんか。なかなかお目にかかれない年代物の逸品ですよ」
別宅の一つを歴代の愛人専用にしていたが、最近は、ワイン好きのキャロライン嬢のためにワインの貯蔵庫を作ったという。
「テューダー伯爵は、もう帰られてもよろしいのですか?」
「むしろ、もっと早く帰ってキャロラインの機嫌をとらないといけないくらいですよ。あとあと面倒になりますからな。わははは」
社交界の色男は豪快に笑った。
テューダー伯爵の馬車が先に行き、その先導についていく。
アイザック様が申し訳なさそうに言う。
「適当なところで切り上げられるようにするから、しばらく我慢してくれ」
「少し疲れてしまっただけですから大丈夫です。そんなに心配しないでください」
テューダー伯爵は爵位を継いだハワード家の長兄と親交が深いらしいが、アイザック様にとってはあまり気の合う人ではないようだ。
想像するにハワード家としては好きではないが無下にもできない相手といったところだろう。貴族もいろいろ大変だ。
20分ほど走っただろうか、伯爵のお屋敷が見えてきた。
そんなに大きな家ではないといってはいたが、とんでもない。立派な邸宅だ。
門をくぐると、玄関の扉が大きく開いているのが見えた。
なんか様子がおかしい。
テューダー伯爵が馬車を降り、慌てた様子で走っていくのが見えた。
私たちも急いで向かう。
玄関扉の向こう、広間の中央に真っ赤なドレスの女性が倒れていた。
床には血だまりができ、長く艶やかな黒髪は血で濡れている。
羽根付き帽子は踏みつけられ、潰れていた。
あちこちの引き出しが開けられ、調度品は乱れて、いくつかは床に転がっていた。
家人の留守を狙って忍び込んだ強盗が部屋をあさっているときにキャロライン嬢がタイミング悪く帰宅してしまい、居直った強盗に襲われたのだろうか。
遺体を一目見るなり、伯爵は膝から崩れおち、彼女の名前を呼びながら泣き叫んだ。
従者も後ろで茫然と突っ立っていたが、アイザック様は護衛官に知らせに行くよう言いつけた。
「あれ?」
私はあることに気付いた。
「どうした?」
「なぜ彼女は靴を履き替えているんでしょうか?」
「靴?」
「ええ、舞踏会では黒のパンプスを履いていたんです」
「今は赤いハイヒールだな」
床に横たわる女性が今履いているのは、綺麗な宝石で縁取られた、一目で高級品とわかる10センチのハイヒールだ。
あの靴ならドレスにもピッタリなのに、どうして何の飾りもついていないパンプスで舞踏会に履いてきたのだろう。
「どうやら、見た目通りの居直り強盗の仕業ではなさそうだな」
アイザック様の言葉に、私はこくりとうなずく。
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