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ラウーラ、駆ける。
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「あの時の言葉は偽りだったのかな?ラウーラ」
「なんのことでしょうお父様」
「公爵家の令嬢が単身で魔物討伐に行くことが普通だとは思えないのだがね」
そんな天真爛漫なラウーラであったが、淑女教育は至って真面目に受けた。前世、一応は王族の端くれであっただけはあり、基本的な読み書き、マナーも、多少古臭い部分はあったが、大体出来た。そして元来努力家な彼女は新しい知識も貪欲に吸収していった。
それは例えば魔力操作などである。
「勇者グリフ」は人並みの魔力しか持っていなかったので、ラウーラにとってもこの膨大な魔力は未知の分野だ。多すぎる魔力は、正しく扱えないと諸刃の剣となる。公爵は、国でも名の知れた優秀な魔術師メキジャを幼いラウーラの師として雇った。
ちなみにラウーラは嬉々としていろいろな基本魔術をすっ飛ばし、まず最初に身体強化を会得した。
5歳になる頃には、騎士の鍛錬に参加するラウーラを、微笑ましいなどと思う騎士はいなくなった。身体強化を覚えたラウーラは、大人の騎士相手にほぼ対等に打ち合いが出来る様になったのだ。とはいえ、小さな身体ではどうにもならない面もあり、最近では長剣に、複数の短刀を組み合わせて使うようになっていた。
キンと練習用の剣がぶつかり合う。競り負け、跳ね飛ばされたラウーラはその反動でくるりと回りながら短刀を投げつける。
騎士がそれをはねのけるが、着地と同時にラウーラが足元に切り込みバランスを崩した。
「なんすかあの動き。えぐっ」
「うわ。あぁ、なるほど。そこでそういう。はぁ」
曰く、当然のことながら体力も筋力も年相応で、身体強化の魔術を使ってやっと人並み。実戦で役に立つかどうか。知識と素早さでごまかしているだけだとラウーラは笑った。
実戦とは?と騎士達は首をひねった。
「お願いですお嬢様!お考え直しください!!」
最近専属の侍女になったルルーが叫んだ。その悲痛な叫びにラウーラもまた断腸の思いで答えた。
「少しだけ、少しだけだから。お願いルルー!見逃してっ!」
ラウーラが気配を感じ取れる範囲で魔物が出たのだ。方角からして西の、湖があるあたり。大して強くない、数も少ない。5歳児にぴったりの魔物だ。
「すぐ、戻るから!」
馬小屋から馬一頭を拝借し、ラウーラは生き生きと駆けていった。
そして冒頭に戻る。
見つけたのはツノウサギという本当に小さい魔物だ。攻撃どうの、というよりとにかく逃げ足が速い。5羽のツノウサギを馬にぶら下げ、返り血を浴びたまま意気揚々と屋敷に戻ったのは流石にまずかった。
「申し訳ございません!今後は見つからない様に気をつけます!」
「全く」と魔術師メキジャは半目でラウーラをにらんだ。
「私まで公爵様に怒られてしまったではないですか!私が身体強化の術を教えたからだと」
「メキジャ先生にまでご迷惑おかけしまうとは、本当に申し訳ないです………………」
ラウーラはうなだれた。ふて腐れたともいう。
「ハァ…教え子の尻拭いをするのも師の役目ですからね。今後はせめてこれを使って下さい」
メキジャが口を尖らせながら黒いマントをラウーラに差し出した。
「はい、ではラウーラ様問題です。ここにいくつか魔術式が刺繍してあります。何の効果か分かりますか?」
メキジャが指さしたフードを見れば、一見ただの模様に見える、しかし複雑な刺繍がたくさん施してあった。
「えっと。これは浄化ですね。汚れが付きにくくなる。それから視覚…えーっと透ける?これは明かり。となると、フード越しでも周りが見える?それとこっちは、阻害、視覚、揺らぎ……認識阻害でしょうか?」
「正解です。ただ認識阻害に関しては無申請で使えるランクのものですから、なんとなくわかりづらい程度の効果です。知り合いや間近でジロジロ見られたりすれば気づかれますので気をつけてください」
「十分ですよ。うわあ!これで気兼ねなく出かけられますね!」
ラウーラは早速マントを羽織り、フードをかぶるとくるりと回って見た。
「動きやすさも、視界も問題ないです。良いですねこれは」
ニコニコと嬉しそうに笑う姿は確かに5歳の女の子であった。
それからというもの、ラウーラは魔物の気配を感じたり、公爵家に魔物の情報が送られて来たりすると、腰に剣を刺し、黒いマントを羽織ってこっそり出掛ける様になった。
そんな風に健やかに育ったラウーラが7歳になった頃、王城から茶会の招待状が届いた。
「頼むラウーラよ。アルフレッド殿下の前では大人しい、普通の令嬢として振舞ってくれ」
「もちろんですわお父様!おまかせください!!」
ラウーラは拳を握り力強く答えた。
「なんのことでしょうお父様」
「公爵家の令嬢が単身で魔物討伐に行くことが普通だとは思えないのだがね」
そんな天真爛漫なラウーラであったが、淑女教育は至って真面目に受けた。前世、一応は王族の端くれであっただけはあり、基本的な読み書き、マナーも、多少古臭い部分はあったが、大体出来た。そして元来努力家な彼女は新しい知識も貪欲に吸収していった。
それは例えば魔力操作などである。
「勇者グリフ」は人並みの魔力しか持っていなかったので、ラウーラにとってもこの膨大な魔力は未知の分野だ。多すぎる魔力は、正しく扱えないと諸刃の剣となる。公爵は、国でも名の知れた優秀な魔術師メキジャを幼いラウーラの師として雇った。
ちなみにラウーラは嬉々としていろいろな基本魔術をすっ飛ばし、まず最初に身体強化を会得した。
5歳になる頃には、騎士の鍛錬に参加するラウーラを、微笑ましいなどと思う騎士はいなくなった。身体強化を覚えたラウーラは、大人の騎士相手にほぼ対等に打ち合いが出来る様になったのだ。とはいえ、小さな身体ではどうにもならない面もあり、最近では長剣に、複数の短刀を組み合わせて使うようになっていた。
キンと練習用の剣がぶつかり合う。競り負け、跳ね飛ばされたラウーラはその反動でくるりと回りながら短刀を投げつける。
騎士がそれをはねのけるが、着地と同時にラウーラが足元に切り込みバランスを崩した。
「なんすかあの動き。えぐっ」
「うわ。あぁ、なるほど。そこでそういう。はぁ」
曰く、当然のことながら体力も筋力も年相応で、身体強化の魔術を使ってやっと人並み。実戦で役に立つかどうか。知識と素早さでごまかしているだけだとラウーラは笑った。
実戦とは?と騎士達は首をひねった。
「お願いですお嬢様!お考え直しください!!」
最近専属の侍女になったルルーが叫んだ。その悲痛な叫びにラウーラもまた断腸の思いで答えた。
「少しだけ、少しだけだから。お願いルルー!見逃してっ!」
ラウーラが気配を感じ取れる範囲で魔物が出たのだ。方角からして西の、湖があるあたり。大して強くない、数も少ない。5歳児にぴったりの魔物だ。
「すぐ、戻るから!」
馬小屋から馬一頭を拝借し、ラウーラは生き生きと駆けていった。
そして冒頭に戻る。
見つけたのはツノウサギという本当に小さい魔物だ。攻撃どうの、というよりとにかく逃げ足が速い。5羽のツノウサギを馬にぶら下げ、返り血を浴びたまま意気揚々と屋敷に戻ったのは流石にまずかった。
「申し訳ございません!今後は見つからない様に気をつけます!」
「全く」と魔術師メキジャは半目でラウーラをにらんだ。
「私まで公爵様に怒られてしまったではないですか!私が身体強化の術を教えたからだと」
「メキジャ先生にまでご迷惑おかけしまうとは、本当に申し訳ないです………………」
ラウーラはうなだれた。ふて腐れたともいう。
「ハァ…教え子の尻拭いをするのも師の役目ですからね。今後はせめてこれを使って下さい」
メキジャが口を尖らせながら黒いマントをラウーラに差し出した。
「はい、ではラウーラ様問題です。ここにいくつか魔術式が刺繍してあります。何の効果か分かりますか?」
メキジャが指さしたフードを見れば、一見ただの模様に見える、しかし複雑な刺繍がたくさん施してあった。
「えっと。これは浄化ですね。汚れが付きにくくなる。それから視覚…えーっと透ける?これは明かり。となると、フード越しでも周りが見える?それとこっちは、阻害、視覚、揺らぎ……認識阻害でしょうか?」
「正解です。ただ認識阻害に関しては無申請で使えるランクのものですから、なんとなくわかりづらい程度の効果です。知り合いや間近でジロジロ見られたりすれば気づかれますので気をつけてください」
「十分ですよ。うわあ!これで気兼ねなく出かけられますね!」
ラウーラは早速マントを羽織り、フードをかぶるとくるりと回って見た。
「動きやすさも、視界も問題ないです。良いですねこれは」
ニコニコと嬉しそうに笑う姿は確かに5歳の女の子であった。
それからというもの、ラウーラは魔物の気配を感じたり、公爵家に魔物の情報が送られて来たりすると、腰に剣を刺し、黒いマントを羽織ってこっそり出掛ける様になった。
そんな風に健やかに育ったラウーラが7歳になった頃、王城から茶会の招待状が届いた。
「頼むラウーラよ。アルフレッド殿下の前では大人しい、普通の令嬢として振舞ってくれ」
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ラウーラは拳を握り力強く答えた。
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